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10話 おきのどくですが、スケジュールとかは特にないです

「油断大敵。我ながらいいコンセプトができたわ。リザ、ハピたす。早速ダンジョンを掘りに行くわよ」


コンセプトが決まったことで、勢いが乗ったのかローゼリアは早速、一室から飛びそうとする。


「ちょっと待ったーー!」


俺は、意気揚々と足早に駆け出すローゼリアの尻尾を掴んで止めた。

全力で走ろうとしていたローゼリアはそのまま地面にむにゅと音を立てて倒れ込んだ。


「っ! 痛いじゃない。なんで邪魔するのよ!」


鼻を真っ赤にしたローゼリアが瞳を潤ませながら睨んでくる。


「いや、コンセプトがあるだけじゃ作れないだろう」

「どうしてよ。油断大敵っていう言葉の通りに作っていくだけでしょう」

「いや、どのフロアでどれくらい油断大敵させるか、が何も決まってないじゃないか」

ローゼリアは、口元を結んで何か言いたそうにしている。


「まだやることがあるんですか〜?って顔をしているが、コンセプトの次は計画だ」

「計画って何をすればいいのよ」

「そうだな。このまま何もしない場合、リザとハピたすはそれぞれ何から始めたほうがいいと思う?」


「そんなのなるはやで……」

ローゼリアは途中まで言いかけた言葉を詰まらせる。

「そうだ。何から始めていいかわからないし、リザとハピもどの作業にどれくらい時間をかけていいのかわからないだろう」

「それはそうね」

下を向き、不服そうに足もとに転がる石ころを蹴る。


「ちなみに、聞いてもムダだと思うけど、今のダンジョンをつくる時に作った計画みたいなものはないのか」


「チョット何ヲ言っているのかワカラナイヮ」


視線を外したローゼリアは、いつもよりもせやしなく早口でぼそぼそと呟く。

「なんで、片言なんだよ! 逆に怪しすぎるわ!」

かまをかけてみるか。


「あのローゼリアの執務スペースの机にあるんじゃないか?」

「はぁ!? そんなところにあるワケないでしょ!」

急に声が大きくなった。これは図星でしかない。


「じゃあ、ちょっとおじゃましまーす!!」


「ああ、止めなさい! アナタ、乙女のプライバシーを侵害するの? 訴えるわよ! こんなのハラスメントよ! 魔界ハラスメント!!」


こんなブラックな環境下でいったいどこに訴えるんだか。


押し迫ってくるローゼリアを片腕で押さえつけて、もう片方で書類の山を搔きわける。


「リザ、ハピたす! アナタたちも見てないで手伝いなさいよ!」

「あはは。まあヨッシーに見てもらった方が早いんじゃない?」

「ロゼちゃん。隠し事しても仕方ないかも」

「ああ、これか? ダンジョン計画書_最新版コピー_コピーって冒頭に書かれているが……」

「ちょっと止めなさいよ!」

ペラ1の紙を見てみると、そこにはわずかな文字が綴られているだけだった。



ダンジョン計角

火山を生かしてマグマ床を用意する

やってきた勇者たちをそこに落とす

いっぱい倒して大魔王に!



「は? これだけか? なんだこの小学生の感想みたいな文章は? 計画の漢字も違うみたいだし」

「ええ、これだけよ! だから見られたくなかったの。どうせ脳みそはスライムですよ」

そこまでは言ってはいないのだが、脳ではなく、胸元に栄養をドレインされたのかもしれない。


「ほんと、よく今までここまでこれたな。逆に凄いよ。凄い。感心する」


今の状況というのは、要するに設計図はないが家が建っているようなものだ。

これまでは口頭でのやり取りでなんとかなっていたのかもしれないが、何かが起きる前に考えはドキュメント化しておいたほうが良い。

「残りの期間はあと一ヶ月もなかったと思うが、それまでにやることを細分化してタスクスケジュールに落とせばいい」


「サイブンカとか細かいことはよくわからないわ。そういうの小難しいことはリザにお願い」

ローゼリアの無茶ぶりを吸収するのはリザの役割だ。


「んー、俺もダンジョンを作るのは初めてだから詳しいところまではわからない。でも設計図を書いて、必要なものを集めて、それでこの火山を掘ってダンジョンにしていく、ってのが必要なんじゃないか」

「はい。だいたいはヨシヒロさんの言う通りです。その他に細かいことはあるのですが、概ね合ってます」

「そうなるよな。で、全体の統括はローゼリア。計画だったり書類仕事はリザ。それからデザインはハピたすだろう」


俺は各役割とモンスター娘たちを指差ししながら確認していく。


「それで穴を掘ったりする現場の開発担当はこの中の誰がやるんだ」

「いないわよ」


「え。待って。開発がいない???」

頭の中で疑問符が脳みそにふよふよと浮かんでいく。


エンジニアがいないゲーム開発現場みたいなものだ。そんなのどうやったって完成するはずがない。

何か忘れているという違和感はこれだったか。


「このダンジョンを掘ったりしている、力仕事をしているやつはいないのか」


ハピたすが気まずそうな顔をして居心地悪そうに髪をいじり始める。


「正確には、”いまここに”いないんだよね」


含みのある言い方に、俺は地雷の匂いを感知するのだった。

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