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予想外の男

 ザルバシオンの家を飛び出してから、森の中をひたすら進む。

 訓練学校の方角は分からないが、今更後には引けない状況だった。


 地表を()う木の根や蜘蛛(くも)の巣がテソロの歩みを著しく遅らせる。

 そんな障害にも負けず進み続けていると、いつの間にか3メートル先が見えないほど真っ暗になっていた。

 

 テソロが額に浮かんだ汗を手の甲で拭う。

 ぐぅ〜、とお腹が鳴り、テソロはお腹をさする。


 「訓練学校まで行けるかな・・・。」


 テソロに不安が募る。

 

 (そんな弱気じゃダメだ!)


 テソロは顔を両手で叩き、気合を入れてからまた歩き始める。

 しばらくすると、森の奥からガサガサという音を立ててフードを目深に被った人が現れた。

 怪しい出立ちだったが、胸元にあるメルセナリウスの紋章が見えたテソロは、安心して駆け寄り声を掛ける。


 「あの!メルセナリウスの訓練学校に行きたいんだけど、どっちに行けばいい?」


 「ん・・・、なぜ訓練学校に行きたいんだ?」


 フードの中から聞こえたのは、男性の声色だった。


 「えっと・・・。」


 テソロはフードの男から目線を逸らし少しの間考える。

 ザルバシオンから聞いた内容を言うべきか迷った。もしあの情報が本当だったらやばいと思ったからだ。


 (そんなわけあるもんか。)


 テソロは意を決して、目の前の男に向き直り、口を開いた。


 「さっき、ある人からあることないこと言われたんだ。メルセナリウスが実は、都合の悪い人間を抹殺しまくっている極悪組織とか・・・。」


 男がフード越しでも分かるほど驚く。

 テソロがさらに言葉を加える。


 「信じてくれ!裏切り者がいたんだ!俺は騙されたんだ!だから、俺を訓練学校に戻してくれ!」


 テソロが言葉を尽くして、必死に男を説得する。

 しばらくして、男が話し始める。


 「・・・そうか。その情報を君に話した人は何て言う人だ?」


 間髪入れずにテソロが答える。


 「訓練学校の教官をしているザルバシオンってやつだ!」


 男は、顎に手を当てて考え事してから言葉を発する。


 「情報提供感謝する。しかし、もう君が学校に行くことはない。」


 「えっ・・・?」


 全く予想していなかった言葉に、テソロはきょとんとする。

 そんなテソロにお構いなく、目の前の男は言葉を加える。


 「ここで死んでもらうからだ。」


 明確な死の気配に、テソロは身体を小刻みに震わせる。


 (逃げないと!)


 そう思い、足を動かそうとするが、膝が笑って思ったように身体が動かない。


 次の瞬間、男がテソロの脇腹を蹴り上げる。

 

 「うっ・・・!」


 テソロは数メートルほど吹き飛び、木の幹に身体を打ちつけ地面に倒れる。


 「ごぼっ!」 


 内蔵が破裂し、血と胃液が混ざり合った塊がテソロの口から溢れ出す。

 経験したことのない痛みがテソロを襲う。


 (くそっ・・・。何が行けなかったんだ・・・。)


 あまりの不条理に、涙が頬をつたう。

 テソロは指一本も動かすことができなかった。


 「じゃあな。いま楽にしてやる。」


 男がテソロに近づく。そして、服の内側からナイフを取り出し、テソロの心臓目掛けて振り下ろす。


 ガキィーン!


 耳を(つんざ)くような音が森の中に鳴り響く。

 突如現れた何者かによって、男が持っていたナイフが弾き飛ばされた。


 「誰だ!」


 突然の出来事に男が声を荒げる。

 

 「あまり苛めないでやってくれ。こいつは俺の教え子なんだ。」


 樹葉の隙間を抜けて入った月の光が、割って入った何者かの顔を照らす。


 ザルバシオンだった。


 全く予期していなかった男の登場に、テソロは目を疑った。

 

 「なんで・・・。」


 血が気管支を塞いでいるのか、ヒューヒューという呼吸音を発しながら、テソロは言葉を絞り出す。


 「今は喋らない方がいい・・・。遅くなってすまない。もう少し早く追いかけていればこんなことにはーーー。」


 ザルバシオンがテソロを心配している最中に、男が奇襲をかける。

 服の内側に忍ばせていたもう1本のナイフを取り出しながらザルバシオンの脇をすり抜け、再びテソロの命を狙う。


 「ふんっ!」


 今度もザルバシオンが持っていた小刀で、男の攻撃を阻止した。


 「はっ!」


 その後、すぐさま男の右腹に蹴りを入れる。


 戦闘経験が豊富なザルバシオンは、今の一瞬で対峙する男の底知れない実力を感じ取った。

 このままテソロを庇いながら戦うのは難しいと判断したザルバシオンは、今のうちにテソロを移動させることを決意した。


 ザルバシオンはテソロを抱え、少し離れた大きな針葉樹の根本まで運んだ。

 テソロを下ろして、頭を撫でながら声をかける。


 「痛むだろうが我慢してくれ。すぐに戻ってくる。」


 テソロは既に気を失っていた。


 テソロの返事を待たずに、ザルバシオンは立ち上がり、男のもとへ向かった。


 * * *


 ザルバシオンがフードの男がいた場所に戻る。

 男は待ちくたびれたと言わんばかりの様子で、ザルバシオンの方を向く。

 すると、男は徐に目深に被っていたフードを脱ぎ、正体を明らかにした。


 「なっ・・・!」


 ザルバシオンは動揺を隠せなかった。よく見知った顔だったからだ。


 「・・・クラディス。」


 ザルバシオンが睨みつけながら、男の名前を口にする。


 予想外の男の登場に、ザルバシオンの背中に冷たい汗が流れる。


 クラディスはメルセナリウス随一の実力者の1人だ。そして、組織の裏の顔を熟知している組織の幹部でもある。


 落ち着いた様子でクラディスが口を開く。


 「まさか、お前が裏切り者だったとはな。いつからだ?」


 「何のことだ。」


 ザルバシオンがシラを切る。


 やはりテソロは喋っていたか。

 もう少し慎重になるべきだったとザルバジオンは反省する。


 「最近、任務が上手くいかなくて困っているんだ。都合よくターゲットに護衛がいたり、反撃の体制が整っていたり。お前が漏洩(ろうえい)していたんだろう?」


 「さあな。」


 ザルバシオンは右腕にある黒曜石でできたブレスレットを見ながら答える。

 そして、これ以上話す気はないと言わんばかりに、ザルバシオンが腰に刺した鞘から愛刀を抜き出す。

 

 クラディスも手に持っていた漆黒の刀身をもつナイフをザルバシオンに向ける。


 「まあいい。お前もさっきのガキも、ここで殺す。」


 一瞬の静寂のあと、2人の間を通り抜けた風が枯れ枝を落とす。


 パキッ。

 

 枯れ枝が地面に落ちた次の瞬間、耳が痛くなるほどの衝撃音が鳴り、闇夜の森に一輪の火花が咲いた。

2024/5/22 内容見直しました。既に読まれた方はご容赦ください。

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