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変化

 「よし、本日の訓練はここまでだ!」


 ザルバシオンが手を叩きながら、訓練場の奥にいる訓練生にも聞こえる声量で言う。

 いつもならこの言葉が1日の終了を意味する。訓練生たちは地面に散らばったトレーニング道具や木刀などを片して部屋に戻ろうとする。

 しかし、今日はザルバシオンの言葉はそれだけではなかった。


 「今日はこの後、お前らの能力チェックを行う!片付けが終わったら、1人ずつ検査室に入ってくるように!」

 

 再度ザルバシオンは、訓練所全体に聞こえるように声を張り上げる。


 片付けが終わると、訓練場の奥にある検査室に訓練生が1人ずつ入っていく。

 順番を待っている同級生たちが、自分の能力はなんだろう、と寄り集まっていたが、テソロだけは心ここにあらずだった。訓練中にザルバシオンに言われた「退学」の文字が頭から離れなかったからだ。


 テソロは今まで何度も症状を改善しようとしたが、効果的な方法は見つからなかった。それどころか、体調は悪化していくばかり。

 悔しいが、テソロの退学は決定したようなものだった。


 そんなテソロの気持ちとは関係なく、どんどん能力チェックは進んでいく。

 テソロが検査室の入り口に目を向けると、喜んでいる者、悲しんでいる者、何やら考え込んでいる者など、出てくる同級生たちの表情は様々だった。


 「次、テソロ。さっさと入れ。」


 ぼーっと観察していると、テソロの名前が呼ばれた。どうやら、ザルバシオンが検査役らしい。


 検査室に入るとザルバシオンがテソロに指示を出す。


 「そこに立っていろ。すぐに終わる。」


 言われた通り床の印の上に立つ。すると、一瞬の静寂のあと、テソロの足元にぶわっと赤い光が溢れ出し、テソロを包み込んだ。そして赤い光は徐々にその強さを増し、検査室全体を真っ赤に染め上げた。


 「ま、まぶしい・・・。」


 顔を手で覆い隠していると、足元の赤い光が弱まり、視界が戻る。

 テソロは、何が起きたのか全く分からなかった。


 テソロがザルバシオンの方に視線を向ける。すると、


 「検査はこれで終わりだ。お前は本当に使えないな。退学は決定のようだな。」


 ふっ、と鼻で笑いながらザルバシオンがテソロに言う。


 (なんだよ。わざわざ言う必要ないだろ・・・。)


 テソロは言い返す気力もなく、肩を落として検査室を出ようとした。

 すると、そうだ、と言ってザルバシオンが言葉を付け加える。

 

 「テソロ、今晩中にこっそり抜け出しても構わないぞ。どうせ退学は決まっているからな。」


 テソロは返事をせずに、訓練室を後にして宿舎への帰路についた。

 道半ば、テソロはザルバシオンの最後の言葉を思い返すと、夜のうちに学校を出るのも悪くないな、と思った。

 

 * * *

 

 すっかり夜が深まった頃。

 訓練に疲れ切った同級生たちがぐっすり眠っている中、テソロだけは静かに荷造りと部屋の片付けをしていた。


 「ふぅ〜、これでよし、と。」


 テソロはカバンのボタンを閉じる。

 ようやく終わった身支度に、どっと疲れが押し寄せて来たテソロは、床に座り込んだ。


 (ついにこの部屋ともおさらばか・・・。)


 部屋を見渡し、ゆっくりと立ち上がる。


 「ぅ・・・。」

 

 突然の目眩に襲われ、テソロは倒れそうになる。

 フラつく身体を支えるために壁に手をつき、ふぅー、っと息を吐く。

 

 テソロの体力はとっくに限界を超えていた。

 このままいつものように眠りたかったが、そういうわけにはいかなかった。


 疲弊(ひへい)し切った身体に(むち)打って、重たいカバンを持ち上げると、テソロは部屋をこっそり後にした。


 * * *


 こっそりとエントランスを出て、建物の裏にある森に入る。

 真っ暗で足元が見えない中、道なき道をひたすら歩きはじめた。

 訓練後に全く休憩を取らずに身支度をしていたテソロは、いつ意識を失ってもおかしくない状態だった。


 「あっ。」


 地表に伸びた木の根に足を取られて、身体を地面に打ち付ける。

 テソロには起き上がる体力はなかったので、このまま目を閉じて眠ってしまおうかと考えた。どうせ夢だった戦士にはなれない。最悪このまま目が覚めなくてもいい気すらしてきた。


 薄れゆく意識の中、何者かが自分に近付いて話かけていることに気が付いた。

 どこか聞き覚えのある声だったが、一度沈み始めた意識を戻すことはできず、そのまま意識を失った。

2024/5/18 内容見直しました。既に読まれた方はご容赦ください。

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