【おまけ】
その日の夜である。
「ん?」
ショウは自分のスマートフォンに誰かからメッセージが届いていることに気づく。
芸能人の仲間で連絡先を交換したことがあるのは、ドラマ『ヴァラール魔法学院の今日の事件!!』の演者たちぐらいである。もちろんそこに憧れであるユフィーリアの連絡先はない。
ドラマの制作スタッフから撮影時間の変更を言い渡されたのだろうか。それとも別の誰かが他愛のない与太話をメッセージで送ってきたのだろうか。どのみち確認してみないと始まらない。
すると、
「ショウちゃーん」
「ハルさん」
「オルトさんから連絡きた?」
「オルトさんから?」
ショウの自室を覗き込んできたハルアが、自分のスマートフォンを掲げながら言う。
オルトさん、と言えばユフィーリアの実父であるオルトレイ・エイクトベルのことだろう。憧れであるユフィーリアのめでたい誕生日を祝うきっかけを作ってくれた恩人だ。
そんな人がどうしてショウやハルアにメッセージを送ってくるのか。連絡先を交換した覚えもないのに。
ショウとハルアは互いの顔を見合わせると、
「見るか?」
「見た方がいいよね?」
「怖いが……」
スマートフォンに表示されたメッセージアプリのアイコンに指先で触れると、ロック画面を解除する手順に移行する。慣れた指先でロックを解除すれば、見覚えのあるアプリ画面が表示された。
メッセージには簡素な文章と、それから3枚の写真データが貼り付けられてあった。内容は実に彼らしい、誕生日パーティーに来てくれたお礼とメッセージを送った経緯である。
問題は添付された写真だ。
オルトレイ:今日は誕生日パーティーに来てくれて感謝する
オルトレイ:実はキクガに連絡先を聞いたのだ
オルトレイ:今日の誕生日パーティーの様子を共有しよう
その明るい笑顔は、ショウとハルアには眩しすぎた。
「オフショットだと……!?」
「目が潰れちゃう!!」
ショウとハルアは2人揃って目を覆う。
こんな輝くような笑顔なんか直視できる訳がないのだ。ただでさえ心臓がはち切れそうなのに、こんな笑顔を見せられたら大ファンどころかガチ恋勢になってしまうではないか。
ユフィーリアは写真集すら発売しない孤高の天才俳優だ。この彫像めいた美貌が写真として収められるのは数ページ程度の特集が組まれた雑誌だけで、それもほとんどインタビューなどは掲載されない。流行の洋服を身につけて冷たい眼差しをレンズに向けるだけである。
そんな彼女が、この笑顔である。純粋無垢な笑顔はドラマの撮影現場ですら見たことのない表情だ。
「どうしよう、ショウちゃん。まだ続きがあるよ」
「死ぬかもしれない」
「オレ、ソロ活動は嫌だよ」
「悲しませたくないから蘇る」
ショウは気合いで魂を引っ張ってくると、残りのメッセージに目を通した。
オルトレイ:あと娘は誕生日プレゼントを喜んでいたぞ
オルトレイ:身につけたところを写真にして送る
オルトレイ:我が娘の美しさに刮目せよ
もうダメかもしれない。
「ハルさん、俺はもうダメだ」
「ショウちゃん、オレもだよ」
「じゃあ2人揃って、せーの」
大好きになっちゃうでしょー、とショウとハルアは絶叫するのだった。
《登場人物》
【ショウ】オルトレイが送ってきたオフショットで無事死んだ。供給過多。
【ハルア】ちゃんと髪飾りを身につけてくれて嬉しいのだが目に毒すぎる。
【エドワード】登場はしていないのだが、オルトレイから送られてきた写真を見て固まった。マグカップが犠牲になった。
【アイゼルネ】登場はしていないのだが、オルトレイから送られてきた写真を見てバランスボールから滑り落ちた。ストレッチ中だったのだ。
【ユフィーリア】何か急にオルトレイが「誕生日プレゼントを身につけたところを写真に撮りたい」とか言い出したので、言われた通りに身につけた。どこに送ったのかは知らない。
【オルトレイ】今頃あいつら騒がしいだろうな〜♪