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髪を切る。縁を切る。

作者: 秋暁秋季

注意事項1

起承転結はありません。

短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。


注意事項2

御籤は一日一回。

なんて仰いますが、神社変わると伝える方も異なるので、私は時折神社跨いで引きます。

個性が出て大変興味深いと思います。


前髪が伸びてきた。目にかかる程に。今までは一切合切気にしなかったのに、少しでも気になると、鋏片手にぶった切りたくなる。だがしかし、その前にやる事がある。


「本当に聞くのぉ?」

目の前には、茶髪でつり目の美女が御籤箱に腕を乗せて、気怠げに言った。

天気は悪天候。仕事中に脳裏に響いていた読経も、鈴の音も、此処に木霊す事はない。そうして彼女の何とも言えない神妙な表情から、何となく未来は予測出来る。

「次回から我武者羅にがんばります」

「分かった。引たまえ」

貴方様は先程までの雰囲気を引っ込めて、私に筒を押し付けた。前からの癖でがしゃがしゃと掻き回し、小さな穴から竹棒一つ引き抜いた。

「うーん……」

「なぁんで『凶』を引くと分かって引くのか」

出された結果は最も最低な運気、「凶」だった。願い事は叶わないし、転居先は最悪だし、待ち人は来ないし……全てが無い無い尽くしの運勢。本当に救いようがない。

……言われた通り、分かってはいたのだ。この感触だと、きっといい事は言われないだろうと。きっと引き当てた運は、最低だろうと。それでも引いてしまうのが、一抹の願いに縋ってしまうのが、人間というもの。

「人の性というもので御座います」

「私からして見れば、金払って嫌な気分になるくらいなら、最初から引かないのが良いと思うけどねぇ。増してや結果の予測も付いてたみたいだし。まぁこれは私からの言葉でもあるんだが、何でも我武者羅にやりゃ受け入れられる。なんてただの脳筋の言い分さ。一歩引いて俯瞰的にものを見なさいな。いいね? 此処に書いてある通り『何事も控え目に』だ」

「はい」

それは私の過去をよく知る貴方様だからこその説得力だった。


何故かよく行く神社なのに、此処に来る時には必ず道に迷う。迷路のような駅地下をさ迷って、どうにか顔を出す。それに安心感を覚える。掴み所のない方だから。方違えという縁切りをする方だから。

外に出ると曇天だった。歩く程に霧雨が頬を打つ。傘を差すほどでもなく、しとしとと。あの方の特性を加味しても、決して悪くは無い気がする。

鳥居を潜ったら、そっと抱き締められた。相殿の御前だった。

「御籤を引かせて下さい」

「曇天だよ」

「貴方様だから、悪くは無いと思うのですよ」

これが焔を司る方ならば、少しは躊躇ったのかも知れない。真っ赤に焼けた太陽を求めて、この場を去ったのかも知れない。けれどもこの方は水とご縁のある方だから、鎮静を司る雨のような方だから。

「うん。まぁいいでしょう」

そうして同じ様に御籤箱を上下に掻き回した。がしゃがしゃと振って、竹棒を吐き出した。

「どうだい?」

「凄い、すとんと来ました」

二人でも大変だった山を、君一人でどう超えるのだろうか。過去との決別を果たす時だ。

これが御籤の結果だった。私にとって、あの場所は天道だった。満ち足りた世界だった。けれども憂いや悩みが無いわけではなかった。悟りの境地に至るには、今少し修行が足りなかった。

次回もそんな場所に行き着くとは思えない。故の決別だろう。辛くとも、引きずってはならないと。ただ前を向き、自分に何が出来るか考えろと。

「良いですね。今の私にとって、至高とも言える御言葉で御座います。それに、私との縁が深い一文字が入っておりますし」

そう答えると、貴方様はにっこりと笑って、スルスルと頬を撫でた。やはり属性が水に近い方々とは相性が良い。如何なる時でも気を使って下さる。


そうして最後に、今回の旅の目的の最もたる場所へ、私は向かう。曇り空の切れ間から、天光が差す。そうしてその裂け目がみるみるうちに広がって、お天道様が顔を出した。心地の良い風が吹く。私をそっと歓迎する。

「今回は出世する気持ちで参りました」

私がそう申し上げると、焔の様な赤毛を揺らして、僅かに口角をお上げになる。

属性としては紛うことなく火、火に他ならないのだ。けれども私は此処の名称を見て、ずっと水だと思っていた。煌びやかな装飾が施された拝殿は、竜宮城かと思っていた。主祭神が貴方様である事を見て、酷く驚いた事は記憶に新しい。

「それで良い。さぁ、引くが良い」

「大吉……ですか」

最後の最後で運を引き寄せた。全てを持ってした歓迎の意。これ程までに喜ばしい事はない。

私は儚くも口角を上げて、貴方様を見る。神話で語り継がれる様な、荒々しい方ではなく、ずっとずっと蝋燭の焔のように優しく揺らめく。

「あぁ……。例え瞬きの間であったとしても、俺はそれを嬉しく思う」

「□□様、私、貴方様の事をよく存じ上げないのです。抱いていた印象と余りにも掛け離れておりましたもの。知り尽くすまで、どうかご縁が切れる事のないように。興が落ち着くことの無いように。その為に、私は私を律し続けなくては」

本日の事柄。我武者羅にならない事。過去に固執しない事。そうすればきっと大吉になると言うこと。あぁ、私が邪な事を考えないうちに、早々と験担ぎをしなくては。

「髪を切ります。悪縁諸共切って参ります。そうして過去と決別を果たして参ります。貴方様との新縁を紡ぐ為に」

全てにおいて我武者羅だったあの頃。全てにおいて空回りして、虚勢を張り続けた時に別れが来た。新しい世界はきっと生半端なところでは無いのかも知れない。だからこそ、過去に執着する事の無いように。務めて冷静に。

「どうぞ、良しなに」

神社の御籤引きまくってた人間だからこそ言えるんですが、万葉集と古今和歌集と百人一首を買いたくなります。


いや、高校生の時にハマってなさいよ( '-' )

と思うのは私だけでは無いはず。


一尊目の方は、過去をよく知る方だから。

我武者羅になって、空回りして、物凄い自責の念に駆られた過去を知っています。

だから忠告含めて引かせてます。


二柱目の方は長い付き合いだから。

だから『彼女との縁の深い一言』を送ってます。

過去に固執して、悩む事の無いように。

あと御祭神が御祭神なので、仏教用語入れてます。

あの場所は天道でした。けども極楽浄土ではありませんでした。

幸せではあった。満ち足りた場所でもあった。

でも苦手な人も仕事もあった。全てが大好きという訳ではなかった。悩みだってあった。

これこそが天道。

だから、極楽浄土じゃないんです。

極楽浄土は悩みもなく、本当に満ち足りた場所なので。


三柱目の方は本当に真新しい方。

歓迎の意も勿論あると思います。でも繋げて見ると、

我武者羅にならない。過去に固執しない。これを続ければきっと晴天。と解釈してます。

振り返って見れば、も一つ早く訪れなくてはならない場所だったのかも知れません。皮肉ですが、もう後の事。

固執はしませんよ。いい思い出として、鮮明に残します。



御籤は一日一回と仰いますが、繋いだ縁によっても変わって来るんですよ。

だから立て続けにがしゃがしゃする事もあります。

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