深奥の決戦・上
「私が前でおとりになります、攻撃はまかせますよ」
ロンドが言ってサーベルを鞘に戻した
「正気かよ」
「この人数なら攻撃もある程度は散るでしょう。それに大丈夫です、避けに集中するなら私に当てられるものはいません」
そう言ってロンドが前に出る。
「どうする、アトリ?」
「弱点が分からない相手は最大火力で叩き潰すしかない」
弓を構えたカイエンに応える。
データが分かっているなら効率的に戦うこともできるが、今こいつからわかるのは精々で水属性だってことくらいだ。
分析的な能力があればいいんだが、ミッドガルドにそんなものはない。
攻撃パターンや攻撃時のモーションが分からない敵は火力を集中させて一刻も早く叩き潰す。
それが最善の行動だ。
「マリー!回復と、それとオードリーを守ってくれ。攻撃は俺達がやる」
「うん、分かったよ!」
そう言ってマリーが拳を突き出してきた。
装飾を施された手甲にこっちも拳を触れさせる。硬い感触がして拳がぶつかって、マリーが笑ってオードリーの方に走っていった。
「オードリーは最大火力で魔法を打ち続けてくれ」
「はい!」
マリーがオードリーを守るように前に立つ。
「アストン!危険だが前衛を頼む」
「任せてくれよ、アニキ!」
「カイエン、サイドに回ってくれ。俺と挟むように攻撃だ」
「分かった」
アストンがレイピアを構えて相手の様子を伺うように用心深く距離を詰める。
カイエンが快足を飛ばして左側に回り込んだ。
ダンジョンマスターとの戦いではある程度ばらけて相手の攻撃を分散させるのがセオリーだ。
まとまっていると範囲攻撃で一網打尽にされかねない。
水の塊に目はないが、こっちを見ている視線というかターゲットラインを向けられてるようなものは感じる。
来るな。
◆
「先手必勝!」
「【始まりに命ず。風の理よ、雷を象れ。重ねて命ず。新たに生まれし雷の理よ、槍を象れ】」
カイエンが口火を切った。気合を入れるように叫んで、走りながら矢を放つ。
白い軌跡を描いた矢が空中を飛んで水の精霊に次々と突き刺さった。
俺も巨体に向けて引き金を引く。
ナーガにはクリティカルが出やすい急所があったが、こいつはそう言うのは無さそうだ。
とはいえ、あれだけ的がデカいと細かい狙いを付けなくていいのは助かる。
しかもエクストラマグがあるから残弾をあまり気にしなくていい。
「【雷槍】!」
俺の銃とカイエンの矢、そして武器でレベルアップしたオードリーの雷撃が十字砲火のように水の精霊を貫いた。
効いたかと思ったが、何事もなかったかのように水の精霊の表面に波紋が走った。同時にレーザーの様に水が飛んでくる。
躱したと思ったが、そのまま剣を薙ぎ払うように水流が振り回された。
走りながら姿勢を低くする。
体のギリギリをウォーターカッターのような水流が飛んで、衣装の裾が切り裂かれた。
暫くして水流が止むが、視界の端で上に向かってまた何か飛んだのが見える。
「上だ!」
とっさに声が出る。
闘技場の屋根を掠めて何本もの細い水流が降り注いできた。立て続けに水が石畳で跳ねて床が砕けて破片が飛び散る。
「大丈夫か?」
「ボク達は大丈夫!」
「問題ない!」
攻撃が分散しているとはいえ、360度の全方位、そして闘技場の全てがあいつの攻撃範囲だ。厄介な奴だな。
水の精霊の表面の波が消えて、こっちの様子を伺うように静かに空中に浮かんだ。
「さあ、当てて見なさい」
まるで挑発するように水の精霊の前でステップを踏む
表面に波紋が走って、アストンとロンドに水弾が雨霰と打ち出された。
「危ねぇ!」
アストンが飛びのいて水弾を辛うじて躱す。
ロンドが軽やかに水弾を躱した。
「やはりあの水弾は攻撃が分散すれば避けられますね……アストン、貴方は少し離れて隙を見て攻撃をしてください。
3割あなたが引き付けてくれれば、私が残りは引き受けます」
「分かりました!」
◆
引き金を引いて最後の一発が撃ちだされた。いつも通りリロードが始まる。
戦闘が始まって二度目のリロード。総数50発近く撃ち込んでいる。
逆側から飛んだカイエンの矢と、隙を見て切りつけるアストンの刃が水の精霊に命中した……だが、水の精霊は悠然と浮かんだままだ。
あまり効いているように見えない。
ただ、攻撃のパターンや攻撃時の準備モーションは見えてきた。
レーザーのような薙ぎ払う水流と、上に打って頭上から降ってくる水流、それとばら撒き型の水弾。
どれもも撃つ前に二段階のモーションがあって、一段階目はそれぞれ違う。
水球の中央で渦巻くように水が動いた。
「レーザーが来る!」
水球の表面に波が走って、水流がレーザーのように打ち出された。
水の中心で第一段階のモーションがあってそれで見分けられる。やっぱり間違ってないらしいな。
「分かるのか?」
「ああ。俺が指示を出す。いいか?」
「パターンをもう掴んだのですか……素晴らしい眼力ですね。それがあなたの武器ですか」
ロンドが感心したように言ってくれる。
俺には天才的な反射神経とかはない。だが、敵を観察し研究する。それが俺のスタイルだ。
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