ダンジョンマスターへの挑戦・下
戦闘が始まって、多分もう10分以上経った。
虎咬の巨体には彼方此方を切り傷があって血が流れている……まだ動きは鈍らないが、ダメージはかなりあるはずだ。
虎咬が大きく口を開けて大振りのサーベルのような牙をむき出しにした。
マリーの方に突進する気だな。回り込んで射角を確保してライフルの引き金を引く。
体に染みついた90フレームの発射感覚で弾丸が打ち出されて虎咬に命中する。
鎧のような鱗を貫いて血が噴き出したが、完全に動きは止められない。
血を撒き散らしながら虎咬がマリーの方に突っ込む。
「えいやっ!」
気合の声と共に動きが鈍った虎咬にマリーのパンチが命中した。
鈍い音が響いて釣り上げられた魚のように虎咬が体をばたつかせる。
「無理するな!マリー!アストン!」
俺の声を聞いて追撃しようとしたマリーとアストンが止まった。
同時に虎咬が体を一回転させて長い尻尾を振りまわした。マリーが軽やかに飛んで尻尾を躱す。
「大丈夫か?」
「うん!ありがと、アトリ!」
虎咬の様子を伺う。
そろそろ倒せるだろうか。
仕事がブラック化してパーティを組めなくなったが元々はチームでやっていた。
ソロでRTAするならサイドに回って弱点の目を撃ち続けることになるが、パーティでの討伐なら相手を自由にさせずにこっちのメンバーが自由に動けるようにする。
そういう司令塔的なポジションががガンナーやアーチャーの仕事だ。
無機質な目がアストンの方を見た。また突撃してくるな。
残弾は三発。残りを纏めて撃ち込む。
銃弾を浴びながら突っ込んできた虎咬と交錯するようにアストンが剣を振りぬた。
ぱっとまた赤い血が噴き出す。虎咬が怯んだように距離を取った。
「風の理よ、雷を象れ!雷鳴!」
距離を取るのを待っていたオードリーが詠唱して青白い光が瞬いた。
轟音を立てて何度目かの雷撃が虎咬を捉える。
それが止めになった。
空中に浮かんでいた虎咬の巨体がぐらりと傾いでそのまま地面に落ちる。
呻くような鳴き声を上げて尻尾をばたつかせた虎咬の姿がボロボロと崩れていった。
……倒したか。
使い魔のタイムを見ると49分10秒。
こっちも目標クリアだ。
「やったぜ!俺達の勝ちだ!」
「やりましたね!」
「ボクたち、結構スゴイよね!」
完全にその姿が崩れるのを見届けてアストンたちがそれぞれに喜びの声を上げた。
みんなあちこちに傷はあるが、大きなもんじゃない。
虎咬はミッドガルドじゃ何度も倒した相手でまず負けることはないが、ガチの実戦は緊張感が違う。
……無事倒せてよかったな。気が抜けたらライフルが急に重く感じた。
「みんな、ありがとな。完璧だったよ」
改めて思い返すと連携もしっかりとれていて危なげが無かった。
オードリーの魔法のタイミング、アストンの接近戦での攻撃、マリーの回復回し、どれも万全だったな。
「アニキも流石だぜ」
「援護有難うございました」
「でも、ボク達のことももっと褒めてくれていいよ、アトリ」
マリーが間近に近寄ってきて自慢げに俺を見上げた。
「わかったわかった、帰ってからな」
◆
そして星空の天幕亭では、店を埋め尽くして固唾を呑んでダンジョンマスターのとの戦いを見守っていた客が大歓声を上げた。
「おお!!倒しちまったぜ!!」
「つーか、ダンジョンマスターなんて見るの初めてだってのに……勝てるのかよ」
「いや、あいつらが負けるはずないだろ、アトリだぜ」
「流石俺の推しだな。俺は初めからこうなると思ってた。そう、あいつらを一目見たときに俺のカンが……」
「黙れ」
「調子に乗るな」
マーカスと彼の仲間たちがそれぞれに言葉を交わしあう。
「いや……良い物を見た。本当に」
「最速の上に最強とか!」
「ダンジョンマスター討伐なんて10年ぶりだぞ、確か」
「女将さん!店で一番いいワイン開けて!」
「こっちにはビール!樽で持ってきて!」
「はいはい、樽は無理だけどちょっと待ちなさい」
「料理はチアメニューで頼むわ。今日は食うぞ!」
「祝杯だ!闇を裂く四つ星に乾杯!」
「国内最強のパーティはこの街にいるぞ!」
「アトリに乾杯だ!」
「アルフェリズの誇り!どこにも行くなよ!」
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