6か月後。
おはようございます。4章開始します。
ストックが尽きかけているのでちょっと更新が滞るかもしれませんが、プロットは決まっているので完結まで一気に行きます。
『前方に敵だ』
星空の天幕亭の真新しい大型の映し板の中には揃いの青の帽子と青の腰位までのマントを着た4人が映っている。
ダンジョンは恭義楼別邸。Aランクダンジョンであり、ミッドガルドでは数少ない和風ダンジョンだ。
4人が走っているのは回廊のような通路だ。
右側の襖には鮮やかな色どりの和風の虎や龍が描かれていて、左側は吹き抜けになっている。
周囲は暗い、夜のダンジョンだ。吊り下げられた篝火が闇を照らしてる。
吹き抜けには巨大な桜の木が立っていて、桜の花吹雪が炎にキラキラと輝いていた。
このダンジョンは吹き抜けの周りの回廊を走るのが最短ルートだが、そこを走ると接敵が増える。
RTAをやるときは、敢えて最短ルートを行って敵を捌くか、それとも遠回りでも敵が少ないルートを行くか、走者の趣味が出るダンジョンだ。
確か世界記録は回廊を抜けたルートだった気がする。
4人の前に回廊を防ぐように豪華な和風の鎧を着た武者が5人立ち塞がっていた。
それぞれが刀や槍を持っている。黒い面頬の虚ろな眼窩には青白い光が灯っていた。
『見せ場が来たな!』
『下がるな!突っ込め!』
『おう!』
最後列の夜警が矢を放ち、同時に最前列にいた銃兵が手にした片手持ちショットガンを撃ち込む。
武者が弾と矢を受けて2体かが手すりを超えて吹き抜けを落ちていった。
『行くぜ!』
左右に控えていた戦士と軽戦士のコンビが隊列が崩れた鎧武者に切りかかる。
もう一発ショットガンを撃ち込んだ従士が武器を剣に持ち替えて切り込んだ。
銃兵はミッドガルドではガンナーの上級職だ。
使える銃には制約があるが、戦士並みの近接戦力を持つ。
銃で先制攻撃を食らわせ、リロード中に斬り込むという強襲型の運用をするプレイヤーが多い。
武者の刀と戦士の両片手持ち大剣が噛み合って火花を散らす。
『下がるんじゃねぇぞ!男だろうが』
『分かってるぜ』
『あたしは女なんだけど!』
『細けえことはいいんだよ』
『戦ってるときにはお前は男だ!下がるな!』
『言われなくても!下がるわけないでしょ!』
激しい剣劇と銃声、夜警の放つ矢が画面を派手に彩る。
強引な正面突破で武者の隊列が完全に崩れた。
「おお!抜けた!」
「行け!突っ切れ!」
周りの客が歓声を上げる。
銃兵が残弾を武者に次々と撃ち込みながらまた走り始めた。
『おっし!もたもたすんな!まだまだゴリゴリ行くぞ!』
『分かった!』
こいつらは最近人気が上がってきている王都ヴァルメイロのパーティだ。
リーダーである銃兵と夜警の二人の上級職、その脇を戦士と軽戦士が固める。
そして足が遅めの魔法使いや神官を入れない攻撃特化型の編成。
回復役を入れないのはかなり思い切った編成だ。回復はポーション頼みらしい。
開始前に目標タイムを宣言するRTAの派生スタイルだが、バトルを避けてタイムを出しに行く俺達とはやり方が違う。
目標タイムを設定はするが、戦闘は避けない。最短距離を走り強引に敵を突破する、そんなスタイルだ。
正面から強行突破する派手なバトルとRTA風のスピード感をもつ攻略がウケている。
とはいえ回復役がいないから時々バトルで派手に失敗している。確か開始10分で二人が重傷を負って撤退したこともあったらしい。
こんな事情もあって配信成績にはかなり波があるらしいが……画面を見る限りこの日は上手く行っているな。
立ち塞がる鎧武者や、能面と着物をつけた老人をなぎ倒して回廊をまっすぐ進んでいく。
『恭義楼別邸、8階層。42分35秒だ。45分はクリアだぜ』
最初に目標と言っていた45分を大幅に上回って8階層までたどり着いた。
画面の中でリーダーの銃兵が帽子を取って気取った仕草で画面に向けて一礼する。
アストンと同じ18歳くらい。黒い癖のある長めの巻き髪に睨みつけるような鋭い目。
やんちゃそうな雰囲気が画面越しにも伝わってきた。なんとなくヤンキー風って感じだな。
『楽しんでもらえたかい?俺たちはラン&ガン・スタイル。RTAのように速く、そしてバトルもいれたスタイルだ』
『これからもガンガン行くぜ。見てくれよな!』
力強く言って銃兵と剣士の二人がそれぞれ武器を構えてポーズを決める。
周囲の客がまた大きく歓声を上げた。
『先行配信のお店も募集中です。あたしたちに賭けてみませんか?』
その後を受けるように、金髪をベリーショートに刈り込んだ軽戦士の女の子がアピールする。
そこで配信が切れた。
駆け出しとは言わないが、アタックを初めて日が浅い割にはMAPや敵との戦い方にやたらと詳しい。
この辺はロンドが指導しているんだろうな。
「俺たちもバトルとか入れた方がいいのかな、アニキ」
「いや、無理はしない方がいいと思うぜ」
あいつらがあの方法で行けるのは突進力に特化した攻撃型編成であることが大きい。
それに銃兵と夜警の火力もだ。
上級職がいない俺達のパーティでは同じことは出来ないだろうな。
それにあのやり方はバトルが強引な分、かなりリスクが高い。
一歩間違えば死人が出る。
「このままでいいのかな、アトリ?」
「良いと思うよ……あいつのおかげだが」
あの後、ロンドが俺達の出したタイムを次々と更新していった。
そして、俺達も対策をしてそれを破り返す、と言うのが続いている。
競い合うお陰でタイムはどんどん短縮され、俺達とロンドの抜きつ抜かれつの競り合いはいまやアタックの一大トピックになってしまった。
報酬も増えているからその点は心配はないと思う。
「ただ、次のアタックは……前から言っていたことをやろうと思う」
そう言うとアストンたちが頷いた。
ミッドガルドのRTAの完全版、つまり何階層まで、というのではなくダンジョンマスターを倒すまでのアタックだ。
この6か月、俺だけじゃなくアストンたちも様々なダンジョンで場数を踏み、数秒を争う緊張感の中での修羅場をくぐってきた。
今の俺達ならダンジョンマスターも倒せると思う。
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