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幕間・探究者の書庫亭のある日・1

「唐突なんだが、この配信を見てくれ」


 大きめのガラス窓からまだ早朝の爽やかな太陽の光が差し込む中。

 そんな会話が交わされたのは、王都ヴァルメイロのアタッカー配信酒場、探求者の書庫亭だ。

 王都には配信酒場はいくらでもあるが、その中では老舗の一軒だ。


 広々とした店内は200人以上が軽く入るほどだ。

 テーブルや椅子などの調度も歴史を感じさせる古び方だが、綺麗に磨き上げられている。


 重厚な黒い木造りのアーチが支える高い天井からはいくつものランプが吊り下げられている。どれも手の込んだ細工が施されていた。

 壁のあちこちには大型の映し板(ディスプレイ)が掛けられている。


 広い店内には新しく店主となったエドワード、それに酒場のスタッフ数名がいるだけだ。


「アルフェリズに行った時に見たんだが、なかなか面白いアタックだったんでな。譲ってもらった」

 

 白と青の制服に身を固めたエドワードが言ってストレージを操作する。

 映し板(ディスプレイ)に移ったのは4人のパーティだった。


 (ファルミーガ)の営巣の狭い通路を最短距離で抜けて、次々と下の階層に降りていく。

 30分足らずで25階層まで駆け下りた彼らが画面の中で挨拶をして、映像が切れた。


「どう思う?」

「戦闘ではなくて速さに重点を置くのは面白いですね」

「少し短いのが難点でしょうか」


 エドワードの問いにスタッフがそれぞれ意見を述べる。

 そのうちの一人、一番年嵩の初老のスタッフが画面を見ながら考え込んでいた。


「なにかあるかい?」

「これ、スピードランじゃないか……生きてまた拝めるとは思わなんだわ」

「知っているのか、ボブ爺さん」


 問いかけられた初老の男、ボブが頷く。

 彼はこの店で働き始めて40年以上、エドワードをあわせて3代にわたって仕えている、アタッカーの生き字引ともいえる重鎮のスタッフだ。


「もう随分昔の話ですじゃ。こういうスタイルのアタックをする奴がおりました。

名前はドラグスター。ソロでダンジョンを誰よりも早く走るというスタイルでな。店主が生まれるよりはるか前のアタッカーですじゃ」


「そいつはどうなったんだ?」

「ほんの一瞬の不運で、魔獣の攻撃を受けましてな。ソロだからどうにもなりませんでした」


 ダンジョン内ではパーティで戦うのが原則なのはこういうことが起こりえるからだ。

 ほんのわずかな不運で、あっけないくらいに人は死ぬ。


 どれほどの上級職であっても予期せぬ事態は生ずる。 

 ソロのアタックではその何かが起きてしまった時にどうにもならない


「あれは本当に凄かったですぞ……まさかまた見れるとは思わなんだわ。長生きはするものですじゃな」

「他の奴は真似しなかったのか?」


 周りの一人が聞くが、ボブが首を振った。


「少し考えてみればわかるじゃろ……出来ると思うかの?」

「まあ……確かに」


 このスタイルを成立させるためには、ダンジョンの最短距離を知らなくてはいけない。

 ダンジョンの地図を作っているパーティはいるがそれはパーティごとの秘密だ。


「客に受けると思うか?」


 王都には多くの人が住んでいるから客数は自然に増える。

 しかしアタックの配信酒場も多く競争は激しい。老舗の立場に胡坐をかいていることはできない。


 料理に工夫を凝らし、店内を奇麗に整えるのも大事だが、何より大事なのは配信されるアタックの内容だ。

 エドワードの問いにボブが頷いた。


「伝説のスタイルのアタックですじゃ。まず間違いないじゃろうと思います」


 ボブの言葉を聞いてエドワードが頷いた。

 

「よし、すぐにアルフェリズに行こう。そいつらと独占契約をする。

他に目をつけられる前に我らが前に先んじるぞ。ボブ、旅の手配と契約書の作成を頼む」







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― 新着の感想 ―
[一言] ほほう。ドラグスター氏も転生者かな・・・?
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