幕間・星空の天幕亭のある日・2
そう、それはちょっとした応援のつもりだったが。
「ちょっとまて、どう考えても速すぎるだろ」
「マップ知ってるのかよ」
「4分で3階層まで来たぞ」
グレイスがビールをジョッキに注いでいる間に、驚いたような声が上がった。
「お前、既に負けてんぞ」
「女将さん、こいつのおごりでビールもう一杯」
「ちょっと待て、まだ決着はついてない」
「往生際が悪いぞ。ビール3杯頼むわ」
声が掛かってグレイスが樽からジョッキにビールを注ぎ入れる。
白い泡が立って金色のビールがジョッキから少しあふれた。
「おいおいビール来る前に6階層までいってるじゃねーか」
一人が絶望したような声を上げて顔を見合わせる。
本当かと思ったが、画面を見ると本当にそうだった。信じられない速さだ。
4人が気まずそうにジョッキを手にしている。
「あなたたちの負けね。さあ飲んでもらうわ」
「クソが」
文句を言いつつ一人がビールを飲んで画面をもう一度見る。
「いや……しかしなんて奴らだよ」
「ここまで一切ルートミスなしな上に、戦闘一回も無しだぞ」
「なんでこんな風に動けるんだ?こいつらホントに新人か?」
「それにこんな隠しルートあるのか?」
「見たことねぇよ」
「なんなんだ、こいつら」
見たこともないトロッコの隠しルートを抜けて4人がまた走り始めた。
「15分……いけそうか?」
「どうだろうな。今は11階層で10分28秒」
「しかしなんなんだろうな、こいつら」
「こいつらっていうか……このガンナーが上手い。抜群だぞ。魔獣が通路を塞がないように常に先手を取ってる……何者だ?」
「どう見ても新人じゃないだろ……トップアタッカーのガンナーでもこんな動き見たこと無い」
「いや、でもベテランが新人と組むなんて意味ねえよ」
「じゃあ……やっぱり新人か?」
「こんな新人、あり得るかよ」
「じゃあ何なんだ?」
「俺が知るか」
そんな話をしてる間に、10人ほどの団体がどやどやと酒場に入ってきた。
大き目のテーブルに陣取って、配信されている映し板とその前で盛り上がっているグループに目をやる。
「何見てるんだ?」
「ルーキーのアタックだが、すげえぞ、お前も見ろ」
「じゃあ、女将さん。ビール一杯とナッツとチーズ」
「俺はワインが良いな。あと何か肉でも焼いてくれや」
「毎度ありがとう」
「俺もビール」
次々と入った注文を受けて店員がワインやビールのジョッキをテーブルに運ぶ。
肉の焼ける香ばしい臭いが漂い始めた。
「はい、お待ち。ところで、酒はこいつらのおごりらしいわよ」
「ちょっとまて、其処までは言ってない」
「無駄話してないで見ろバカ、もう13階層だぞ」
「何分?」
「11分35秒。15分で15階層行けるか?」
「行けそうだろ」
「いや無理だね。賭けてもいい」
「俺はいけると思うぞ」
「頑張れルーキー!」
応援の声と拍手が上がる中で、4人が次々と階層を進んで行く。
そして。
「おい、15階層までマジきちまったぜ」
「こんな速く15階層までこれるのかよ、信じられん」
ヴェスヴィオ炭鉱跡の15階層そのものは珍しくはない。
しかし、この速さは異常だ。
『まだいけるな?』
『ああ、いけるぜ』
『ボクもまだ大丈夫』
『よし、じゃあ行けるところまで行く』
画面の中で4人が言って16階層への昇降装置に乗り込んだ。
16階層についてすぐにまた走り始める。
「まだ行く気かよ」
「どこまで行く気だ?」
「知らんけど、行け行け!」
「頑張れ、ルーキー!」
「18階層まではいけると見た」
「いや、もう少し行けるだろ」
「賭けるか?」
「いいぞ」
「そんな話してる暇無いぞ。もう17階層だぜ。いいから見てろって」
いつの間にか店員も客も全員が映し板にくぎ付けになっていた。
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