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【書籍化・コミカライズ】聖女様になりたいのに攻撃魔法しか使えないんですけど!?  作者: 青季 ふゆ@醜穢令嬢 2巻発売中!
第三章

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第84話 ようこそエリーナさん!

 魔族の総本山、不毛の大地に聳え立つ魔王の城。

 その城の最も深い部分に位置する魔王の間には、いつにも増して冷たい空気が漂っていた。


「……ルーメアが死んだ、だと?」


 深く低い声がホール全体に響き渡る。

 玉座に鎮座する、闇に包まれた巨大なシルエットから発せられた声は怒りが滲んでいた。


 魔王の周囲に漂う漆黒のオーラがざわざわと歪む。


「はい、魔王様」


 玉座の前に跪くのは魔人七柱の一人、ザックス。

 筋骨隆々の体躯、背中を覆う大きな翼も、魔王を前にすると矮小に見える。


「死因は不明ですが……ユフィ・アビシャスが関与している可能性があります」


 魔王はゆっくりと立ち上がり、ザックスのそばに歩み寄った。

 近づいてくる毎に空気が重くなり、ザックスは視線を動かすことすら出来ない。


「無能が……」


 魔王は低く呟き、その大きな手をザックスの頭に触れた。

 じゅくじゅくと音を立て、強靭なはずのザックスの後頭部が煙を溶け始める。


「ぐっ……う……」


 痛みと恐怖に苛まれながらも、ザックスは奥歯を噛み潰す。

 ここで悲鳴でも上げようものなら、さらなる苦痛が待っているとこれまでの経験則から把握していた。


「貴様は何をしているのだ? 魔族の戦力ばかりが削られ、人間側には全く損失を与えられていない」


 魔王の声は静かでありながら、冷酷な怒りが込められていた。


「申し訳ありません、魔王様……次は必ず……」


 ザックスは痛みをこらえながら、声を振り絞る。


「次は無いぞ」

「はっ……」


  魔王の手が離れ、ザックスは深く頭を垂れた。


「最強の眷属を伴って魔法学園を襲撃し、必ずや人間どもに恐怖を思い知らせてみせます」


 ザックスの言葉に応えず、 魔王は再び玉座に戻りその姿を闇に溶け込ませた。

 後に残されたのは静寂だけであった。


◇◇◇


 今日は休日。

 そして、エリーナが家に来て回復魔法を教えてくれる日である。


「……ふうっ、これでよしっ」  

 朝、寮の自室を見回してユフィは「ふいー」と汗を拭った。

 目元には深いクマが刻まれ、ちょんっと押したら今にも倒れてしまいそうな疲労感が漂っている。


 昨晩、『明日はエリーナさんが家に来るから、ちゃんと掃除をしておかないと!』と思い立ったユフィは、夜通し部屋の掃除に勤しんでいた。


 その結果、部屋はピカピカに磨き上げられ、どの壁も床もシミひとつない綺麗さになっている。

 服もなるべく清潔感を漂わせようと、トップスからソックスまで真っ白なものをチョイスしていた。


 肌の青白さと寝不足のげっそりも相まって一見すると幽霊にも見えるが、本人にその自覚はない


『な、なんも面白みもない部屋だと退屈させてしまうかも……』


 元々物が少ない上に、ぼっち故に複数人用の遊び道具などあるはずもない。

 考えた末に、ユフィは部屋をキラッキラにデコレーションし始めた。


 ユフィが張り切ってしまうのも無理はない。


 ──ねえねえ! 今日、ミアちゃんの家に遊びに行って良い?

 ──もちろん! お人形さん遊びしよー!

 ──わーい! 楽しみ! 


 地元の教会に通っていた時、同級生たちのそんな会話に聞き耳をたて、『お友達が家に来て遊ぶ妄想』をしていたのも今は昔。


(家に誰かが遊びに来る……夢に見たイベントの一つがついに!!)


こうして、ユフィは部屋の大改造に精を出した。


 なるべく楽しんでもらおうと、カラフルなリボンや風船を部屋中に飾り、いくつもの花束で彩り、さらには『歓迎!! ~エリーナ・セレスティア様ご訪問~』という横断幕を部屋の中央に掛けていた。


 お楽しみの巨大クラッカーも用意したし、歓迎の準備は万全である。


「後はエリーナさんを迎えるだけ……うぅう……緊張する……」


 徹夜なのもあり疲労困憊だが、家に友達が来るという事実だけで目がギンギンである。

 エリーナがくるまでもう少し時間があるはずだが、仮眠を取れそうにもなかった。


「……ちょっとだけ、自主練しよう」


 ユフィは台所に向かい、ナイフを手にする。


「今日は少し、冒険してみようかな」


 回復魔法の威力はほんのちょっとずつだが向上している。

 なので今日はいつもより大きめな傷をつけてみようと考えた。


「少し場所も変えてっと……」


 いつも指先だが、今日は手首の方を切ってみようと思った。

 手元が狂ったら大変なことになる場所だが、ぶっちゃけ寝不足で頭が回ってなく何の躊躇いもなかった。


 すうっと息を吸い込み、「えいっ」と手首の辺りにナイフを突き立て──。


 ──コンコンッ。


「はうあっ!?」


 ぶすっ。

 ぶしゃー!


「ああああああああっ!!??」


 突然のノック音にビビり散らかして手首をけっこう深くやってしまった!


 びしゃっ、びしゃっと、ユフィの私服に鮮血が飛び散る。


「ユフィちゃん。エリーナだけど、どうしたの? 何かすごい悲鳴が聞こえてきた気がするけど」

「いいいい今行きます!!」


 大量に出血する手首の治療よりも、ナイフを置くことよりも、まずはエリーナをお出迎えすることを優先した。

 ドタバタと音を立てて、ユフィは玄関へ急ぐ。


「よ、ようこそおいでましたエリーナさん!」

「えっ……?」


 ドアを開けたユフィを見るなり、エリーナは硬直した。


 それもそのはず。

 エリーナからすると、玄関から出てきたのは真っ白な服に血飛沫を散らし、手首からだらだら血を流し、片手にナイフを手にするユフィだったのだから。


「ユフィちゃん!! 早まっちゃ駄目!!」

「え!?」


 ガシィッ!!

 何を勘違いしたのか、エリーナが顔面蒼白になってユフィのナイフを持つ手を掴む。


「辛い時があったら私か私か私に相談してっていつも言ってるでしょう!?」

「ちょっ! エリーナさん! 落ち着いてててててててててててっ!?」


 握力127のパワーにびっくりして、ユフィはエリーナの掴まれたまま後ずさった。

 エリーナもエリーナでパニックになっているようで、そのまま二人は部屋の中にバタバタと入っていった。


「きゃっ!!」

「わわっ!?」


 揉み合いになっている間に、景気付け用で部屋の真ん中に放置していた巨大クラッカーに二人とも折り重なって倒れてしまい──。


 どかーん!!!!!!


 ユフィの部屋が、大爆発を起こした。

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