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第81話 預かり知らぬところで進む会合

「……以上が、ユフィ・アビシャスという生徒に関してと……本日、彼女が魔人ルーメアを撃破したとされる経緯の報告となります」


 臨時の生徒会が終わって十分も経たないうちに、ノアは別室で次の会議に臨んでいた。


 今宵、来賓を迎える応接間は重苦しい緊張感が漂っていた。

 

 厳重な人払いが施された応接間には、ノアの他に魔法学園の最高責任者である学園長、そしてエルバドル王国の軍務大臣ガイオスが席に座っている。


 最初に口を開いたのは学園長アントンだった。


「ノア殿下……私としても、その……言葉を選ぶべきか迷っているのですが……」


 細いフレームの眼鏡をかけ、気弱そうな顔をしたアントンの口調は辿々しい。


 生徒とはいえ、第二王子という自分よりずっと格の高いノアを相手にしているというのもある。


 しかしそれよりも、ノアの話した内容に戸惑いを隠せないようだった。


「遠慮せず、思っていることを話していただければ」


 その反応は織り込み済みだとばかりに、ノアが涼やかな声で促す。


「では遠慮なく……ユフィという少女が攻撃魔法を使える……本当に、そう仰るのですね?」

「事実です。私の弟ライル、そして次期聖女候補のエリーナ、他にもエドワードにジャック、そしてキャサリンと、多くの目撃者がおります」

「じゅ、重鎮の令嬢令息達勢揃いですな……」


 国の中でも重要ポストの次世代が首を揃えた、奇跡の世代と呼ばれた者たちの名が出て、アントンは額にたらりと汗を流す。


「殿下のお言葉を疑うわけではありませんが……やはり信じられませんな。女が攻撃魔法を使えるなんて……」

「真偽の話は後回しでいい」


 半信半疑のアントンの声を野太い声が遮る。


 声の主──軍務大臣ガイオスは、圧倒的な存在感を放つ男だ。

 大柄な体格に片目を覆う眼帯。


 多くの勲章が刻まれた制服が彼の戦歴と権威を物語っている。

 ガイオスが腕を組んだまま、重々しい声で口を開いた。


「第二王子であるノア殿下が権限を行使し、学園長と軍務大臣を呼び寄せて緊急招集……とてもじゃないが、嘘を言っているとは思えん。ユフィ・アビシャスという少女が本当に攻撃魔法を使えるかどうか、それはいつでも確認できる。問題は、魔族の脅威が近づきつつある今、迅速に対策を講じる必要があるということだ」

「そ、そうですか……」


 大地を揺らすようなガイオスの声に、アントンは戸惑いながらも口を開く。


「私は、ユフィを即刻退学させ、国の機関に一任するべきだと考えます。このような異例の存在は、学園で対応しきれません」


 アントンの慎重な提案は、部屋の空気をさらに冷たくした。


「退学にする必要はなかろう」


 ガイオスが再び口を開く。

 その声は重厚で、反論を許さない圧力を帯びている。


「なぜですか、ガイオス殿?」


 アントンが尋ねると、ガイオスは淡々と答えた。


「ユフィという少女は、回復魔法を学び、聖女になるために学園に来たのだろう? 学びの意志を持つ若人の意志を、大人の事情で反故ほごにするべきではない」

「しかし……」

「冗談だ」


 皮肉げに笑みを浮かべてから、ガイオスは続ける。


「女の身でありながら、最強の攻撃魔法を使える存在は歴史上類を見ない。本来であれば然るべき国の機関に拘束し、さまざまな調査を敢行するべきではある」

「そうです、そうですよ。だから、退学の方向が良いと私は考えているのです」

「だが学園長、よく考えてみろ」


 アントンの目を見据えて、ガイオスは言う。


「ノア殿下の報告を聞く限り、ユフィという少女は一人で魔人を蹂躙できるほどの攻撃魔法の使い手。学園を退学させるのは、彼女を不必要に刺激する恐れもある。癇癪を起こされて国ごと吹き飛ばされる、なんてことになったら敵わん」

「まさか、そのようなことは……」

「無いと言い切れるのか?」

「…………」


 ガイオスに訊かれて、アントンは押し黙った。

 ノアに視線を向けてガイオスが尋ねる。


「殿下によると、ユフィは性格的に少々問題を抱えているとか?」

「ええ、まあ……」


 言いづらそうにノアは説明する。


「確かにユフィは少し情緒が安定していないと言いますか……変わったところがあるので……僕としても、彼女は予想の出来ない言動を取ってくる印象があります」


 話しながら、ノアは思考を走らせる。


 普通に考えると、この会合にユフィを出席させるべきだった。

 しかし、そうしなかった。


 理由は単純だ。


 ノアからすると、ユフィは少々……いや、かなり奇行に走る側面がある。


 彼女の性質をまだ把握しきれておらず、コントロールも出来ない現状で二人に会わすのは、予想だにしたいアクシデントが起きるかもしれない……という判断で、まずはノアから情報を伝えるという体になったのだ。


「その点も含めて、まずは調査をする必要があるな」


 小さく息をついてから、ガイオスは続ける。


「彼女の人格をまだ把握出来ていない以上、こちらから刺激を与えるべきでは無い。一方で、女にして攻撃魔法を使えるという事実が広まれば、ユフィを狙う敵が増え、社会的な混乱を引き起こしかねん。まずは通常通りユフィを学校に通わせつつ極秘裏に調査を進め、ユフィの能力とその影響を把握する……それが収まり良いだろう」


 言い終えると、ノアは「僕も、その意見に賛成です」と深く頷いた。


「わかり、ました……では、お二人の方針で……」


 アントンは納得しきっていない様子だったが、しぶしぶ同意した。


 第二王子と軍務大臣で方針が一致しているとなると、いち教育機関の長程度が異論を唱えられる空気では無い。

 

 こうして、ユフィの預かり知らぬところで方針が決定したのだった。


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