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【書籍化・コミカライズ】聖女様になりたいのに攻撃魔法しか使えないんですけど!?  作者: 青季 ふゆ@醜穢令嬢 2巻発売中!
第三章

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第71話 地獄のトレーニング

(なんでよろしくお願いしますって言っちゃったの私!!!!!!)


 ジャックに体力トレーニングの監督を提案したのを、ユフィは秒で後悔した。


「おらおら! もうへばったのか!! 早すぎるぞ!」


 鞭を手にジャックが怒号を響かせる。その姿は鬼軍曹そのものだった。


「ひいっ……ひいっ!!」


 最初に始まったダッシュトレーニングでユフィの心は早速折れかけていた。

 床に置かれた複数の目印をダッシュでタッチして、次の目印にもダッシュでタッチしての繰り返しである。


「もっとだ! もっと速く! これで瞬発力と敏捷性を鍛えられるぞ!!」

「はぁっ……ひいっ……はあっ……」


 ユフィは全力で走り、地面に置かれた目印を一つずつタッチしていった。


 石の配置はランダムで、ユフィは次の石を探しながら全力で駆け回る。

 当然、ユフィの体力は一瞬で底をついた。


 心臓が爆発しそうなほど速く動き、息が上がる。


「べふっ!!」


 足がよろめいた拍子にこけてしまったが、ジャックは容赦しなかった。


「止まるな! 立ち上がれ!!」

「はっ、はいいいいっ!!」


 ジャックの声に突き動かされるままに、ユフィはひたすら足を動かし続けた。


「かひゅー……かひゅー……」

(死……死ぬっ……!!)


 血の気の引いた顔で床に倒れ込むユフィに、ジャックは追い討ちをかけるように言う。


「よし、次はプランクジャンプだ!」

「ぷ、ぷらんく、じゃんぷ?……!!」

「俺のやる通りに動け! さあ、始め!」

「ひゃ、ひゃいっ!」


 休む暇もなく始まったプランクジャンプとやらに取り掛かる。

 ジャックの指示に従い、ユフィは地面に両手をつきプランクの姿勢を取った。


 そして両足を揃えてジャンプし、両膝を胸に引き寄せた後、再び元の姿勢に戻る。


「ふ、腹筋と背筋が……ビキビキと音を立てて……!!」

「たりめーだ! そこに効かないと意味がない!! さあ、どんどんやっていけ!」

「はっ、はいいいいっ!!」


 普段使わない筋肉が悲鳴を上げるのを感じながらも、ユフィは懸命にプランクジャンプを続けた。


「よし、それまで!」


 ジャックの合図でユフィはその場に崩れ落ちた。


「はあっ……はあっ……もう無理……」


 仰向けのまま息絶え絶えで言葉を漏らす。

 全身は燃えるように熱く、身体の節々が千切れるんじゃないかと思うほどの痛みが走っていた。


「まだ喋れるという事は、限界じゃないな?」


 ニヤリと、ジャックが嗜虐的な笑みを浮かべてユフィの背筋がぶるりと震えた。


「最後はシャトルランだ! 全力で行くぞ!」

「ひいいいいいいいいいっ!!」


 シャトルランは決められた距離を全力で走り、折り返し地点でターンして戻るというトレーニングだ。


 単調なトレーニングだが、ダッシュトレーニングとプランクジャンプをしてボロボロの状態でやるのは体力的にも精神的にも辛い。


「おらおら! まだ十ターンしかしてないぞ! 目標百ターンだ! 本気見せろ!!」

「かひっ……ひぃっ……」


 白目を剥きそうになりながら、ユフィは懸命に足を動かすのだった。


◇◇◇


「よし、それまで!!」


 ジャックの合図でシャトルランが終わる。

 瞬間、ユフィは崩れるように倒れ込んだ。


 全身は鉛のように重く、呼吸は途切れ途切れで心臓は今にも爆発しそうだ。

 視界は霞み、頭の中で鈍い音が響いていた。


 そんなユフィの元にジャックはしゃがみ込んで声を掛ける。


「おーい、大丈夫か? 生きてるか?」

「ア……見える……」

「あ?」


 どこか穏やかな表情で言葉を口にするユフィにジャックは眉を顰める。


「死んだおばあちゃんが……見え……待ってて、すぐその川を渡るから……」

「おい大丈夫か戻ってこい!」


 ジャックは慌ててユフィを起こし、パパパパン!! と高速平手打ちをした。


「はっ、私は何を!? おばあちゃんは!?」

「帰ってきたか」


 ユフィの目に生気が戻ってきたのを確認して、ジャックはホッと胸を撫で下ろした。


「絶望的に体力がないんだなお前」

「返す言葉もございません」


 しょんぼりした様子で言うユフィに、ジャックは「謝る必要はねーよ」と言う。


「俺も、ここまでズブの素人とは思ってなくてやりすぎちまった。すまんな」

「い、いえ!」


 バツの悪そうに謝罪を口にするジャックに、ユフィはぶんぶんと頭を振った。


「私なんかのためにトレーニングメニューを考案してくださって、監督までしてくれて……感謝しかないです」


 純粋な笑顔を浮かべるユフィに、ジャックは珍しい生き物を見るような目で言う。


「死にそうになるまで扱かれたのに、ドMだなお前」

「どえむ? ……って、なんですか?」


 ユフィが首を傾げると、ジャックは(マジか)みたいな顔をして一瞬固まった。

 どう説明するか考え込んだあと、ぎこちない口どりで言葉を口にする。


「あーー……まあ、あれだ……逆境に強い、みたいな感じだ」

「な、なるほどです! ありがとうございます、一つ賢くなりました! ドMは逆境に強い……っと」


 メモを取り出し、神妙な顔つきで書き込む姿を見て、ジャックは堪えきれずに噴き出した。


「ど、どうしたんですか? 私、何か変なことでも……」

「いや、わりい。やっぱお前、変わった奴だなと思って……くくく」


 笑わせるつもりはなかったが、なぜかジャックにはウケたようで。

 ユフィも釣られて「うへ……うへへ」とぎこちない笑みを浮かべた。


「よし、今日はもう帰って良いぞ」

「え、でも……」

「体力、限界だろ?」

「そ、それはそうかもです……」


 確かに身体はもう限界に達していた。

 足はまるで糸が切れた人形のようにぷるぷると揺れ、立つのもやっとという具合である。


「今夜はタンパク質をしっかり摂って、ゆっくり休むことだな」

「タンパク質……」


 日常的にあまり耳にしない単語を聞いてユフィは首を傾げる。


「ゴボウって、タンパク質たくさん含まれてましたっけ……?」

「あっ……」


 ジャックは何かを思い出したような表情を浮かべる。

 ジャックの頭の中では、以前生徒会メンバーでランチをした際、ユフィ一人だけゴボウをポリポリしていた記憶が蘇っていた。


「そうだ……そうだったな……コイツは、食が全部ゴボウになる程切り詰めて学園に通ってたんだったな……」

「あ、あの、ジャックさん?」


 何やら盛大な勘違いが続いているような気がする。


「待ってろ」


 真剣な面持ちのまま、ジャックはその場を後にした。


(なんだろう……?)


 言われた通りステイしていると、ほどなくしてジャックが大きな箱を手に持って戻ってきた。


「こ、これは!?」


 ユフィは目を丸くして箱の中身を見つめた。

 そこには綺麗にパッキングされた栄養満点の食材がぎっしりと詰まっていた。


「茹でた鶏胸肉に干し肉、ブロッコリー、タンパク質のオールスターだな」

「す、凄い……こ、こんなにたくさん……」


 普段はゴボウばかり食べているユフィだが、食に全くの無頓着というわけではない。


 美味しいものには目がないし、たまにはゴボウ以外も食べたいなあと思っていたところだ。

 箱の中にずらりと並んだ動物性タンパク質を目にして、ユフィはじゅるりと涎を垂らした。


(た、食べ切れるかな……?)


 そんな心配を抱くユフィに、ジャックは目に慈愛めいた色を滲ませて言う。


「今までさもしい食生活だったんだろう? これを機にたくさん食べておけ」

「は、はあ……」


 食べ切れるのかどうかを心配していたユフィだが、何やら別の心配をされたようだった。


 とはいえ、ありがたいことには変わりない。

 ジャックの好意に甘えて受け取ることにした。


「今後、体力トレーニングの後はとにかくタンパク質を食え。筋繊維が切れた後にタンパク質を摂ることで筋肉が修復されて強くなる。トレーニング後の食事は特に重要なんだ」

「はい! わかりました!」

「この紙にメニューも書いておいた。参考にすればいい」

「なんという用意周到さ……!!」


 ユフィは驚愕の声を上げた。 

 ジャックの細やかな配慮に感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。


(初めて会ったときは、怖くてとっつきにくい人だなって思っていただけど……)


 こうして接してみると、案外面倒見が良いように見える。

 素直じゃないだけで、実はとても優しい人なのだとユフィは思った。


「色々と本当にありがとうございます」


 ユフィは深く頭を下げた。


「俺の方こそ、攻撃魔法の練習に付き合わせているからな。これくらい訳ねえ」

「(私みたいな価値のない人間にも良くしてくれるなんて)優しいんですね、ジャックさんって」


 ユフィが言うと、ジャックはふいっと目を逸らす。

 そして鼻の下を指で摩りながら、ぶっきらぼうに言った。


「頑張ってる奴を無碍にする理由は無えからな。それだけっつの」


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