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【書籍化・コミカライズ】聖女様になりたいのに攻撃魔法しか使えないんですけど!?  作者: 青季 ふゆ@醜穢令嬢 2巻発売中!
第三章

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第57話 救世主エリーナ

 ユフィが聖女を目指す理由はただ一つ。

 ──ユフィちゃん、いつも一人だね。


 思い出すだけで頭が破裂しそうになるこの言葉を、人生から撲滅するためだ。


 エルバドル王国の限界集落と名高いミリル村で生まれたユフィは、生まれつき身体が小さく、気も弱く、人見知り全開という三コンボを食らって友達がいなかった。


 いわゆるぼっち。


 学校として通っていた教会では休み時間も、お昼ご飯も、放課後でさえユフィは一人で過ごしていた。


 そんなユフィが人生の転機と捉えたのが、村を訪れた聖女が見せた奇跡。

 近所に住むエドおじさんの、事故で失われた片腕を治癒して村人たちから称賛を浴びる聖女を見てユフィは憧れた。


 ──私も、聖女様みたいに誰かの役に立ちたい! それから皆からチヤホヤされて……ぐふふふふ……。


 下心も混ざった動機で聖女を目指すユフィだったが、使えたのは何故か攻撃魔法のみだった。


 この世界では、攻撃魔法は男だけ、回復魔法は女だけが使えるとされている。

 その絶対的な理をグーパンで粉砕するかの如く、ユフィは五属性全ての魔法を最高水準の威力で使うことができた。


 こうして人類史上類を見ない存在となったユフィだったが、閉鎖的な村で育ったこともあり、女でありながら攻撃魔法を使える異常性を理解せずにすくすくと成長を遂げる。


 一方で、本来望んでいた回復魔法の練習に邁進するもからっきし駄目で、ほんの些細な切り傷を1時間かけてようやく治すという体たらく。


 ──村を出て、ちゃんとした学校で回復魔法を習えば使えるようになるかも……。


 そんな目論見のもと、エルバドル王国一の教育機関である魔法学園に入学する。


 初日の授業でうっかり攻撃魔法を使った場面を第三王子ライルに目撃され生徒会に入る流れになったり、生徒会のメンバーたちを抹殺せんと襲来したA級モンスターのキング・サイクロプスの消し飛ばしたりと、当初思い描いたような学園生活とは若干違うような気もしないものの、ユフィは平和で穏やかな日々を過ごし……。


「ユフィ・アビシャス! 私の授業で遅刻とは良い度胸だな!!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」


 魔法学園の校舎。

 一年一組の教室の入り口でユフィはブッチブチに怒られていた。


 ユフィの遅刻は今に始まった事ではないため、クラスの空気というと真冬の湖くらい冷ややかなものだ。


 ユフィに烈火の如き怒号を浴びせるのは、業火の如く赤い髪が特徴の女性教諭。

 熱血教師という言葉がぴったりと当てはまるシャロン先生だ。


「一応、言い訳を聞こうか?」


 腕を組み、ぎろりと圧を放ちながらシャロンが尋ねてくる。


(空から落下しながらドラゴンを撃墜して着陸した際に出来た擦り傷を1時間かけて治してたら遅れました!!!!)


 などと正直に言えるわけもなく。


「…………お日様が気持ちよくて」


 ビキィ!!

 引き攣った笑みを浮かべるユフィに、シャロンの青筋が音を立てた。


「仮にも貴様は生徒会の一員だろう! 生徒の模範となるべき立場で寝坊するなぞ言語道断だ!」

「かかか返す言葉もございましぇん……」


 鋭い刃物のような正論がユフィを突き刺す。

 そのまま微粒子となって消えてなくなりそうになっていたその時。


「まあまあ、シャロン先生」


 アメーバになって溶けそうなユフィの元に、一人の女子生徒がやってきた。


「ユフィちゃんも反省しているみたいですし、その辺で許してあげてください」


 女子生徒──エリーナはそう言って、ユフィを庇うように抱き寄せた。

 

 ぱっちりと大きくて澄んだ瞳は柔和ながらも一本芯の通った強い光を放っている。

 綺麗に通った鼻筋、ぷるんとした桜色の唇、神が利き手で丹精込めて創り出したかの如く顔立ちだ。


 白く滑らかな肌は陶磁器のようで、背中まで伸ばした銀色の髪は絹糸みたいに輝いている。

 すらりとした体躯には学園の制服を纏い、この世の全ての邪を浄化する聖なるオーラを漂わせていた。



「エ、エリーナざあん……」


 救世主現れたりとばかりに、ユフィはエリーナに縋り付いた。

 エリーナは公爵名家の令嬢かつ次期聖女候補の一人ということで、学園において大きな発言力を持つ。



 シャロンはバツの悪い顔をしつつ、盛大にため息をついてから踵を返した。


「明日も遅刻してみろ。この世で一番の地獄を見せてやる」

「き、肝に銘じます!」


 ドラゴンをも殺さんばかりの低い声に、ユフィは鬼軍曹に仕える三等兵のような敬礼をする。


「なんとか助かったわね、ユフィちゃん」


 エリーナが一難去ったとばかりに言う。

 ユフィはパッと身体を離し、流れるような動作で手足と頭を床に擦り付けた。


「ありがとうございますエリーナ様本当に助かりましたこの恩は一生かけて返しますまずは私の舌で靴磨きでも……」

「いいってばそんなのー。次から遅刻しないように、気をつけてね」

「はいい……」


 ユフィが涙声で頷くと。


「……ふふふ……ユフィちゃん、やっぱり可愛い……このまま家に持って帰って部屋に監禁してそれから……」


 パッとユフィは顔を上げる。


「今、なんて言いました?」

「いいえ何も? ささ、席に行きましょ」

「は、はい……」


 肉食獣を前にした子鹿のような心持ちで、ユフィはエリーナに差し伸べられた手を取った。



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