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第4話 エリーナとの出会い

 ライルと別れてしばらくして。


「ここ、どこ……?」


 ユフィはまた目尻に涙を浮かべていた。

 とりあえず寮へ向かっているはずが、見事に迷子ちゃんになってしまったのだ。


 この学園、広い。

 とにかく広い。

 住んでいた村ごとすっぽり入ってしまうんじゃないかと思うくらいの広大さだ。


 自分の住んでいた村の中ですらたまに迷子になる方向音痴っぷりのユフィが、初めて訪れた学園の敷地内をスムーズに移動するのは至難の業であった。


「こうなったら……」


 人に尋ねるしかない。

 幸か不幸か、学園内にはちらほらと人が歩いている。


 声をかけて、寮の場所を教えてもらうのだ。

 そしたら万事解決である。


 しかし。


「無理無理無理! 絶対に無理!」


 自分から人に話しかける──それはユフィにとって、赤子がブラック・ウォルフをに挑むほど難易度の高い所業だ。

 想像するだけで胃袋が裏返りそうになる。なんとしてでも避けたかった。


 でもこのままだと、寮に辿り着けないまま一生を終えてしまう。

 聖女になる前に白骨死体になってしまうのは一族の恥どころの騒ぎではない。


「うううあう……どうすれば……」

「何か、お困りごと?」


 しゃらん、と鈴が鳴るような声。

 ただただ美しいその声に導かれるように振り向く。


「わあ……」


 ──とんでもない美人がそこにいた。


 ぱっちりと大きくて澄んだ瞳、主張は控えめながらも綺麗に通った鼻筋、全てのパーツが完璧な配置だ。

 すらりとした体躯に、陶磁器のように白く滑らかな肌、背中まで伸ばした銀色の髪は絹糸のよう。


 学園の制服を優雅に身に纏い、清楚さや流麗といった圧倒的な品を以て立っていた。


 美しい、という言葉はこの人のためにあるのだと思わせるような女性だった。


 そして何よりも目を引いたのは、穏やかで、この世界の悲しみや苦しみ全てを包んでしまいそうな慈悲深い表情。

 ふとユフィは、遠い昔に見た女性のことを思い出す。


 九年前、村にやってきた聖女様と、どことなく雰囲気が似ている気がして……。


「……どうして隠れているの?」

「ごめんなさい、あまりにも眩しくて……」


 ライルと同じく女性が放つ圧倒的な光のオーラに耐えきれなくなって、リュックの裏に身を隠したユフィ。


「そう? 太陽はもう沈みかけている時間だと思うけど」


 女性は女性で不思議そうな顔で言う。

 言葉の意味をそのまま受け取ったようだ。


 ずっと隠れているわけにもいけないので、ユフィはリュックから顔を出す。


『にゃんっ』


 同時に、ユフィの胸もとからシンユーがひょっこり顔を出した。


「あっ、こら、シンユー!」

「まあ!」


 先程まで静かな佇まいだった女性が目を輝かせる。


「まあまあまあ、なんて可愛らしいの! あなたの使い魔ちゃん?」

「あっ、いえ、えっと……使い魔ではない、です、はい」


 びゅんっと目の前にきてシンユーを撫ではじめた女性に、ユフィは言葉に詰まらせながら答える。


「ということは、お友達ね。とても良いと思うわ。名前はなんて言うの?」

「シンユーです」

「……? そうなのね、親友さんなのね。それで、名前は?」

「シン、ユー、です……」

「……ああ、ああ! そういうことね! なかなかユニークな名前だから、勘違いしちゃった。きっと、人間の親友と同じくらい絆を深めたい……そんな思いが込められているのね」

「あ、あはは……ソウ、カモデスネ」

(私の唯一の親友イマジナリーフレンドだからシンユー、とは言えない……)


 ユフィは全力で目を逸らした。


「付き合いは長いの?」

「い、いえ、さっき会ったばかりと言いますか」

「まあ、すごい! すぐにお友達になったのね、羨ましいわ。私も家からブラックホールセラフィムとデーモンオーバーロードゴッドフェニックスを連れてくればよかった」

「ブ、ブラ……?」

(邪神でも飼っているのかな……?)


 この時点でユフィは、女性に対し(ちょっと変わった人かも……?)という印象を抱きはじめた。


「あの……学園に動物を連れてくるのは、普通なんですか?」

「貴族の中には、魔法を使う上で必要な使い魔とか、自分のペットとして犬や猫を連れてくる人も少なくないわ。寮で動物を飼うことは自己責任の範囲で許可されているはずよ」

「な、なるほど……」


 だから門番には特に突っ込まれなかったのかと、ユフィは今更な納得感を得る。


(はっ、この流れに乗じて!)


 意を決して、ユフィは声をあげる。


「じ、実は! その寮に行きたいんですが、道に迷ってしまって……」

「あらあら、そうだったのね。えっと、寮までは……」


 女性は嫌な顔ひとつせず、寮までの道筋を懇切丁寧に教授してくれた。

 困った人を助けるのは息をするのと同じと言わんばかりに。


「あ、ありがとうございます! 本当に助かりました!」


 ユフィは何度も何度もお辞儀をして礼を口にした。


「どういたしまして。そんな大仰にしなくても、大したことはしていないわ」


 ユフィの、命の恩人に対してばりの謝辞に女性は微かに気圧されている様子。

 しかし、女性はにこりと裏表のない完璧な笑顔を浮かべた。


 その時だった。


「エリーナ様ー!」

「ここにいましたか! ずいぶん探しましたよー!」


 向こうのほうから何人か女子生徒が駆けてきた。

 それを見て、女性は「あらあら」と少し残念そうに眉尻を下げる。


「見つかちゃったか。束の間の一人の時間だったわね……って、あら?」


 いつの間にか、ユフィが忽然と消えていた。

 あたりを見回すと、大きなリュックを背負った後ろ姿が、寮の方向へ全力で遠ざかっている。


「何か急用を思い出したのかな」


 欠片も不快に思ってない声色で女性は言う。

 続けて、ぽつりと呟いた。


「そういえば、名前を聞くのを忘れてたわね」

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