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第42話 エドワードの気遣い

「流石に、さっきのはひどいんじゃないかしら?」


 呆れた様子のエリーナがやって来て、エドワードに非難めいた言う。


「ふん、ノア様から与えられた使命を遂行したまでだ」

「劣等生は言い過ぎでしょう」

「『名誉』と付けただろう」

「名誉生ゴミと言われて嬉しい人はいないでしょ?」

「なんにせよ、ユフィの生徒会入りによる混乱は収めることができた。感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはない」

「むむ……もう少し別の言い方もあったと思うんだけど」


 納得のいっていない様子のエリーナに、エドワードはわかっていないなと言わんばかりに息をついた。


「貴族はプライドの高い生き物だ。あの場で迅速かつ、皆を納得させられる建て付けは、あくまでもユフィは『立場も能力も劣っている』、つまり自分達貴族よりも下の存在である、という切り口で説明するのが手っ取り早かったんだ」

「な、なるほど、エドワードなりの気遣いだったってわけね」

「……言葉選びについては、少々厳しかったかもしれない。そこは善処の余地があった、謝罪する」


 居心地悪げに言うエドワードに、エリーナはやれやれと腰に手を当てる。


「本当、口が下手なんだから……って、ユフィちゃん、大丈夫? なんか真っ白になってるけど」


 エリーナに訊かれて、心のHPがゼロになったユフィが微笑みながら頭を上げる。


「エエ、エエ、ダイジョウブデスヨ。私は所詮、その辺を這うミジンコゴミムシなので。今更ナニヲ言われてもダイジョウブですよアハハハ」

「うん絶対に大丈夫じゃないよね」


 エリーナが苦笑を浮かべていると。


「ユフィ」


 いつの間にかやってきたライルが、静かに手を伸ばしてユフィの肩に手を置いた。


「ひゃうっ!?」


 急な接触で驚くユフィの耳元に顔を近づけて、ライルは小さく囁く。


「ユフィは凄い力を持っていると、僕を含め生徒会のメンバーは皆知っているよ」


 ぽんぽんと、ライルが小さな肩を叩く。


「だから、大丈夫。自信持って」

「ライル様……」


 はぐれた子供がようやく母親を見つけたみたく、ユフィの顔に明るさが戻る。


 落ち込みやすい一方、褒められるとすぐに上機嫌になる単純なユフィであった。


「ライル様! おはようございます!」

「今日もご機嫌麗しゅう、ライル様!」


 そわそわした様子で、ライル目当ての女子がやってきた。


「おはよう、アンナ、ソフィ。今日も一段と美しいね」

「まあ! ライル様にそう仰っていただけるとは、それだけで今日一日頑張れそうです!」

「本当にありがとうございます! ライル様とお話できた今日という日を、私は未来永劫忘れることはないでしょう!」


 二人の女子は目を♡にし、興奮冷めやまぬ声でライルに話している。


「ははは、それは流石に大袈裟だよ。……そうだ。良い機会だし、生徒会の新メンバーのユフィを紹介……ってあれ?」


 忽然と、ユフィの姿が消えていた。


「ユフィは?」


 きょろきょろと辺りを見回すライルにエリーナが言う。


「ユフィちゃんならさっき、目にも留まらぬ速さで教室を出ていったわ」

「あー……」


 何かを察したライルがぽりぽりと頭を掻く。


「ごめんよ、ユフィはちょっと恥ずかしがり屋みたいで……」

「そんな! ライル様が謝るようなことではありません!」

「平民である方にも紹介の機会を与えるライル様のお心遣い、とても素敵でございます!」

「ありがとう。そう言ってくれると助かるよ」


 ライルが微笑みを向ける。

 すると二人の女子はハートを撃ち抜かれたみたいに卒倒しそうになるのであった。


 一方、その頃……。


(うう……せっかくライル様が機会を作ってくださったのに……)


 教室を出てすぐのところで、ユフィは自己嫌悪に溺れそうになっていた。

 自分に話題を振られると思った瞬間、反射的に逃げ出してしまったのだ。


(人と話すのは、まだ難しいな……)


 ライルやエリーナは向こうから話しかけてくれるためまだ会話ができるが、自分からとなると厳しい。

 十五年かけて身体を蝕んだ、ヒトトシャベルノコワイ病はまだまだ健在だった。


「いつか……まともに喋れるようになりたいな……」


 ぽつりと、ユフィがこぼしたその時。


「……本当、ふざけてますわね」


 明確な憎しみを孕んだ声。


「えっ……?」


 周りをきょろきょろするも、こちらを見る人はいない。


(気の、せい?)


 こてんと、ユフィは首を傾げるのであった。


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