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第40話 ゴボウを食べながら考える

 夜、寮の部屋に響くのは、ユフィがゴボウサラダをつつくフォークの音。


「うん、美味しい……」


 机の上でゴボウサラダを口に運ぶユフィが満足げに言う。

 ゴボウサラダはミリル村の名物料理で、ユフィにとっての母の味と言って良い。


 作り方は簡単だ。

 ゴボウをサッと洗って細かく千切りにし、水にさらしてアクを取る。


 それから水気を切って熱したフライパンに投入し、ソースや酢、砂糖などで炒めると完成だ。

 サラダと言いながら牛蒡しか使ってないじゃないかと侮ることなかれ。


 一見すると地味な料理だが、ゴボウと、酢砂糖の甘酸っぱさとソースの香ばしさが絶妙に絡み合った味わいで、その食感と独特の風味が癖になる。


 村出身で裕福ではないユフィの、節約の友でもあった。


「まだ、信じられないな……」


 大皿に盛られたゴボウサラダをひとりでぽりぽり食べながら、自分が生徒会に入ったことを思い返す。


「私なんかが、本当に良かったのかな……」


 ユフィの言葉に力はない。

 ライルたちは歓迎してくれたものの、自分が生徒会に所属することの場違い感は未だに拭えなかった。


『気を落とさないで』


 ネガティブが炸裂しているユフィのそばに、シンユーがやってくる。


『きっと大丈夫だよ、なんとかなるよー』


 いつも通りの明るさで言う全肯定シンユーに、ユフィの頬が綻んだ。


「うん……そうだね、そうだよね……ありがとう、シンユー」

『どういたしましてー』


 シンユーを撫でると、胸を覆っていた曇天が少しずつ晴れていく。

 一方で、ユフィの心の中には違う種類の温かな感情もあった。


 たとえ攻撃魔法が目当てでも、自分に関わりを持とうとしてくれる人が出てきて嬉しい。

 そんな、微かな喜び。


 これから生徒会でやっていけるのか、自分の攻撃魔法についてどんな扱いになるのは、悩みは尽きないが。


「なんとかなる、よね……なんとかならないと……」


 ついには諦めのような、しかし一種の前向きさを持った声で言った。

 それは彼女なりの納得と、ほんの少しだけ勇気を踏み出せたことによる、砂糖ひと匙分くらいの自信の現れであった。


 再び、ユフィはフォークを動かす。


「……ちょっと、作りすぎちゃったかも」


 まだ半分くらいあるゴボウサラダを見て、ユフィはうぷっとなる。

 台所にはまだゴボウサラダが余っている。


「そうだ、お隣さんにお裾分けしよう」


 ユフィはぽんと手を打った。

 これまでお隣さんには、奇行による騒音のお詫びとしてゴボウを二本献上している。


 自分から部屋を尋ねて渡すのは無理なので、袋に包んでドアの前に「ごめんなさい」のメッセージカードと共に置いたところ、学校から帰ってくる頃にはゴボウは無くなっていた。


 ちゃんと食べてくれたみたいで、ユフィはとても嬉しい気持ちになる。


「ゴボウを使った美味しい料理、もっと覚えよう……」 


 そう決意するユフィであった。

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