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第36話 わからない怖さ

「どうして私は、攻撃魔法が使えるの……?」


 それも、桁違いの出力の。


「わからない……」


 思い当たる節は皆無。

 初めて攻撃魔法を使った時、なんとなく頭にイメージを思い描いたら使えた。


 難しいことなんて一つもなかった。だからこそ、周囲の反応が理解できない。

 自分が使えるなら誰だって使えると思っていたし、大した力じゃないと思っていた。


 ただでさえユフィの自己肯定感は地面よりも低い。


 何をやらしても無能だった自分が歴史上存在しないレベルの攻撃魔法を使えるなど、ピンと来るわけがなかった。


 ユフィが攻撃魔法を使えることを受け入れられなかったエドワードたちと同じように、ユフィ本人も、自身の力の特異性を受け止めきれないでいた。


 それどころか自分という存在が異質に思えてきて、形容しようのない怖さが……。


「はっ、いけない!」


 思考がダークサイドに落ちてしまいそうな気配を感じ取って、ユフィは頭をブンブンと振る。


「と、とにかく、今は考えても仕方がない、よね……」


 今日あった出来事は整理できた。あとは明日の自分に任せよう。

 今後の方針は、生徒会室に行った時に決めたらいい。


 ユフィはもうこれ以上深く考えないことにした。


『ユフィ、お腹すいたー』


 隣にちょこんと座るシンユーが、抗議めいた目で言う。


「ああっ、ごめんね。そうだよね、そろそろ御飯の時間だよね」


 ぐう、と胃袋が空腹のサインを奏でる。

 そういえば昼から何も食べていないことを思い出す。


 ずっと頭の中がぐるぐるしていて食事を忘れていた。


(晩御飯、買いに……ううん、面倒だから今日もゴボウでいっか……)


 立ちあがろうとしたその時。


「うごっ……!?」


 びきーーーーん!


 両足に電流が走った! 


 長時間胡座の姿勢をしていたことに加え、思考に没頭していたユフィは己の足がとうに限界を迎えていたことに気づかなかった!


「あっ……ぎっ……」


 腰をやった老婆みたいな動きをしながら、ユフィはヨロヨロと立ち上がるも。


「うおおおおお足がああああぁぁぁっ……!!」


 ゴロゴロゴロゴロ!


 燃えるような痺れと痛みを放つ両足を宙に掲げてユフィはベランダで転げ回った。


(こんな時に回復魔法があれば……!!)


 心の底から思うも無いものは無い。

 一秒でさえ耐えきれない特大級の痛みに悲鳴をあげていると。


『ちょっと! うるさいですわよ!』


 隣の部屋の窓から鋭い女性の声が飛んできた。


「ひい! ごめんなさい!」


 いつものように誠意の土下座をしようとするも、両足の痺れが酷すぎてそれも叶わない。


 申し訳ない気持ちを胸に懸命に口を閉じて、ずりずりと芋虫のように這いずって部屋の中に入る。


 うつ伏せの体勢のまま、必死の思いで窓を閉めてユフィはようやく一息ついた。

 夜もどっぷりふけているのに隣から奇声が聞こえてきたらそりゃ怒られる。


「今朝迷惑かけたばっかりなのに……うぅ……生きててごめんなさい」


 またお詫びの印としてゴボウを献上しなきゃと思うユフィであった。


『ユフィ、大丈夫?』

「……大丈夫じゃないかも」


 色々と大丈夫じゃない。

 両足も、今後のことも。


 だけど、時間は無情にも流れていく。

 その流れに身を任せるしか無いと、ユフィは思う。


 シンユーが『大丈夫、大丈夫ー』とほっぺをぺろぺろしてくれて、ユフィは少しだけ心を落ち着かせた。

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