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第27話 見かけよりも重そうな生徒会室の扉

 翌日、放課後。


 中央校舎のとある一角。

 ユフィはリュックを背負って目的の場所にやって来た。


「こ、ここが生徒会室……」 


 ユフィの目の前には、一見どこかの城門のように見える豪華な扉だった。

 木製の扉は細部まで手が込んでおり、彫刻された文様は神話の英雄達が戦う姿を描き出している。


 まるで、生徒会室という場所が英雄たちの集う場所であることを示しているかのようだ。

 荘厳なフォントで記された『生徒会室』の文字に、豪華な金色の取手。


 全てのパーツに圧倒され、ユフィは呼吸をするのさえ忘れてしまう。


「む、むり……」


 この扉を開けるには、自分じゃあまりにも荷が重すぎる。


「今日は、帰……」


 回れ右しようとした時。


 ──ユフィは僕の大切な友達だからね。


 頭の中でリピートする、ライルの言葉。


「友達……」


 その四文字を呟いた途端、全身がビリビリと痺れた。

 初めてだった。人に、『君は友達だ』と言われたのは。


(今までは私が友達だと思っていても、相手はそう思っていなかった……というパターンしかなかったものね……)


 苦い思い出が蘇る。あれは何歳の頃だったか。

 隣の席のリゼッタちゃんが筆記用具を落としたので、なんとなく拾ってあげると。


『ありがとう! ユフィちゃん!』


 それが、リゼッタちゃんとの初めての会話だった。


『お礼、言われた……』


 この一言で何かが変わった。

 それまで誰とも喋ったことのないユフィにとって、リゼッタちゃんのその一言が、心に新しい風を吹き込んでくれたような気がした。


 以降、ユフィは積極的にリゼッタちゃんに話しかけるようになった。


「ジュギョウ……タイクツデスネ……」


 授業中に何気ない話を振ってみたり。


「ソウジ……タノシイデスネ……」


 放課後の掃除中に話しかけてみたり。

 リゼッタちゃんから返ってくる言葉は「あっ、うん」「そうだねー」みたいなのが多かったが、ユフィはリゼッタちゃんのことを気兼ねなく話せる友達だと思っていた。


 リゼッタちゃんが、他のクラスメイトとのこんな会話を耳にするまでは。


『ねえリゼッタちゃん。最近ユフィちゃんと仲良いけど、友達なの?』

『え? ううーん……私は友達だと思ったことはないかな? ユフィちゃん、声ちっちゃくて何言ってるか聞こえないんだよねー』


 ガーン!!


 以降、リゼッタちゃんと話すことは無くなった。


 思えばこの出来事がきっかけで、ただでさえ苦手だった人との会話が余計に出来なくなった気がする。


 あの時のショックたるや今でも思い出すと胃袋が裏返りそうにグボエッ。


「こ、こんな思い出トラウマはさておき!」


 頭をブンブン振って気を取り直す。


(ライル様は、はっきりと私を友達と言ってくれた……)


 正真正銘、人生で初めてできた友達だった。だからこそ。


(友達であるライル様の頼みを無碍にするわけにはいけない!)


 キッ、と瞳に力を込め、生徒会室の重厚な扉を見据える。

 深呼吸をして、金色の取手に腕を伸ばす。


「いざ……」


 指先が扉に触れようとしたその時。


「さっきから何してんだてめー?」

「ぴゃいっ!?」


 ビクウッ!!


 低く、闘争心を含んだ声に飛び上がる。


 恐る恐るユフィが振り向くと。


「ひっ……」


 ユフィが最も苦手なタイプの容貌をした青年がそこにいた。

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