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第13話 ユフィの今まで③

 回復魔法を試行錯誤すること1年。


「もう……限界っ……」


 森の中で、ユフィは大の字に寝転んだ。

 額にはびっしりと汗をかいている。


「全然、だめね……」


 この1年での成果を思い返す。

 普通は数日かけて傷口が無くなるところを、1時間かけて治すまでになった。


 一応、回復魔法を使えてはいる。

 しかし聖女様はたった数秒の間に腕を再生させていた。


 それに、自分は魔力を異様に消費している。


 攻撃魔法であれば何発でも連続で放つことができるのに、回復魔法は一回使うだけでもごっそりと体力を持っていかれるのだ。


 とてつもなく効率が悪いのである。


「才能……無いのかな」


 ぽつりとユフィは呟き、肩を落とした。

 今の自分は、回復魔法の使い手とは程遠い。


 憧れていた聖女様の背中はもはやどこにも見えなかった。

 攻撃魔法が使えていることなど、もはやどうでも良くなっていたある日。


「いたっ」

「お母さん、大丈夫!?」


 包丁で指を切った母親に回復魔法をかけた。

 この時も相変わらず1時間くらいかかった。


「ごめんなさい……治すの、とても遅くて……」


 しょぼくれるユフィの傍ら、母親はすっかり綺麗になった指先をポカンと見つめていた。

 そして目をみるみるうちに大きく見開いて言った。


「ユフィ、あなた、回復魔法を使えるのね!」

「えっ、あっ、えっと……うん……」


 ユフィが頷くと、母親は見たことのない笑顔を咲かせた。


「パパ! ユフィが回復魔法を使えたわー!」

「なんだって!?」


 興奮冷めやまぬ様子で母親が言って父親が飛んできた。

 それから父親は自ら掌をナイフで切って、「さあ回復魔法を使ってみなさい」と実演を迫ってくる。


 勢いにビクビクしつつも母親と同じく、ユフィは1時間かけて父親の手の傷を治した。


「凄いじゃないかユフィ!」


父親も舞い上がった。


「そうでしょう、パパ! ちょっと治るまでに時間はかかるけど、回復魔法であることは変わりないわ!」


 母親も舞に舞っていた。


「あっ……えとっ……えっと……?」


 まさかこんなに驚かれるとは思っていなくて、嬉しさよりも困惑の方が大きいユフィであった。


「なあママ。ユフィを魔法学園に入れてみるのはどうだ?」

「そうね、それがいいと思うわ」

「魔法学園……?」


 きょとんとするユフィに、母親が説明する。


「王都にある、魔法を専門に学べる学校よ。ユフィと同じように、回復魔法を勉強しようって、王国中からたくさんの生徒たちが来るの」

「たくさん……」


 基本的にユフィは変化を望まない性格だ。

 美味しいものなら毎日同じものを食べていたいし、夜は同じ時間に寝ていたい。


 しかし、母親から聞かされた魔法学園についての説明は非常に魅力的に聞こえた。


(魔法学園に入れば回復魔法が学べる……)


 今、自分がどん詰まっている理由もわかるかもしれない。

 今より、もっともっと強力な回復魔法を使えるようになるかもしれない。


 そしたら、聖女様に……。


(それに……友達が作れるかも……!)


 ユフィの瞳に光が宿った。

 こうしてユフィは、学園への入学を決意する。


 それからの展開は早かった。


 後日、魔法学園の職員を名乗る人物が家にやってきて、ユフィの魔法の実演を見た。


 入学資格は一定レベル以上の回復魔法を使えることと、回復魔法を極める意識があること。


 相変わらず小さな傷を治すのに1時間かかったが、その場でユフィは合格となって魔法学園への案内状を手渡されたのであった。


 その時の両親の狂喜乱舞っぷりは言うまでもない。


「本当に聖女になれるかもしれないな!」

「いいえ、きっとなれるわよ! だって私たちのユフィですもの!」


 両親ともども親バカであった。

 何はともあれ、こうしてユフィは魔法学園への入学権を獲得したのであった。


 ……結局、ユフィは最後まで両親に攻撃魔法を使えることを明かすことはなかった。


 明かすタイミングが無かったのもあったが、そもそもユフィは攻撃魔法に対して価値を感じていなかった。


 言うほどのことでもない、と思っていた。


 女でありながら攻撃魔法が使えることが、この世界にとってどれほどの希少性と異常性を秘めているの知らぬまま、ユフィは魔法学園に入学する──。

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