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【書籍化・コミカライズ】聖女様になりたいのに攻撃魔法しか使えないんですけど!?  作者: 青季 ふゆ@醜穢令嬢 2巻発売中!
第四章

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第98話 「お友達ほしいよぉぉおおおおおおおお!!!!」

「いえーい! イリヤちゃんが鬼ねー!」

「もう、ずるい! 待て待て〜!!」

「こらこら〜、あまり走るところんじゃうよー」


 広大な原っぱに、子供たちの楽しい声とシスターの微笑ましげな声が弾ける。

 鬼ごっこだろうか。


 小さな体を元気いっぱいに動かして、子供たちはきゃっきゃと遊んでいた。

 今日は、ミリル村の唯一の学舎である教会での催し。


 通称、遠足の日。

 教会から遠くまで歩いて、どこまでも続く広っぱで元気いっぱいに遊びまわる。


 そんな、普段味わうことのできない非日常に、子供たちはワクワクと胸を躍らせていた──ただ一人を除いて。


「966匹……967匹……968匹……」


 にぎやかで明るい原っぱから少し離れた森の中。

 木々が空を覆うように枝葉を広げ、薄暗くなっている場所で。


「969匹……970匹……ああっ、動かないでっ……!?」


 幼き頃のユフィはひとり、地面を歩く蟻たちを数えていた。

 友達がいないユフィにとって、遠足は「楽しい時間」ではなかった。


 周囲の子どもたちが笑い合い、はしゃぎ回る様子を見ていると、胸の奥がきゅっと痛んでくる。


 それに混ざれない自分を知っているから。

 どうしても、足が一歩、輪の中に踏み出せなかった。


 だからユフィは、自由時間になった途端、ひとり森へと身を隠した。


 木々の影が落ちる薄暗がりは、誰も探しに来ない静かな場所。

 そこでユフィは、たることもないので蟻を数えていた。


 小さな行列が、何かを運びながら列をなしているのをじっと見つめて数字を刻む。


「971匹……972匹……」


 ただ無心に数え続けていれば、他の音が気にならなくなる。

 自分が今ぼっちであることも忘れることができる。


 それはユフィにとって静かで、少しだけ安心できる時間だった。


(早く……終わりの時間にならないかな……)


 それだけを願っていた。

 蟻を1万匹ほど数える頃には、みんな一緒に帰る時間になる。


 何の面白みもないこの退屈な時間からさよなら出来るのだ。

 しかし、そんなユフィの思いは無情にも断ち切られた。


「あっ!」


 突然、びゅうっと風が吹き、胸元から何かがひらひらと舞い上がった。

 『ゆふぃ』と拙い字が書かれた名札だった。


 教会で手渡され、糊で無造作に貼り付けていた白い布の名札が、風に乗って空高く飛んでいく。


「無くしたら怒られるっ!?」 


 慌てて立ち上がり、名札を追って森の奥へと駆け出す。

 木の根に足を取られながら、それでも目は空を舞う白い布に釘付けになっていた。


「待って! お願い、止まってぇ……っ!」


 気がつけば、森の斜面を駆け下りていた。 そして──。


「きゃっ!?」


 足を滑らせた。 

 視界がぶれる。

 

 足元の土が崩れ、ユフィの小さな体が、崖のような急斜面を転がり落ちていく。

 幸い斜面はそこまで角度がついておらず、じきにユフィの体は止まった。


「う、うぅ……あいたた……」


 身体のあちこちがずきずきと痛む。

 泥と草にまみれて顔を上げたユフィの視線の先に、異様な空間が現れた。


 森の奥深く、岩肌が口を開けたようにぽっかりと闇が口を開いている。 


 ただの岩の裂け目には見えなかった。 

 空気が違った。 


 風が止まっているのに、洞窟の奥に向かって何かが深く、吸い込むように流れている。


(……なんだろう、あれ)


 足が勝手に動いていた。 

 名札を拾うのも忘れて、その黒い穴へと近づいていく。


 中は薄暗かったが、まったく見えないわけではなかった。

 冷たく、しんとした空気が肌を撫で、外の喧騒が嘘のように遠くなる。


 ユフィはそっと、その洞窟の中に足を踏み入れた。 


 石壁に囲まれた暗がり。

 誰もいないその空間に、彼女の心はふっと落ち着いた。


(……静か……ここ、なんだか……落ち着く……)


 そう思った。

 誰の視線もなくて、誰の声もない場所。


 やっと、自分が存在していてもいいと思えるような、そんな気がした。


 しかし胸の奥で、ぽつりと、寂しさが滲んだ。 

 どこまでも暗いこの空間にいると、先ほどで鼓膜を震わせていた、同級生たちの楽しげな声を思い出してしまう。


「いいなあ……」


 声にならない声が、空気に溶けていく。


 そして、ぽつりぽつりと染み出していた寂しさが、突然、破裂した。


「いいなぁぁああああああああああああ!!!!!」


 地面に突っ伏すユフィ。

 手足をばたばたと荒々しく動かす。


「なーんでえぇぇえええ!? なんで、私には友達がいないのぉぉおおおおおおお!?!?」


 誰に見られているわけでもないのに、全力で駄々をこねる子供のように暴れ出す。


「なにか悪いことした!? 体が小さいから!? 人とうまくおしゃべりできないから!?!? はい!! 全部正解!!!」


 目尻からは涙がぽろぽろとこぼれ落ち、鼻水まで垂れてくる。


「お友達ほしいよぉぉおおおおおおおお!!!!」


 スカートも泥だらけ、髪の毛もぐしゃぐしゃ。


 それでもお構いなしに、地面の上をゴロゴロゴロゴロ転がりまくる。


「一緒にお弁当食べたりぃ! お昼寝したりぃ! お勉強教えあったり!! そういうのっ、したいのにーーーーー!!」


 葉っぱが服につこうが、髪に小枝が絡まろうが関係ない。

 恥も外聞もなかった。


 今まで心の奥に押し込めてきた気持ちが、堰を切ったように噴き出して止まらなかった。


「おともだちぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」 


 大の字になって地面に寝転ぶ。


「だれか、だれかっ……お願いだから……」


 両腕をバタバタと振り回しながら、魂の叫びを放った。


「私と……友達になってよぉ〜〜〜〜〜〜!!」

『だったら、僕がなってあげようか?』


 びくうっ!?!?

 全身が、雷に打たれたように跳ねた。


 鼓動が大きく跳ね、空気が一変する。 ユフィはガバリと起き上がった。


「……え? えっ? だ、だれ……?」 


 心臓がバクバクと喉までせり上がってくる。

 誰もいないはずの洞窟で、確かに誰かの声が聞こえた。


 小声で震えるように呟いてから、慌ててあたりを見回す。 


 湿った岩肌、奥へと続く闇、ぴくりとも動かない静寂の帳。

 風も音も、先ほどまでと何も変わらないが。


(今の、聞かれてた!?)


 顔が一気に真っ赤に燃え上がる。

 叫んだ言葉の一つひとつが脳内でリピートされ、羞恥で頭を抱えそうになる。


「ど、どちら様でしょうか……?」


 顔を明かしながらも、ユフィは恐る恐る、洞窟の奥へと一歩踏み込んだ。


 その瞬間だった。

 空間の一部が、ぼんやりと揺れた。

 

 闇の帳が、波紋のように淡く震える──光だった。

 柔らかく、けれど確かに眩い光が、空気の中に染み込むように現れた。 


 光は、少しずつ人の形を取り始める。

 輪郭がにじみ、手足が形を持ち、頭部らしきものが浮かび上がる。


 キラキラと星屑のような粒子をまき散らしながら、そこに誰かが立っていた。 


 それは、現実のどこにも存在しないような姿だった。 

 服もない。髪も、顔も、目も、はっきりしない。


 けれど不思議と、そこに「誰か」がいると確信できる。

 まるで、夢の中で見た幻がそのまま現れたような。


 光でできた人影が、確かにユフィを見つめていた。


(……あ……あたま……おかしくなったのかも……)


 ユフィは思った。 


 あまりにも友達が欲しすぎて。

 あまりにも寂しすぎて。

 とうとう幻覚まで見始めたのだ、と。


 でも──怖くなかった。 


 その姿は、洞窟の闇の中で浮かぶ光でありながら、なぜかとても懐かしくて、優しくて。 


 ただ、胸の奥をそっと撫でられるような、静かな温かさを感じた。


 ユフィは、おそるおそる口を開いた。


「……あなたは……だれですか?」


 光の人影は、ふわりと微笑んだように見えた。


『君の、友達……いや……』


 そして、もう一度──


『──だよ』


 その声が脳の奥に直接染み入った瞬間。

 視界が、ふわりと揺れた。 


 空間がにじみ、洞窟の輪郭がぼやけていく。 


 体が宙に浮いたような感覚と共に、全身の力が抜けていく。

 まぶたが重くなっていく。


 最後にもう一度、光の人影がそっと手を伸ばしたように見えて──ユフィの意識は、ふわりと闇へと落ちていった。


本日、『聖女様になりたいのに攻撃魔法しか使えないんですけど!?』のコミック版1巻の発売日です!


久保田先生の描く可愛らしいユフィちゃんのカバーが目印です!

挿絵(By みてみん)


表紙カバーを飾れたということで頑張ってるねユフィちゃん!


ぜひぜひ書店や、Amazonなどネット通販でご購入いただければと思います!


発売後1週間ほどで続刊や重版などの判断がされる(こわい)ようなので、何卒よろしくお願いいたします……!!


書店によっては以下のように特典も配布されるようなので、是非チェックしてみてくださいね!


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
新章キター ユフィの活躍?が楽しみです
いつも楽しく読んでます! おかえりなさい!
コミックス!? 貝!
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