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血の姫は死に際に夢を見る  作者: アトリエユッコ
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聖女の微笑み 中中中ーI

「____で? 肝心の血の姫は何処にいるの?」


 学校内でルドルフはジーク殿下と並び、殿下と同じ方向へと向かっていた。

 殿下は左側にいるルドルフ様に伝える。



「図書室にいるよ。資料館でアネシアと一緒に血の姫についての情報を集めている」


「順調なの? 流れ的には?」


 ジーク殿下は戸惑う。

 うまくいっていないことは明白だった。



「いや、まだ動き出したばかりだからね。最初、シェリーが自分だけで探すって言い出したから、私はそれは流石に無理だと思って、こうしてルドのことも呼び出したんだ」



「……1人で……って、何考えてるの、あの血の姫は。王家がもう1人の聖女について口外して来なかったから困ってるのに、1人でできる訳ないじゃん」


「ルド、君は相変わらずシェリーに対しては評価が厳しいな。血の姫に関わると呪われるという噂は信じてないだろう?」



「誰かの噂話になんか興味ないね。僕は僕が見た物、価値観でしか断定しないから。……でも。血の姫は今のところあんまり好きじゃない」



 ルドルフにとってシェリーの存在は、最初の頃よりは当たりが柔らかくはなっていたが、まだまだ時々合わせるただの顔見知り状態。ルドルフはシェリーを心から受け入れてはいなかった。



「私悲劇のヒロインーみたいな感じはなくなったけど、まだまだ血の姫は孤独になろうとしてる。何も知らない赤ん坊みたいな癖して、1人前にね。……気にいらない」



「ずっと1人で抱えて来たのだから、仕方ないだろう。彼女が少しずつ私達に心を開いてくれていることが大切だ」


 ジーク殿下は、うんうんと小さく呟いた。ルドルフは益々不機嫌になり、立ち止まる。



「そんなに彼女を婚約者にしたいの……? アネシア様のがまだ良いでしょ」


 ジーク殿下は後ろに振り向き、少し恥ずかしそうにルドルフの顔を覗き込んだ。違うよと。



「違う。ルドが思っているようなことではないんだよ」

「じゃあどんな思い? 教えてよ」


「それは秘密だ」



 また颯爽と歩いて行くジーク殿下の後ろ姿を、足早にルドルフは追いかける。いつも幼い頃からそうだ。兄はいつでも自分とは対照的で、思っていることを最後まで言わない。

 簡単に心中を悟られてはならないという点で、兄は王族として本当に優秀で…………。

 でも、自分といる時くらいは、たまにこぼしてくれても良いのに。といつも感じてきた。


 ____優しくて穏やかで。接しているだけで、もう王位は兄が持つべきと思っていた。勉学や武術で例え自分が彼よりも秀でたとしても、何らかの事態が発生した場合、兄は誰よりも他の追随を許さない。咄嗟の判断に強いのだ。


 兄は皆に人気もある。好き嫌いのはっきりとした自分よりも、圧倒的に慕われている。それで良い。それで良いと思う。だが、そんな兄が少し変わったように思う。…………血の姫と関わるようになってから。


 正直、兄の人生だし、誰を好きになっても構わない。兄ならばちゃんとした令嬢も選べる。帝国にマイナスとなることはしない。…………そもそも友人として付き合っているだけで、自分の直感は気のせいかもしれないが……。


「……だったら、血の姫じゃなくてもさ」


 ボソッと呟いた言葉は、兄には聞こえていなかったので良かったとルドルフは思っていた。















 パラッ__本をひたすら早くめくる音が小さく響く。アネシア様と私は学校の図書室にある机に座って、何度も聖女と関連のある書物を出してはめくり、出してはめくっていた。


「…………ふー」


「どうですか? シェリー様?」


 アネシア様が疲れでため息を吐いた私にチラッと声をかけた。私は苦笑いして、目線をアネシア様に合わせた。


「全く……。血の姫についての記述は……血を使って怪我を治癒させる存在。再生能力があるという表記以外には、新しい情報はありませんね……」


「こちらもです。殆どが同じことしか書いていません」


 難攻不落なのは頭では理解していたけれど、ここまで来るとどうして良いのかわからなくなっていました。とは言え、時間は限られている。


「大丈夫かい? 少し休憩したらどうかな?」


 私のため息と同時に、ジーク殿下が現れる。ルドルフ様もご一緒に。そして、しばらくしてからカルファ様とソラジオ様も現れた。


「……お恥ずかしい所を見られてしまいましたね。でも、ここで諦める訳にはいきませんから」

 

 私が散らばる書物を奇麗に揃える。


「あのさぁ、君は良くてもこっちは付き合わされている身なんだよね」

 ルドルフ様がジーク殿下の後ろから言葉をかける。腕を組みながら、明らかに不服そうだ。


「ルド、お前は言い方がきつい。それではシェリーに誤解されてしまうだろう」


 殿下は後ろを振り向くと、ルドルフ様は唇をへの字にさせる。ルドルフ様は無理矢理、殿下に私の手伝いをするように言われて来ているのでしょうね。


「申し訳ありません、ルドルフ様」


 私がぺこりと一礼すると、アネシア様が左側からそっと私の肩を抱く。

「大丈夫ですわよね? ルドルフ様? シェリー様も少し休憩して、また作戦を立てましょう」


「えぇ、そうします」


 優しいアネシア様の言葉に癒されたけれど、ムスッと顔を歪ませるルドルフ様を見て、気が気ではなかった。

 10分ほど休憩を挟んでから、私達はまた違う本を取りに行こうとするとジーク殿下が代わりに書物を持って下さった。


「ありがとうございます」


「大丈夫だよ。しかし、こうも情報がないと困ったね」


 流石の殿下も私とアネシア様の本の量を見ると苦笑いする。つかさず、ルドルフ様が呟いた。


「あのさぁ……本に書いていなければ、調べるしかないじゃん」


「だから、それを探しているんだろう? ルド」


「違うよ。聖女について記述があまりないなら、血の姫のルーツを探していけばいいじゃん」


 ルドルフ様はまた理解できない、といったような表情をされる。どう言う意味なのかしら?


「それは……一体……」


 ルーツとは、はて……?


「本の文字を追っているより、アンタの産まれた周辺を辿っていった方が何かヒントが掴めるんじゃないの?」

 ルドルフ様の言葉に、殿下は大きく目を見開き、口角が上がる。閃いた! というような感じで顎に添えていた指をルドルフ様を指すように向ける。


「ルド! さすが私の弟だな!」 


「……っ! べ、別に。僕は基本的に自分で見た物しか信じないタイプだから……」


 褒められて嬉しいのか、ルドルフ様は目を細めて恥ずかしそうに答えた。


「うんうん、そうだね。……そうだ、そうしよう。血の姫の資料がなければ、シェリーについて調べていけばいいね。シェリー、アネシア。まだ時間に余裕はあるかい?」


「えぇ、今日は長くかかると伝えてあります」

「私も大丈夫ですわ」


「よし! じゃあ、シェリーの生い立ちについて徹底的に調べていこう」


「私の……生い立ちですか」


 私が首を少し傾げると、ルドルフ様が呟いた。


「……教会……リリアンにでも行く?」


 ジーク殿下は少し微笑んでから、私とアネシア様を見つめる。

……なるほど、流石です。ルドルフ様。私は資料ばかりに気を取られていました。欲しい情報があるのならば、自分の足を使わなくてはですね。


「行きます!」


 私達は全員で帝国1番と言われる教会、リリアン・パレスに行くことになった。






 この帝国に産まれたら、1ヶ月後に必ず皆が向かうのがリリアン・パレス。帝国1の教会で、産まれた全ての赤子に対して祈りの歌を歌ってくれる。


 稀にアネシア様や私のように預言をもらう場合もあるけれど、基本的にはリリアンでは祝祭として讃美歌をいただくのが__普通。


 産まれてから全く来ていなかった。両親にあそこでお前が聖女だと言われたんだよ、と言われるまでは、よくわからないけれど、とても綺麗な背の高い城があるわね。と思っていたのよね。


「行こうか」


 殿下がそっと手を差し出す。私はまた自分の中に生まれる暖かい想いを感じながら、殿下の手を取った。

 アネシア様は少しじっと私と殿下の様子を見ていた。

 リリアンに行くのに、市井の路地裏を皆で通っていると、ふと何かを感じる。殿下から少し離れて、歩いてお店に近づいてみる。アネシア様が不思議な表情をされたので、一緒に一件のお店のウィンドウを眺めてみた。

「綺麗な鍵ですね……」


「えぇ。アンティークの物ですね。よく魔法がかかっている物なのでしょう」


 だから私達が感知したのかもしれないですわね。と、呑気にウィンドウを眺めていると、反射して映り込むグレーの魔法陣がガラスに写った。

 瞬間、私はビリビリと身の毛がよ立つ感覚になる。アネシア様が身構えて、殿下とルドルフ様、側近のお2人が危機を察知したのか、戦闘態勢になった。


 市井の繁華街の路地裏のタイルの壁に魔法陣が浮かび上がったと思うと、身に覚えがある姿が出てくる。

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