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血の姫は死に際に夢を見る  作者: アトリエユッコ
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聖女の微笑み 中中

 魔界の森の中心地帯に存在する魔王の館は、全体が漆黒の石の壁で、屋根は甲殻魔族の殻を原料にした瓦で出来ている。城は150メートルもの高さに、魔王の雰囲気と同じように、スタイリッシュさの中にもおどろおどろしさを感じさせている。


 外とは反して、内装は大理石や純白の壁にゴールドのライトというシンプルさで、それがまた魔王の強さを引き出していた。


 紫色の魔法陣がぼわんと浮かび上がると、許可を得ていないままにルキが現れた。人間界と魔界の森を行ったり来たりしているルキは、何故自分がこんな堅苦しい場所にわざわざ呼び出されたのか、理解できなかった。

 ただただそのおどろおどろしい雰囲気ですら、凛とした品のような魔王の存在が、格が違うと見せつけられているようで、昔から大嫌いだった。



 魔王はルキを見つめると、わかりやすく嫌悪感を出す。腕を組み、頭を少し斜めに傾け、大きくため息を吐いた。ジーク皇太子殿下と会っていた時よりも2つほど多く開けられたシャツは少しだけヨレて哀愁や色気を感じさせる。



「帝国の中心的学校に張られた結界を破ったそうだな」

「……あぁ、その話?」

 ルキは鬱陶しいなぁと言いたげに頭を傾けながら、ポリポリと掻く。そのいつも通りの振る舞いが魔王を心の底から苛つかせる。


「何の為にやったかなどと、私はお前には聞かない。……だが、お前がやることで、私達の評価が下がるのは許せん」


「大丈夫だよ〜。魔王様はいつでもかっこいいし麗しい。僕が何かした所で、痛くも痒くもないでしょ?」


 ルキは余裕だよ、とも言うような微笑をする。魔王の主張は自分にはあくまでも関係ない。とでも思っているようだ。


「話の内容を理解していないのか? 下らん執着は捨てろと言いたいんだ」


「執着なんてしていないよ、僕は少し彼女を脅かしたかっただけさ」

「余計なことを」

 魔王はルキの軽口を吐き捨てるように、眉間に皺を寄せる。


 ルキは笑って、だが時折目が据わった様子で呟いた。


「永久に1人ぼっちの君にはわからないだろうね。僕の気持ちなんてさ」


 ルキの言葉に目の細い手下が過剰に反応した。


「おいお前! 言葉を慎め! 相手は魔王様だぞ!」


 ルキは手下の言葉にハァーとため息をつきながら、手をあげて仕方ないなぁという身振りをする。


「ビリオン、構わん。今は良いだろう」


 魔王は手下に申し付けると、ルキをチラリと見つめた。ルキは何ともないように、いつも通り余裕だ。魔王は余計に苛つき、ルキへと詰め寄った。



「お前が何をしようと、血の姫を選ぼうと、私には一切関係ないことだ。だがな、魔族を侮辱するような行動は許さない。……仲間でも、何でもない、お前は……私達とは同じではない。いや、違い過ぎるのだ。今後、余計なことをしたら、次は人間ではなく、私がお前を殺す」



 魔王はルキを壁へと追い詰め、右手拳をルキのこめかみ近くのギリギリに落とした。壁には穴が空き、材料の土がパラリと地面へと落ちる。ルキはふざけすぎたな、と少し動揺した。


「……わかってるって! 悪かったよ!」


「わかったなら、すぐに消えろ。忌々しい吸血鬼め」


「ハイハイ」



 ルキは魔王の牽制からうまくするりと抜けると、さっさと魔法陣を自分の下に出して、埋れて行ってしまった。魔王は軽く呼吸すると、何事もなく手下に言いつけた。


「ビリオン。この穴をすぐに埋めておけ」


「アイ! 魔王様!」


 手下は勢いよく返事をした。









 …………魔王に追い払われたルキは、魔法陣で一旦、人間界に置いていた自分の城へと戻って来た。

 久しぶりの城の中は閑散としており、今のルキと似たようなものを感じさせる。



「…………ったく、魔王も人を呼び出しておいて、荒っぽいよなぁ」


 呟いた独り言はよく響き、ボワンと言葉が部屋に広がる。

 人を見下しやがって、あの魔王。2代目の癖に生意気な。ルキの中には憎悪が溢れ、牽制されたことを思い出すと自然と舌打ちが出て来てしまった。


「こっちは、見つけた星がくたばるのを待ってるだけだっつーの」



 ルキは書物の上にナイフを刺して止めておいたシェリーの写真がなくなっていることに気付く。チッ、王家の人間か。……なくなった写真のあとは、書物にナイフが刺さっているだけ。


「僕から逃げるなんて許さない…………何回でもその命、殺してやるからな」



 ルキはシェリーを思い浮かべると、激しい表情で微笑った。











◇.



「ジーク殿下とお会いするのですね!」


 ライラは私の真っ直ぐな髪を丁寧に櫛でとかしながら、半分浮かれて嬉しそうにした。私と殿下が良い仲になるのを期待しているかのように、彼女は目を見開き瞬きすら忘れるくらい、私の言葉を待っていた。


「いつも学校で会っているでしょう?」


「ですが! 今日は休日!! 学校はお休みです!! 休日にお誘いされるということは、シェリーお嬢様が特別な存在なのは確かですよね?!」


 ライラが後ろから詰め寄る。私は呆れて呟いた。


「王家の話も絡んだ何かがあるそうなのよ。大切な話があるんですって」


「王家の!! 大切な……!! お嬢様、これはもう、これはもう、確かな話ですね!! お嬢様がジーク皇太子殿下にお付き合いをお願いされるんだと思います!!!!」


「…………はぁ、まさか」


 久しぶりにライラが上機嫌なのは良いけれど、検討違いも何もって感じだわ。それに……前回お会いした時に、失礼な態度を取ってしまったわ。不敬だと言われてもおかしくない。……ほんの少しだけ仲が良く改善されたと勘違いしていた頃に戻りたいくらいだわ。



私が暗い顔をしていたのか、ライラは私の両肩を安心させるように軽く叩く。いつもの微笑みで、両肩を両手でパッとはらうと私を真っ直ぐ見た。


「お嬢様。お嬢様ならきっと大丈夫です。お怪我だけは気をつけてくださいね」
















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