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血の姫は死に際に夢を見る  作者: アトリエユッコ
18/21

裏切りの香り 下

 その次の瞬間。シエル様の悲鳴が会場内へと響いた。ダナン先生もドロシー先生も、咄嗟の判断ができずに立ち尽くしてしまっていた。


 シエル様から鏡が抜けた眼鏡がぽとりと落ちる。そして、今度はブルーグレーの長い髪の毛の隙間から、だらだらと沢山の血が垂れた。残虐過ぎる……魔法の力を使って、シエル様の目を、彼の顔、上半分を怪我させたんですわ。


「あぁぁ。痛いっ痛い……何も見えない……」


 ルキはシエル様に近づくと、垂れる血だけ少し掬い取る。不満気になっていると、今度は殿下が叫んだ。



「彼に何をした!!!!!!」


 2人が殿下を守るように、両側に着いた。ルキは笑って、天井にある窓の上まで飛び上がる。


「何って……邪魔だったから、黙らせただけさ」


 ククク……と笑い、目立つ2つの八重歯を見せつつ、伸びた本来の姿の爪先についた血を舐める。

 その場にいる者の大多数が、ルキが吸血鬼であることに動揺を隠せていなかった。しかし、状況からか会場は静まり返る。




「お前は何が狙いだ? シェリーの血か?」



「さぁね」


「誤魔化すな!!」


 殿下は段々と怒りを露わにする。ルキは飄々と漂うように殿下の質問をかわす。


「結界をやぶってどうするつもりだったんだ?! この国が狙いか?!」


「国? ………国なんて要らないね。興味ないし」



「では、なんだ!」



 殿下は見上げると、ルキは語り出す。


「僕から逃げられると思うなよ。君は僕の支配下にあることを忘れるな。従わなければ、今回のように結界に穴を空けて、魔族を送り込んでやるよ」



 私は鼓動が早くなるのがわかった。殿下の方を見ていたが、ルキは確実に私にその言葉をかけている。強い力でアネシア様の手を握ってしまう。アネシア様は私が握っている手の上に手のひらを重ねてくれた。


 その場にシエル様がうめき叫ぶ。


「痛い…………痛いよ…………僕は……僕は…………ただ、アイツに脅されただけなのに……こんなことしたくなかったのに……なのに、どうして僕がこんな目に…………あぁっっっ」


 ぼたぼたと垂れる血を必死に押さえる。涙と思われる水滴も、下へと少し垂れた。一緒に皆、ルキへと加担した裏切り者として、手を出す人はいなかった。



「良いか!!!! 僕に逆らおうだなんて、一生賭けても出来ない。忘れるな!!!! 君も、お前達も、どうなるかわかってるんだろうよなぁ!!!!」


「捕えるぞ!!!!」


 殿下の一言で、カルファとソルジアが動き出す。それに合わせて、ダナン先生とドロシー先生も構えたが、ルキは近くにあった窓ガラスを魔法で割って、外へと逃げて行ってしまった。バリーンと大きな音がして、大きな硝子の破片と小さな破片が床に散らばった。



「追うんだ!!!!!!」



 殿下達はルキを追いかけて行った。また、少しその場にいる者達の会話音がざわざわとしていた。


「痛い……痛いよぉ」


 シエル様はうずくまっている。皆、何もしない。私はアネシア様の手を離し、アイコンタクトで感謝をお伝えした。アネシア様は静かに会釈する。



 地面にはルキが割ったガラスの破片が散乱していた。誰もシエル様に手を出さないので、私は近づいていく。


「哀しいですわね」


「………血の姫……僕は……ひっく、僕は…………」


 もう溢れているかも分からないのに、泣いているシエル様を見て、いたたまれなくなった。このお方も……私と一緒。ルキの被害者だ。



「放っておけよ、そんな奴!!!! 魔族に唆されて、俺達を危険に晒しただろう!」


「どんな理由があったとしても、赦されないですわ!!」


 私のうなじあたりに彼を罵倒する言葉が飛び交った。それを背中で受け止め、私は少し深呼吸した。


「シエル様、生きたいですか?」


 私の言葉に、掠れた声でうんうんと頷く。


「妹の怪我を治すまでは、僕は健康でこの学校を卒業しなきゃいけないんだ……生きなきゃ……


 最後の一言が終わらないうちに、私はガラスの破片を拾う。

 殿下達は息を切らして戻って来た。

 私はガラスの派遣を思い切り腕の内側へと刺す。だらり、と手首に血が滲む。ギョッと会場にいた人々が更にどよめいた。



「血の姫が…………!!」


「悍ましいわ!! 呪われてしまう!!」


 それを聞いたシエル様は軽く首を左右に振る。


「やめろ……僕は呪われたくない……やめろ……妹を助けるまでは……」



それを無視して、一雫の自分の血を指に付ける。私はシエル様の血が出ているお顔へに当てた。スゥーっと、赤い光が眩くシエル様へと浸透していく。垂れていた血は顔面から消え、怪我をする前の綺麗な顔に戻った。

 かわりに彼は呆然としながら、大粒の涙をぼろぼろと瞳から流していく。



「血の姫の力だ………………」


 ダナン先生は呆気に取られ、呟く。その場合にいたほぼ全員が、私を見ていた。私はシエル様に近づく。



「呪われるなんて噂がありますが、それはありません。力の使い方が悍ましく見えるだけなのです。……どうですか? 痛みは?」


「…………なおった」


 シエル様が一言ぽつりと呟くと、私は彼の前髪を分け目通りに左右へと分けてあげた。


「良かったですわ」


「眼鏡無しでも見える。前よりも良くなってる……」



 再生の力ですわね、と私は頷くと、ハッとシエル様の変化に気が付いた。彼は煌めく灰色の夜空のような澄んだ目をしていたからだ。


「まぁ、シエル様。こんなに目がお綺麗でしたの? 前髪で隠すのは勿体ないですわね」


 にこりと私が微笑むと、ぽかんとしたシエル様はなぜかほんのりと頬を紅く染めて下を向いてしまった。






 その後のパーティーは、殿下の指示のもと、中止とされることとなった。


 殿下を中心にした教員達との話し合いで、今回の事件はルキが首謀者となり、結界に穴を開けたということでまとまった。


 狙いは私であったことはその場にいた参加者から教員達も理解していたけれど、どうして結界を狙ったのか腑に落ちない面もあり、謎はまだ残っている。




 私にまた平穏な生活が戻って来た。皆の前で力を使ってしまうことには少々抵抗があったけれど、力をまた放出して、私の身体は少々楽になった。


 朝、殿下と医務室に向かうと今日はドロシー先生が笑顔で迎えてくれた。


「シェリー!!」


「ドロシー先生!! 今日から通常通り出勤ですね!!」


 私はドロシー先生の返事を待つ前に、抱きつくと先生は笑って話す。



「……もうっ! シェリーったら、いつになくこんな抱きついて……!! らしくないわよ?」



「だって……嬉しいんですもの。本当にドロシー先生が冤罪で捕まってしまったらどうしようかと思っておりました」


「正直、私もドキドキしていたわ。でも、アナタ達を信じて本当に良かった。シェリー、ジーク殿下も……本当にありがとうございました」


 ドロシー先生は私から離れたあと、ゆっくりと胸に手を当てて感謝を述べる。下がった頭が印象的で、でもすごく爽やかな気持ちになる。



「いえ、先生が本当のことを諦めずに話して下さったから今があります。本当に良かった」


 殿下はさっぱりと微笑んだ。私も思わず口角が上がってしまう。



「……ところで、シエル様はどうなったのでしょうか?」


 私が殿下に質問をすると、彼はいつもの癖か指を顎にかけて教えてくれた。



「学校長、教員、私や学校に滞在する王族関係者とも話した結果、無期限の謹慎となったんだ。……でも、バンピル氏によって脅されていたこともあって、一応3ヶ月の謹慎と言うことで済んだよ」


「そうでしたか……」



「彼ね、ちょっと貧しい男爵一家で……数ヶ月前から妹さんが足に怪我をしてしまったらしくて、それが悪化して治らなくて困っていたそうよ。家のことも自分でやっているから、不登校気味だけど元々学業は好きみたいでね。悩んでいた所につけこまれちゃったのね」


 ドロシー先生は呟く。そうだったのね。妹さんのこと、さぞかし心配でしょうね。……本当はもっと健やかに暮らして良いのに、ルキに唆されてしまったシエル様。同じ被害者として、私に出来ることなんてないわね。

 ふーと軽くため息を吐くと、殿下は私の方を向く。



「それででね、シェリー。お願いがあるんだ」


「はい? 何でしょうか?」



「もう皆の前で力を使ってしまった訳だし、できたら、シエルくんの妹さんに会ってもらえないだろうか?」


「!」


 殿下の提案に、私は思わずドロシー先生の顔を見てしまった。



「殿下! 名案ですわ! 怪我だったら、シェリーが1番だものね!」


「私で良いのでしょうか……? アネシア様は……」



 抜擢してくれるのはありがたい。ですが、アネシア様も力が使える。私は不安げになった。



「アネシアは会場の修復に協力してもらったんだ。だから、もう色々とやってもらっている。でも、君も聖女だからね。お願いしたい」



 私は曇りなく伝えてくる殿下の表情に心まで洗われながら、頷いた。私の頷く様子を見て、殿下は笑う。



「ありがとう」


「いえ」


 私が微笑むと、ドロシー先生も嬉しそうだった。本当に良かったと思う。繰り返す人生の中で、ドロシー先生だけはいつも私を応援してくれていた。そんな先生が罪を犯す訳がないと信じていたから。


 ぎゅっと先生の手を握ると、先生は驚く。



「ちょっとシェリー? もういいのよー?」


「いいえ、私がこうしていたいだけですから」



 私はにこりと笑った。

 

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