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血の姫は死に際に夢を見る  作者: アトリエユッコ
17/21

裏切りの香り 中々

 何人か手を挙げた人達は、ほとんどが生徒だった。ドロシー先生は少し不安を表情に浮かべながらも、私を見つめるとまた芯のある雰囲気に変わる。


「君と君と君と君だね。どこでドロシー先生に会った?」


 数人に確認すると、生徒達はこう答えた。



「医務室で怪我を治してもらいました」


「私は医務室で休ませていただきました。夕方頃です」


「僕は医務室で怪我の処置に使う材料をもらいにきました」



 ……ただ、約1名だけはこう答えていた。


「夕方、ドロシー先生が検査室に入って行く姿を見かけました」


 ブルーグレーの長い前髪から、大きな丸い眼鏡を時折覗かせる青年。背は低めで、猫背。……あの時の、と私は数日前の殿下とお話ししていた時のことを思い出す。



「……君は? 名前は何と言うのかな?」


「シエル・クロスと申します」


 聞いたことがないわ……恐らく私よりも歳は下なのでしょう。あんなに前髪の長い青年が歩いていたら、気付くはずですもの。


 殿下はそっと、ある一定の距離を保ちながらシエル様に近づいた。


「シエル・クロスくん。……君はドロシー先生が検査室に入って行くのを見たのかい?」



「はい。……ドロシー先生は、いつもの通りに鍵を開けて検査室へと入って行きました」


「手には何か持っていた?」


 殿下が優しくシエル氏に近付いて話しかける。長い前髪を寄せることもなく、ただただ垂らしながら、淡々と話している。殿下はコクリと自分に言い聞かせるように、軽く頷いた。



「少ししてから出て来たなぁと思っていたら、手にはスピッツを持っていました」


 その場にいた者達はどよめき、視線は一気にドロシー先生へと向けられる。私はドレスの近くで拳をギュッと握りしめていた。


「そうか、スピッツはその後どうしたか覚えている?」

「いいえ。特には注目していなかったので、どうしたのかまではわかりません……」


「記録魔法には君の姿は映っていなかったようだけれど。どうして、そう言えるのかな?」


 殿下はふわりと彼に近づく。シエル様は少しも微動だにしなかった。


「……それはわかりません。でも、僕は見ました」


 殿下は頷いて、もう一度確認する。


「……そうか。シエルくん、ドロシー先生は最後に()()かけたかい?」


「はい。かけていました」


 私は息を飲んだ。殿下が少しチラリと私の方を見ると、すぐさまシエル様へと視線をうつす。一瞬、時折私に向けて下さる優しい眼差しをまた下さったので、緊張感とは別の高揚した気持ちになった。


「……おかしいね。ドロシー先生はいつも検査室の鍵はかけないんだ。他の見回りの先生に頼むから」



「…………っ!!!!」


 殿下が柔らかい物腰のままに、鋭い指摘をすると、シエル様はそれまで冷静にしていた様子から一転して、動揺を隠しきれなかった。周りの人達は息を呑むように静まる。


「ドロシー先生は、基本は医務室に滞在している。だから、常に検査室にいるわけじゃない。シェリーのスピッツの確認は、医務室勤務外で行うから、なるべく夜遅くならないように気をつけているんだ」


「……でも!! 僕は見ました!! …………あの日!! ドロシー先生が……っ!!!!」


「うん、話を続けるよ。遅くならないように気をつけているから、鍵はかけたりかけなかったりしている。一定じゃないと見回りの先生も困るから、水曜日、木曜日、金曜日は自分が鍵を閉めると決めたそうだよ」


 ここまで殿下が話すと、会場にいた多くの人は納得し始める。事件が起きた日は水曜日。__その日、ドロシー先生は鍵を開けてはいない。


 私は心静かにドレスの裾を強く握りしめながら、殿下がパーティーの前に教えて下さった話を思い出していた。


『多分だが、真犯人は別にいると見ているよ』


『別ですか。やはり、結界を作った方々にいらっしゃると?』


『……いや、あまり顔を見せない生徒だと私は見ている。信じたくはないけれどね。パーティーで、私が立ち回って、どうだったのか確認しようと思っているよ』


 そして、私の視線は今に戻る。シエル様は長い前髪をふるふると震わす。



「違います!! 先生は鍵を開けていました!! 僕がこの目で…………!!!!」


「…………シエルくん。君は確か噂では、鍵の収集が好きだと聞いたよ。本当かな?」


 殿下は麗しいお顔立ちを更に柔らかくして、微笑む。

「…………」


「君は殆ど学校には来ない。不登校気味だと調べているよ。だけど、数少ない君の友人の話では、鍵が好きで、貴金属も好きで、金属一本で部屋を開けることは容易いんだね。でも、基本的には鍵が好きだから、一度手にした鍵の中でお気に入りを魔法でレプリカを作っていると聞いたなぁ」


「それは…………」


 シエル様は俯き、黙り込む。ドロシー先生は心配そうに手をお腹の前で組んでいた。殿下は、一歩踏み出す。


「ドロシー先生が管理しているスピッツを、君がどうして持ち出したのか、教えてくれないか? 理由が知りたい」


「違います」


「もし……君が犯人なら、私は罰する前に理由を知りたいんだ」


「……違います」


「君は授業に出ている態度は真面目だと報告を受けている。こんなことをするような人ではないと言うこともね」


「…………違います」


 ブツブツと否定を呟くシエル様に堪えきれなくなったのか、ダナン先生が素早く近付いて怒鳴り込んだ。


「お前がやったんだろう!!!!!!」


 ダナン先生に詰め寄られると、シエル様は逃げ腰になり狼狽えた様子だった。その恐ろしい雰囲気に誰も何も会えなかった。


「ダナン先生、その言い方は良くない」


「……殿下!! しかし、この生徒は、我が校の大切な結界をやぶったのですよ?! 破壊されれば、いつ何時も国の結界から暴れた(あぶれた)魔物が新入してくるとも限らない!!!!」


「お気持ちはわかるが、今は落ち着いて欲しい」


「…………殿下!! しかし……!!!!」


 ダナン先生は頭に血が昇っているようで、殿下の言葉に素直に従うようではなかった。シエル様は2人のやり取りを見て、堪えきれずに叫んだ。


「違う、僕じゃない……っ!!」


「お前、まだそんなことを……正直に認め……


「ダナン先生、ここは私が彼の話を聞くから……」



「違う!!!! 僕は結界を破ろうと思っていない!!!! アイツに言われたんだ!!!! アザレア侯爵令嬢の血が入ったスピッツを持ってくれば、お願いを聞いてくれるって!!!!!!」


 シエル様はダナン先生に強く体当たりすると、1人の人物を指差した。……それはルキだった。


「バンピルくんが……? 何故?」


「アイツが、血の姫のスピッツを持ってくれば、僕の妹の怪我を治してくれるって言ったんだ!!」


 私は表情が強張る。ルキがシエル様を唆したの? 私の血を利用するために……?


 どうしようもない感情が溢れ、震えが来そうになる。殿下はそっと、私の近くに来てくれて、肩を抱き寄せる。


「……何のことでしょうか? 僕には記憶がさっぱりですね」


「しらばっくれるなよ!! お前、僕に近付いて言ったじゃないか!!!! 悩みがありそうだね? 話を聞くよ。解決方法を教えてあげるって」


 ルキは片手を軽く上げて、嘲笑う。まるで自分は一切関係ない、かのように。


 アネシア様も、ルドルフ様も、近衛騎士の2人も隙を見て、私達の傍へとやって来た。



「嘘言うな……!! できないって言ったら、君が学校内全ての部屋鍵を開けられて、レプリカを持っていることを学校長にバラしてやろうか? って脅したじゃないか!!!!」


「……バンピルくん、本当か?」


 ダナン先生の一言にルキは首を振った。


「ちがいますよお」


 ルキは潔白です、と絵に描いたような色のない表情をした。私はシエル様がかつての私と同じようにルキに嵌められたのだと思った。


「違うわけないだろ!!!! 君は言ったんだ!! 僕を脅して……嫌だと何度も断ったのに……君は、いざと言う時は君が責任を取るよって言ったじゃないか!!!!」


 いつまでもルキは同じ表情をしている。何も言おうとしないルキに、殿下は思わず話しかける。


「君の正体を見せてくれないか?」


 殿下の言葉に、僅かにルキの眉間がぴくりと反応する。

「……どういう意味ですか?」


 アネシア様は私の元にゆっくりと駆けつけて来た。私はアネシア様を一瞬見つめると、何も知らない彼女は殿下と同じように手を握る。



「君は……その姿が本来の姿じゃないね? 君がどうしてここにいるのか、彼をどうして貶める必要があったのか、吐け」

 

 殿下は柔らかい物言いで伝えてはいたけれど、言葉の端々に強さを感じさせていた。真っ直ぐにルキを見ると、最初は笑っていたルキも次第に不機嫌になっていった。


「はぁ?」


 ルキが私を睨みつける。ドキっとした私は、ついアネシア様の手を握ってしまった。何も知らないはずのアネシア様は、きっと私がこの状況に不安を感じていると思ったはず。


「何のことだかぁ?」


「バンピルくん……君は優秀で非常に成績も良かったじゃないか……姿が本来ではない? ……どういうことだ?」



「彼は魔族です。この学校に密かに紛れ込んでいたんだ。血の姫である、シェリー侯爵令嬢の血を狙って」



 ダナン先生と会場にいた事実を知らない人達は動揺する。ざわざわと話し声が聞こえた所で、ルキは仕方ないなと、高笑いした。


「ばっかばかしいなぁ。結界に血を流したくらいで大騒ぎかよ」


「やはり君の仕業だな」


「あぁ。少し穴開けしてやろうと思ったが、さすがに拳分じゃ大きすぎたのか。お前ら、騒ぎすぎだよ」


「本当の狙いはなんだ?」


 殿下は一歩踏み入る。ルキは殿下を睨みつけながら、頭をぽりぽりと掻く。


「自分に聞いてみたらどうなんだ? ……あぁ。まぁ知らないか」


「……? どういう……



 殿下が話す途中で、シエル様がルキへと体当たりして近づき叫んだ。


「お前!!!!!! 僕を騙したな!!!! 僕は…………僕は…………本当は盗みたくなかったのに!!!! お前が……っ!!!!!!」



「五月蝿いな」


 ルキは縋り付くシエル様を腕で振り払う。シエル様はその瞬間、手を広げて力を込めた。



「あ゛ぁあああ゛ぁあああっっ!!!!!!」





 



なんの伏線もなく進めちゃって、ごめんなさいねw

気分で書いてますw

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