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血の姫は死に際に夢を見る  作者: アトリエユッコ
12/21

秘密のあれこれ

 その声と共に一気に私は苦しさから解放される。反射的に咳が出て、何が起きたのか理解するのに、呼吸を整えるまでには時間がかかった。ジーク殿下が身ひとつで立ったまま、ルキと対峙している。……どうして? 


「…………ちょっとした戯れ……ってやつですよ」


「戯れにしてはふざけが過ぎるな。君、シェリー侯爵令嬢に何か恨みでもあるのか?」


「何のお話で? 僕達はとても仲が良いですよ」


 ルキは軽く鼻で笑いながら、手を払って腰に手を当てる。ジーク殿下は顔色を変えずに淡々と言葉を返していく。


「……つい昨日も君は彼女を壁に貼り付けていたようだが、それが仲良しのすることか? 彼女が恐怖で動けないようにも見えた。今回もだ、首を絞めるようにしか私には見えなかったが」


「そうですか」


「…………殿下」


 私が呟くと、ルキはあからさまに不機嫌な表情をして、私から球を奪ってそのまま戻って行ってしまった。取り残された殿下と私の元に、カルファとソルジアが急いでやって来る。


「殿下!! あまり長い時間、おひとりにはならないで下さい!! それでなくても昨日、お怪我をしたばかりで…………」


「すまないな、2人とも。シェリー侯爵令嬢が具合が悪そうだったので、気になって追いかけて来たんだ。そうしたら、ちょうどピンチだったんだ」


 殿下はにこりと2人に微笑む。こんな風に普通に話したことがあったかしら? 2人の護衛も、殿下が私と関わったと知ったら嫌がるはず。



「そうでしたか、でもなるべく単独行動は避けていただきたいですね」


「すまないな」


「後で何かあったら、私達が怒られますから、ほどほどに」


「すまないな」


 殿下はカルファとソルジアそれぞれに言うと、私に近づいてがっちりと私の両肩に触れる。ん?? 何??


「さぁ、行こうか」


「なっ?! 何ですの?! 殿下???」


 殿下のいきなりの行動に激しく混乱してしまう。頭がうまくまわらない。え? どういうことですの?! 殿下は満面の笑みで佇む。え……こっ……こんな状況が今までの私には一度もなかった! なかったからこそ、今私はとてつもなく動揺している!!!!



「シェリー侯爵令嬢。君、今日体調が悪いだろう。顔色が本当に良くない。見学も良いが、あまり無理はしない方が良い。私が医務室まで送っていくよ」


「……!! 大丈夫ですわ!!!! 殿下、体調が悪い時は自分でも行けますし……カルファ様、ソルジア様も!! 何とか言ってください!!」



 私が冷や汗をかきそうな勢いで話すと、護衛の2人は何故かのんびりとした言い方で、誰に言っているのかシラナイ〜というような雰囲気を醸し出す。


「シェリー侯爵令嬢、大丈夫ですよ。殿下はこういう時、言い出したら聞かないんです。少々お付き合いください」


「そうですよ、少しのお付き添いも学校中のご令嬢が見たら、羨ましがると思いますよ。楽しんでください」



「どうしてですか?! …………私は血の姫ですよ!! 殿下にこのようなはからいを受けるような存在ではないのですっ!!」


 私は叫ぶと、対照的にカルファとソルジアは微笑んで、ソルジアが呟く。こんなのんびりしたやり取りが通用する関係ではないこと、護衛のお2人もわかっているはずなのに、どうしてそんなに余裕なのですか?!



「大丈夫です。アナタは殿下のことをお庇いなさった素晴らしい人なのは、私達護衛も存じておりますから」


 ……いやっ、そうじゃないのです!!!! 表向きにはでしょうけれど、それとこれとは現状は別です!!!!

 ソルジア様はフッと息を吐いて、またにこりと微笑んだ。今までこのような出来事はなかった。…………どうして、そんな風に穏やかに構えられるのかしら。



「じゃ、行こうか、シェリー侯爵令嬢」


 殿下は2人の言葉に素直に従うかのように、私をおんぶのポーズをする。え?! ……さすがにそれは無理……。私は暫く固まってしまっていたけれど、殿下はずーっと無言の圧力をかけながらしゃがんでいる。文句を言いたいのに、護衛の2人の手前もあって、私は何も言えなくなってしまう。


「……殿下、さすがにそれは…………」


 私が呟くと、殿下はただ一言振り落とす。


「気にしないでくれ」


「いえ、さすがに……自分で歩けますから」


「……そうか、気を遣わせてすまないね」


 

 殿下は私の気持ちを察して、立ち上がり、今度は右腕を私の肩に手を添えた。これまでもやめてくださいと言ってしまったら不敬になってしまう。私は殿下の優しさを受け入れながら。ゆっくりと医務室まで歩いて行った。



 忘れかけていた胸の奥の更に奥にある想いが、私を掻きたてようとしている。シェリー、だめよ、忘れて……。



 医務室にたどり着く。ドロシー先生はいないみたいだ。机の上にお手洗いに行ってきますとのメッセージが置いてあった。殿下はそれを確認すると、ベッド前のカーテンを引く。


「ドロシー先生は不在のようだね」


「……はい。殿下、ありがとうございました。私は休みますので、ここでもう大丈夫です……



「シェリー侯爵令嬢、ちょっと失礼するよ」



 私はベッドに座って殿下に話しかける途中で、殿下はいきなり表情を変える。優しかった表情は一気に険しくなり、その間、殿下は私のスカートの中に手を入れてきた。


「でっ……殿下?! 何をするのですかっ?!! おやめくださいっ!!!!」


 いっ……いきなり何?! こんな場所でルキみたいな破廉恥なことを殿下がするの??!! 私は動揺が隠せないまま、ろくに抵抗も出来ずに、ただ手を殿下の腕に添えるだけしかできなかった。殿下は私の右の太ももに手を触れて滑らせていくと、私のスカートを少しだけめくり、付け根をグッ!! と押さえつける。強い力に痛みが響いて、私は叫んでしまった。



「痛っ!!!!」


 殿下は手を離し、何もせずにスカートを元に戻すと険しい表情から冷静な表情に変わる。


「…………やはりな、シェリー侯爵令嬢、君、まだ怪我をしているだろう」


「……これは前からあるモノです!!」


 私は必死に抵抗すると、殿下はわかっているようで首を横に張った。



「いや、これは昨日負ったものだろう。君は私を火の玉から守る時に走って来ていた。だが、今日の君の歩き方は少々おぼつかない状態だった。まるで右足を庇っているような、そんな風に見えたんだ。……どうして、専属医に言わなかった?」



「…………私が酷い出血や怪我をしていたら、王宮の方は極端に嫌がります。……私は血の姫ですから」


 血の姫は血に力がある。それは無限に細胞を治す治癒の力____だけど、私の血の姫であることの存在自体が王家の人達には昔から跳ね除けられるような存在だった。



「私は君の血の力について、よくは知らないんだ。だが、君の血には力がある、というくらいは知っている。……でも、血に力があっても、怪我を隠すのは王宮の専属医や私に対しても失礼だとは思わないか?」



 殿下は私をベッドに座らせたまま、真っ青なベタ塗りの青い絵の具みたいな目を私に向けてくる。……殿下の言うことが正しいのはわかってる。でも、私の血はそんな甘いものじゃない。幼い頃から薄々と感じていた、血の姫であることの差別。今だって、学校にいる時だって、私の力を恐れる者は多々いる。私の力は周りを不幸にする。……そんな噂話は私の力を恐れるが故のものだから。



「…………でも、私は……



「それから、言いたいことはもうふたつある。シェリー侯爵令嬢。まず、バンピル卿が授業中に誤って、手から滑り落としてしまった火の玉についてだが。……皆やアネシアは君が私を庇って重い火傷の怪我をしたと見ているが、私には君が自殺行為をしているように見えたんだ。だから、私は君を止めるために、庇おうとした。…………全く間に合わなかったがね。そして、私も君も重い怪我をして。……私は目の前が暗くなっていったのは微かに覚えているんだ。そして、私はこの左目が負傷していたことも、微かにだが、覚えているんだ」


 私は口をつぐむ。殿下が覚えていないことを期待していた。覚えていたとしても、あのお怪我からだと夢だと思うと思っていたのに。


「私は何も…………」



「いや、そんなはずはないと思うよ。シェリー侯爵令嬢。私は確かに左目が激しく痛かったんだ。だが、私が目を覚まして王宮の専属医に治してもらっていた時には既に傷はなかった。……私はてっきり眠っている時に専属医が治したのだと思っていたけどね、報告には左目の負傷はなかった。考えられるとしたら………………」



 殿下の言葉が、ひとつひとつ私を惑わしていく。こんな簡単にバレる予定ではなかったのに。本当のことを言うべきなの? 悩ましく感じていると、殿下は鋭かった声が変わり今度は少し優しい言い方になった。


「せめているわけではないんだ。私は君がどうしたのか真実を知りたいだけさ」


 真っ青な目が二つ並び、私を見つめると、私は一生黙っていようと思っていた固く決意した思いも脆く崩れてしまった。



「申し訳ありません…………私が……自分の力を使って治しました」


 深々と頭を下げる。気持ち悪いと言われて来たこの力。一緒にいると不幸になると言われてきたこの力。……それでも、この力を利用してでも守りたかった。私はそれ以上は何も言えずにずっと頭を下げていると、殿下は私の頭に手を触れる。



「そうか。シェリー侯爵令嬢。……ありがとう」



「…………不敬だと思わないのですか……?」


 私がゆっくりと頭を上げると、殿下は私の頭を撫でたまま微笑む。


「事情はどうあれ、君は私を思って治してくれたのだろう? おかげで、私は何事もなく目が見えているよ。誰が不敬にするんだい?」


 こんなことがあっていいのだろうか…………私にこんな優しい言葉をかける殿下がいてもいいのだろうか……


 私は嬉しさの反面、疑心暗鬼になってしまっていた。


「でも…………私の力は皆が気味悪いと言います。王家の皆さまでさえ、私の力を使わせないようにしています」


「何故皆がそんな風に言うのだろうか? 私は君に治してもらって、以前よりも目がすっきりしているけどね」



「そうですか。良かった。……でも、殿下。できたらこのことは私と殿下だけの秘密にしておいていただけませんでしょうか?」


 殿下の目に力を使ったと言われたら、私はそれこそ不敬になってしまう。どうして気味悪い血の力を使ったと言われてもおかしくないのだから。



「…………良いだろう。そのかわり。シェリー侯爵令嬢。……いや、シェリーと呼んで良いかな? 君が火の玉に飛び込もうとした理由を教えてくれないか? バンピル卿がさっき君に対してしていたことと何か関係があるのか」

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