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星に笑顔を

作者: ふるぼし

「冬の童話祭2022」用に書いた物語です。

 今夜は星が降るらしい。

 それを知ったのは、昼間のラジオ放送だった。


「いよいよ今夜はふたご座流星群。たまには夜空を見上げてみるのも良いかもしれませんね」

 明るい口調で話す女性DJは、リスナーからのメールの後にそう言って番組を終わらせた。

 空なんて見上げたのはいつだっただろうか?

 今それが出来たら苦労しないのだが。

 僕はそう思いながら目を開ける。

 そこにはいつもの天井があるだけだった。


 僕には双子の兄がいた。

 だから「ふたご座流星群」という単語は、通常のそれより少し心に響いたのかもしれない。


 兄は今から1年前、白血病でこの世を去っている。

 当時僕はまだ元気で、その瞬間は兄の手を握って迎えていた。

「一緒に流れ星を見たかったな」

 それが兄の最後の言葉。

 僕は泣くことも出来ず、ただ頷くしか出来なかった。


 兄は僕と違って成績が良い。

「双子なのにね」

 といつも言われ続けた。

 それは僕に背負わされた十字架のようだった。


 母の溜息を意図的に無視するよに、兄はとても優しく僕に接してくれた。

「一緒に星を見ようぜ」

 兄がそう言ったのは、テストのご褒美に買って貰った望遠鏡が届いた日。

 週末は父に車の運転を頼んで、星の綺麗な街の郊外へ行く。

 ささやかな予定だった。

 そしてその日の朝。

 兄は突然倒れた。


 救急車で近所の病院に運ばれた兄は、すぐに大学病院へと転院となった。

 急性白血病。

 僕たち家族にそう告げた医師は、少し視線を外して続けた。

「もう長くは生きられません」

 それは僕たち家族にとって、死刑宣告のような言葉。

 優しく話し好きな筈の父は何も言わない。

 気丈な筈の母は、声を出してずっと泣いていた。

 そんな2人に僕はまだついていけてない。

 仕方ない。

 だって僕は兄ほど頭が良くないから。



 兄の死から半年後。

 今度は僕が体調不良に襲われた。

 病院での診断結果は、兄と同じ病気だった。


 正直覚悟はしていた。

 兄と僕は一卵性の双子だ。

 同じ病気になる可能性が高いということは、なんとなくだが理解出来ていた。

 兄より少しラッキーだったのは、まだ病気が進行する前に発見できたこと。

 それと医学の著しい進歩で、進行を遅らせる新薬が開発されたこと。

 そしてその新薬が、今点滴を通じて僕の体の中に入り続けていること。


 骨髄移植が上手くいけば、普通の生活に戻れる可能性がある。

 担当医はそう説明した。

 でもそれはあくまで「可能性」であって、それはリスクと伴うことを僕は知っていた。

 同時にそれ以外の方法が無いということも。


 僕は骨髄移植に同意した。

 失敗すれば事態は悪化する可能性が高いし、もしかしたらそのまま亡くなってしまうかもしれない。

 その説明を含めて、僕は飲みこんで覚悟を決めた。

 そして移植リストに登録した翌週、僕は体調を大きく崩して入院することになった。



 入院して3か月。

 残暑が酷かった秋はとうに終わり、窓の外はもうすっかり冬だ。

 残念ながら骨髄移植のドナーはまだ見つかっていない。

「カーテン、開けておいて貰えませんか?」

 消灯の準備をしにきた看護師さんに僕はお願いした。

「今日は流れ星が降る日らしいので」

 彼女は一瞬戸惑った顔をしたが、すぐに笑顔で僕の要望を受け入れてくれた。

「あまり無理しないようにね」

 看護師さんがそう言って去っていく。

 電気を消された病室は、いつもより少し広く感じた。

 

 窓の外は街灯の光で意外に明るかった。

 僕に繋がれている医療機器も、小さいが光を放っていて、それが窓ガラスに反射している。

 残念ながらとても流星群が見えるとは思えなかった。


 仕方なく僕はラジオをつけた。

 昼間と同じように女性DJがリスナーからのメールを読んでいる。

 流れ星にまつわる話がテーマのようだ。

 楽しい話と悲しい話、それに切ない話が続き、それに関連した曲として「星に願いを」が流れる。

 そして番組のエンディング。

 そのDJはこう続けた。


 今日のたくさんの願いが星に届きますように。

 そして星に笑顔で願いをかけることが出来る人は、その笑顔をほんの少しを、星に分けてあげてください。

 自分のやれる範囲で、ほんの少しだけ。

 その笑顔がたくさんの人に届きますように。


「いいこと言うじゃないか」

 思わず口に出してしまう。

 まるで星を見て願いすらかけられない僕のことを、知っているような口ぶりだった。

 この人のファンになろう。

 僕はそう決めた。

 あとどれだけの時間があるかは分からないが。



 僕のドナーが見つかったのはそれから2日後。

 移植は無事に成功し、僕の体は徐々に回復の兆しを見せていた。

 ベッドの上なら起きられるようになった僕は、ドナーからの手紙を受け取った。


 ラジオを聞いて骨髄バンクに登録しました。

 私の幸せを少しだけ流れ星に託します。

 あなたに笑顔が届きますように。


 星に笑顔は確かに届いている。

 僕はそう思って少し笑った。


 この分なら、来年は流星群を見に行けそうだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 流星群、見にいけそうで良かったです! 優しく切ないお話でした。
2023/04/23 18:37 退会済み
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