さて、どうする?
この世界の悪役令嬢である自分の死亡フラグを回避することを決めたものの……これからどうしようか?
ヒロインが登場する前に、是が非でも婚約解消をしておきたいのだが、今日のクローウェルを見ている限りは難しいかもしれない。
この世界はどうしても私に、クローウェルへの熱烈な恋心を植え付けたいのだろう。
そうでないと話が始まらないと言われたらそれまでだが……解せぬ。
正直に言うと、クローウェルへの恋心がなかったわけではない。
ハイスペックなイケメンに熱い視線を向けられながら愛を囁かれ続ければ、普通にときめくし、ドキドキして胸がギュッとしたりもする。
クローウェルはこの国の誰もが一度は結婚したいと憧れる王子様なのだ。
クローウェルの吐く甘ったるい台詞に酔っていた自分がいたのも記憶に新しい。
あのまま何も知らずにいられたら幸せな一時を味わえたかもしれない……。
だけど、全てを思い出した上で、クローウェルへの恋心と自分の命を天秤にかけられたら、私は自分の命を取る。
アリアーナを溺愛して、クローウェルに夢中にさせておいて、自分は新しく現れた別の相手を選んで邪魔になったアリアーナを断罪するとか……そんな最低な男は、いくら顔が良かろうともお断りだ。
全てを理解して受け入れた状態で、嫉妬に狂った挙げ句に恋敵に手を出して処刑されるだなんて、どんな喜劇だ……。
悪役令嬢のアリアーナという立場ではあるが、平々凡々な容姿だった前世の私が、こんな美女に生まれ変わったのだから、命を粗末にするのは勿体ない!
前世の分まで人生を謳歌するのだ!
目指せ!可愛いおばあちゃん!
……ということで、どうしようか?
さっきからずっと堂々巡りである。
クローウェルは頭が良い策士なので、下手なことをすれば私の計画がバレてしまうだろう。
クローウェルにバレる=【シナリオ補正】or【強制力】の発動。
――という状況は避けたい。
アリアーナの中の私が消されてしまったら、断罪回避どころの話ではない。確実に死ぬ。
病を患ったことにして面会を拒もうものならば、『療養するならば、安全な王宮内で腕の確かな医師がいた方が良いだろう』とかなんとか言いくるめられて、速攻で王宮に連れて行かれる気がする。
結婚おめでとう♪アリアーナ。
……って、違うだろ。私。
このゲームはきっと結婚がゴールにはならない。何故なら、結婚していても断罪はできるから。
太った醜い姿になれば、簡単にクローウェルに嫌われて婚約解消できそうだが――――実は、アリアーナは幾ら食べても飲んでも太らない体質なのだ。
前世の私からすれば羨ましすぎる体質だが、ここでは大きな障害になった。
自分の身体に傷を付ける……のは痛いから嫌だ。
しかも、痛い思いをしても回復術があるので、余程の深い傷以外は元に戻る。
クローウェル以外の人との結婚願望はあるので、深い傷は付けられないし…………詰んだ?
いやいやいや。まだ大丈夫。……大丈夫だよね?
どうにもならなくなったら市井に逃げられるし、私には前世の知識がある。
それに、私にも魔術が使えるのだから大丈夫!
……って、そう!
私には使える魔術があるじゃないか!
どうしてこんな大切なことを忘れていたのだろう。
ベッドから飛び降りた私はドレッサー方へ向かった。
ドレッサーの前に立った私は目の前の鏡へと手を伸ばした。
……私の使える魔術は複製。
自動印刷機の如く、真っ白な紙に原本を写すことは勿論。例えばドレッサーの上にある赤いリボンの付いた可愛らしいクマを複製し、そっくりそのまま作り出すことも可能。
つまり、私をもう一人作ることができるのだ。
しかし、この魔術を使用するには欠点というか問題がある。
見た目をそっくりに作ることはできるが、中身までは複製するに至っていない。
これはあくまでも私の経験不足によるものなので、実践あるのみになってしまうが……。
やるだけの価値は十分にある。
――ということで今後の方針が決まりました。
①まずはアリアーナの複製体を作る。
②今後のクローウェルの応対は全て複製体の『ありあーな』に任せる。
③ありあーなを使ってクローウェルを幻滅させ、婚約解消にこぎ着ける!!
……どうしてわざわざ複製体を使うのかって?
それは私がクローウェルと一緒にいたくないからです!甘い台詞はもうお腹いっぱい!
だからこその複製体なのです。
さあ。今後の私の幸せな人生の為に、実験を始めましょう!