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悪役令嬢は決意をする

クローウェルを見送った後。


自室に戻った私は、ドレスにシワが付くのも構わずにベッドに横になった。


……疲れた。

深い溜め息を吐きながら、天井にあるシャンデリアをぼんやりと見つめる。


豪華と言えるほどに大きい物ではないが、職人が丹精を込めて作ってくれた一品で、スワロフスキーに似た石の一つ一つがキラキラと光を反射するような輝きを発していてとても綺麗なので気に入っている。


気分が優れない時に見ると、いつも元気になれるのに……今日はどうやら駄目みたいだ。


あの後ずっーと、胃もたれしそうな甘い台詞を吐き続けたクローウェルは、帰り際には私の頬にキスまでして行きやがっ……コホン。失礼、言葉が乱れました。



正直、どうしてここまで私がクローウェルに好かれているのかが分からないのだが――――


やはりそれは、私が『悪役令嬢』であることが影響しているのかもしれない……。


視界からシャンデリアを遮るように、額に右腕を乗せた。



**


クローウェルに出会ったのは、アリアーナが三歳の時だ。


仕事で王宮を訪れた父親に付いて来たアリアーナは、部下から緊急の呼び出しを受けた父を送り出した後に…………広い王宮内で迷子になった。


幼いアリアーナには、『ここで待っているんだよ?』という父との約束よりも好奇心が(まさ)ってしまったのだ。


右を見ても左を見ても、似たような造りの部屋だらけ。運が悪いことに、小さな子供のアリアーナの姿は、王宮の使用人達の目に止まらなかった。


――王宮内をさ迷い続けた結果。

疲れ果てたアリアーナは中庭の噴水の近くで眠ってしまったのだった。


そんなアリアーナを偶然見つけたのは、当時五歳のクローウェルだった。


アリアーナが目を覚ますまで待っていたらしいクローウェルは、目を覚ましたものの、まだ眠くて瞳を擦っているアリアーナに、キラキラと瞳を輝かせながら質問をしてきた。


「ねえ、君はどこから来たの?」

「……?」

「キレイな紫色の瞳とふわふわの髪が可愛いね」

「ふふっ。リーナはね、おかあさまとおなじなのよ」

母譲りの瞳を褒められて嬉しかったアリアーナがにっこりと満面の笑みを浮かべると、クローウェルが瞳を見開いたままで黙りこんだ。


「……おにいちゃん、だいじょうぶ?どこかいたいの?」

急に黙りこんだクローウェルが心配になったアリアーナが首を傾げると、


「……うん。大丈夫」

クローウェルは両手で自らの真っ赤な顔をアリアーナから隠すようにした。


急に黙りこんだり、真っ赤な顔になったクローウェルを心配したアリアーナだったが……「何でもないから!」と言うクローウェルに、噴水の近くの花壇に手を引かれて連れて行かれる頃には、すっかり意識を花に持っていかれてしまっていた。


クローウェルと手を繋いで花壇を巡りながら、彼から色々な花言葉を教えてもらった。


それはアリアーナの父親の出した捜索隊に見つけられるまで続いた。


――憔悴しきった様子の父から「ここにいてって、約束したじゃないかぁー!もう二度と私の天使(マイエンジェル)に会えないかと思ったよおおぉ!」と頬を擦り付けられながら暑苦しい説教を受けたのは……余談である。



「リーナは大きくなったら僕と結婚するんだからね?」

白色の小さな花で器用に指輪を作ったクローウェルは、その指輪をアリアーナの薬指にはめた。


「うん!」

「絶対に約束だよ?」

アリアーナが大きく頷くと、クローウェルはその頬にチュッとキスをした。



***


それが幼い頃に交わした『約束』。


純粋で無垢だった私の大切な物を勝手に奪いやがっ…………コホン。


視界を覆っていた腕を退けた私は、チラリと机の方に視線を向けた。


机の上に置かれた透明なケースの中で、あの時の花の指輪は今もまだ綺麗な状態で残っている。


この世界には魔術が浸透していて、知り合いの魔術師に【保存】の効果を付与してもらったのだ。

あの透明なケースに入っている限りは半永久的にあのままなのだそうだ。


前世の記憶を取り戻してから知ったことなのだが、あの白い花の言葉は『純愛』、『君を愛す』という意味を持つ。

プロポーズに相応しい花だと思いつつ、更に調べると……実は()()()()なるものが存在した。


その裏花言葉は……『執着』、『何がなんでも逃がさない』、『束縛』。


五歳のクローウェルが、裏花言葉まで知っていたかは不明だが……こう、背筋をゾワッとさせる何かを感じる。


今となっては捨ててしまいたい物なのに、捨てられない理由がソレである。



しかし、当時の夢見がちな三歳の少女(アリアーナ)は違う。

物語に出てくる王子のような少年が、本物の王子様だったとは露知らず――――その少年が本物の王子様であることを知った時は、自分が物語の主役になれたようで歓喜した。


婚約が決まった五歳の時には、『やっぱりあれは運命の出会いだったのね!』……と、神に感謝の祈りを捧げた。


――――あれから十二年。

クローウェルとの結婚を夢見て、妃教育を頑張ってきた私だが、この先に待ち受けているのが断罪であることに気付いた今は、できるだけ早くクローウェルから離れたいと思う。切実に。


残念ながら今日は失敗してしまったが……ヒロインが現れるまで、まだ僅かに時間は残されている。


どうにもならなくなったら逃げれば良い。

前世が庶民だった私なら、市井に下りてもどうにか生きられるだろう。

困った時は前世の知識を生かせば良いのだ。


「よし!」

私はガバッとベッドの上に起き上がった。


ここでくよくよと考えていても何も始まらない。



クローウェルからの溺愛はもしかしたら、これから始まるヒロインとのストーリーの為なのかもしれない。

溺愛されていると勘違いしたアリアーナが、ヒロインに嫉妬をして傷付けるように仕向ける為の。


【強制力】、【ストーリー補正】。

どうあっても私は死ぬ運命なのだろうか。

どんなに足掻いても変えられない……?


いや、そんなはずはない。

『運命は変えられる』

私はそう信じて行動を起こすことを決めた。

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