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またしても風上におけないヤツ  作者: トキオリオン
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「白濁の救世主」

第4話「白濁の救世主」


 滝の水源である川のスタートラインにあぐらをかいた巨岩。


 そこに渦巻き状に岩へその辺りとも言うべき中央からぐるぐると刻まれたルーン文字列。


 巨岩の手前には平たい岩を五段くらいの階段状に設けた祭壇がある。


 最長老様が何やら呪文を唱えながら、その祭壇に手乗りサイズのカップを並べている。


 朝から最長老様に続いて、ハナ先生がなにやら日本語でも英語でもない言語を唱えつつ慎重にカップを並べるアシストをしている。


 朝食の後から続くこの退屈な光景に、たるみきったタロウの眼差しは、祭壇から目をそらすことなく、見るともなしにハナ先生の形の良いプリンとしたヒップに注がれている。

 

 いやね?じいさまの尻と若え女子おなごの尻をどちらか長時間眺めなさいって課題を男子に出したら、そののないノーマルな模範解答は、若え女子おなごのヒップに決まりでしょう?


 そのヒップの管理責任者の許可さえ下りるならば、タロウはもう揉んだりさすったり頬ずりしたくなる、売れっ子グラビアアイドル級のハナ先生のセクシーヒップなんですよ旦那。


 とまあ、こんな感じでタロウのデス・スメル解約儀式の最中、当の本人は儀式そっち退けで、祭壇から少し離れた草むらに正座させられ鋭意視姦中なのです。コラ!タロウ!その口元のだらしのないよだれを拭きなさい!


 ごにょごにょむにゃむにゃと何事かを唱える最長老様の後ろで、それに追従するハナ先生が、ふとタロウのいやらしい視線に気づき、儀式の途中で、並べてたカップの一つをタロウの顔面に投げつけ、熊も裸足で逃げ出す眼光で睨み付けてきた。熊はもともと裸足だが。


 すっかりハナ先生のヒップに釘付けになって油断しまくってたタロウは、謎のカップを「いて!」と顔面キャッチする羽目になった。


「・・・・・・なんだよ、もう。ちょっと素敵なヒップだからっていい気になって。文句があるなら口で言ってほしいよね。って、何これ?」


 自分のセクハラを余所にぶつくさ不平だか賛辞だか宣うタロウは、たった今、顔面キャッチして手元に落ちたカップを見てハテナマークを浮かべる。


『生きて腸の最前線に到達するお腹の最終兵器MP666乳酸菌カプセル配合カスピ海ヨーグルト』


 商品名が長すぎて、胡乱なタロウの猿以下の性欲と煩悩に支配された桃色の頭脳では、スッと理解できない代物である。パッケージこそ爽やかな青と白の波模様で装飾されたカップだが、記載されている表示が見慣れぬ文字が混じってる。


「朝からずっと何か並べてると思ったらヨーグルトのカップだったのか」


 疑問解消したかに見えたタロウだが、その『生きて腸の最前線に~』の使用材料表記を見て絶句する。


『原材料。魔界乳牛の生乳、砂糖、悪魔岩塩、乳化剤、イモリの黒焼き粉末、マンドラゴラエキス、黒山羊さんの食べ残した手紙、コンドロイチン、ハスターキサンチン、スッポンの生き血、マカエキス』と、浅学なタロウでも不吉な予感しかしない原材料名が列挙されてた。なんか、中二病こじらせた女子が喜びそうな材料名がかなりの割合を占めているのはわかった。


「おいおいおいおい!ちょっと、最長老様ぁ~!ハナ先生ぇ~!まさかこれを食べろって言うんじゃないでしょうねぇ~!?」


 祭壇のお二方が、カップを並べながら呪文を詠唱しつつ阿吽の呼吸でタロウに振り返りサムズアップして見せてきた。やがて、ヨーグルトのカップの在庫が切れた様子で、祭壇から降りてきた最長老様が「ほれ、お前さんが契約した魔術はオナラの魔術じゃろう?」とタロウににんまりと微笑み尋ねて来た。


「ええ、まあ。それはそうなんですが。こんな怪しいヨーグルトを食わされるくらいなら屁を選びますよ?俺は!」


「まあ、せっかく用意したんじゃから、食わず嫌いを言わんと黙って食べなされ」


 昨晩見せてもらった微笑みとは別の雰囲気な笑みを浮かべて近寄ってくる最長老様の前で、嫌な予感的中で、後ずさるタロウの背中に柔らかな感触がポヨンっと懐かしい感じで立ち塞がる。


「ここまで準備させておいて逃げ出すなんてさせないからね?タロウ?」


 ふぅっとタロウの左耳に色っぽい桃色吐息をかけるハナ先生。背中に当たっているのは、ハナ先生の大きさ秘密!な大きめバストのようだ。思わずタロウの股間が熱くなる。馬鹿なせがれを持ったタロウは、思わず前屈みになろうとしたが、体が微動だにしない。


 先にも述べたが、魔術師の言葉には『言霊』など超自然的エネルギーに作用する魔力がある。


 今のタロウの耳朶をくすぐった甘い囁きと吐息もサービスタイム開始の合図ではなく、五感を魔力で刺激し拘束する魔術だったのだ!


 そうとは知らない無知蒙昧でムチムチにもうマイッチングなタロウ。背中に当たるバストの感触に鼻息荒くするや否や、己の体に起きた異変に振り返ることすら叶わず、雷に打たれたような直立不動姿勢でその場に立ち尽くす。


「ふぉっふぉっふぉ!お腹の悩みには、冥事めいじヨーグルトに限るわい。さあ、古代呪法で威力増幅した魔界でも話題沸騰の『生きて腸の最前線に到達するお腹の最終兵器MP666乳酸菌配合カスピ海ヨーグルト』をたぁ~んとお食べ♪」


 どこで製造販売しているのか、くっそ怪しい出所と商品名のカップを一つ開封して、内容物を木匙で掬って、身動き一つできないタロウの口へ、ゆっくりと近づける最長老様。MP666乳酸菌て乳酸菌か本当に?


 おっしゃることはわからんでもないが、食べたり販売したりしたら保健所が黙ってなさそうなその白濁のゲル状なものに、デス・スメルより危険な香りを感じるタロウが「嫌だ嫌だ嫌だ!」と怯えた視線で最後の抵抗を試みる。


「ほら、タロウ?お口をあ・け・て♡?」


 よりにもよってこんな状況で、無駄に色気たっぷりに耳元で色艶十分な唇で背後から怪しく囁くハナ先生。


「ほあ?あがが?」


 またしても魔術の類いか!と混乱しながら無駄な抵抗を試みるタロウの口が、見えざる手でこじ開けられる。ついでに最長老様の骨張った左手の親指と人差し指が、タロウの鼻を摘まむ。


「ほれ、ごっくんじゃ」


 呼吸の手段を封じられ、言われるがままに、本当にヨーグルトなのか不明の白濁ゲル状を、喉の奥から胃へと流し込まれてしまったタロウが思わず「味は普通のヨーグルト」と判断してしまったそれのおかわりはまだ沢山用意されている。


「死んだ婆さんも便秘の折にはこれのお世話になっておったもんじゃ」


 と、最長老様が遠い過去を振り返り、懐かしそうに双眸を細め、たった今空にさせたカップを眺めて感慨深げにおっしゃった。


「光栄に思いなさいタロウ?最長老様直々に呪術を施していただいた冥事めいじヨーグルトをしょくす機会なんて滅多にないことなんだからね?」


 タロウの前に回ってモデル立ちで偉ぶるハナ先生の解説に「こんなもん常食させられて堪るか!」と、怒りの声を上げたいタロウだったが、この後、日が暮れるまで、半ば強制的に在庫一掃セールに付き合わされる運命とは、この時点ではお釈迦様でも気がつかなかった。









 







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