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自由への渇望

作者: 酸化する人

小学生の頃に、出会ったピアノ。


始めて鍵盤を押した瞬間、その音にとりつかれた。


その音色は、どこまでも自由だった。

重力を含んだ全ての重荷から解放されていた。


お前にはこんな自由、絶対に手に入れることなどできないんだとささやいているかのようだった…。



なんて…なんて憎たらしくて妬ましくて、そして羨ましいんだ!!!


そんな醜い感情が、皮肉にも私をピアノに執着させた。





「はぁ…。明日はコンクールかぁ…。」

緊張であまり眠れない。


自由を求めるためにピアノを始めたはずなのに。

ピアノを弾けば弾くほど、責任や信頼や期待のような重荷が体にのしかかってくる。

それもこれも上手くなったからなんだろうけど…。


「少し練習…しようかな…。眠くないし。」

ピアノの前に座る。


【お前の求めるものは手に入らない。絶対にな。】

「うるさい。」

【オレの様にはなれないさ。】


そんなこと分かってる…。

だけど。貴方に憧れた…。

そして、ムキになってピアノを弾き続けてきた。



それから何時間弾いていたかは分からない。

気がつくと、朝になっていた。


「また…やってしまった。寝不足で頭が痛い。…支度しないとな。」


ボサボサの髪を強引に整えて、急いでコンクール会場へ向かう。

控え室の扉を開けた瞬間、張り詰めた雰囲気が漂ってきた。


どの演奏者も緊張した表情をしている。


「若宮さーん。出番です。」


うわっ。名前呼ばれていくパターンか…。

さらに緊張感増すんだよな…。これ。


私の出番は…。次…か…。危ない。もう少し遅れてたら失格になってた…。


「若宮さーん。いらっしゃいますか?…えーっと、いらっしゃらない様なので、飛ばして次の方…。枯木さーん。いらっしゃいますか?」


突然、自分の名前を呼ばれたのでびっくりした。


「は、はい。」


「次の演奏お願いします。」


「分かりました。」


動揺を隠せないままステージへのぼった。

グランドピアノと試験監督みたいな人たちが、目に写る。


「よ、よろしくお願いします!」

一礼をして、ピアノの前に座る。


そして小声でつぶやく。


「私も貴方みたいに自由になりたいな…。」


【…無理だ。なにせお前は人間なんだから。】


「そう…かもしれないね。…だけど、私は諦めないよ…。必ず。貴方みたいに…。」


音を弾ませる。

本当の意味での自由を求めて…。


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