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96.不穏な内情

抜けがありました!すみません!

 中立派のボスティス侯爵家。

 多くは争いを好まない温厚な者を指し、時に忠誠心のない蝙蝠と皮肉られたとか。

 だが実際のところ、親父のように友人と銘打って手助けするし、兄貴のように中立だからと自ら側近になる奴だって稀にいる。

 ルガートに至っては口から滑らかしているだけで、ほぼ第一王子派に与しているようなもの。


 そして話はその派閥争いとなる。

 第一王子派、第二王子派、最近では王女派まで出来上がったそうだ。

 これは嬉しくなさすぎる情報。

 イルガゲート王太子殿下の年齢は聞いてないが、兄貴と同年。

 四、五年前に新たに魔力を増やせる方法として文献が出回り、魔力枯渇を行った者は多い。

 それなのに、真っ先にやってそうな王族が魔力枯渇を施行できずにいると話した殿下は微妙な表情で腕を組み、軽く勢いはあるがおそらく溜め息を吐き出した。

 魔力枯渇を行えば意識の有無に関わらず体の自由が奪われるのが共通点。

 一番の懸念がそれらしい。


「半日から一日も身動きが取れなくなるのならな……。できれば早めにやっておきたいものなのだが、王宮ではままならぬ」

「第二王子派の者の耳に入れば、すぐに何かを仕掛けて来るでしょうね」


 眼鏡の位置を整えるロシュメルは元々悪い顔色を更に悪くし、軽く首を振る。

 意外と好戦的な第二王子派、もっとこう、そういうのって水面下の話じゃないものなのか。

 話のニュアンスからだといつでもその首切り落とすとか不穏な空気しかしないんだけど。


「加えて最近では王女派の者の動きも謎めいて活発。……ルガート、いい案はないか?」

「待て、何で俺に振るの?」


 俺に聞いていい話題じゃないだろ。

 内情は知っておいて損はないが、あまりにも冷ややかな王城内の事情に口端がひくつく。


「第二王子はまだ御歳十一歳、ルガート、お前と同い年だ。だが、担がれている現状に振り回され、弟と言うよりその周囲の奴らが息巻いている」

「いっそ弟と仲良くなって手を出されにくい状況作れば?」

「第二王妃が構えている」

「それ第二王子一派じゃなくて第二王妃の陣営が目を光らせてるんじゃねえの?」

「まあそうなるな」


 しんと沈黙が嫌すぎた。

 撫でるように冷ややかな寒気が背筋を降り、自身の発言によって深掘りされると知っていても口に出さずにはいられない。

 そら恐ろしい。

 目に見えて分かる派閥争いじゃねえか。

 腕を組み、全員から視線を貰いながら緊張感すら漂う室内で現実逃避したくなるが、冗談では済まされない殿下の現状に目を閉じる。

 ふと、先ほどの言葉が頭をよぎる。

 にっと口端を上げて笑い、目を開けたルガートはとりあえず胸中で先に謝った。


「殿下、ロブスター食べたかったんだよな?」

「ん?」

「そこのダンジョン、五層までしかないから楽ぅーにロブスター祭りが開催できるんだよ。そこの人らも味はしっかり覚えたから、多分また祭りと聞きゃすぐ乗っかるぜ?」


 あの規模と立地なら、いくら第二王妃の手のものと言えど手は出しにくいと踏む。

 流石にダンジョンで暗殺行為を行われたら全力で妨害するしかない。

 常にイルガゲートの周囲に誰かしらいる状況も作っておけば不審がられないか。


「……ほう、視察がてら、ダンジョンをこの目で見るのも悪くないな。レベルはどの程度だ」


 レベルが一七のジョシュアでさえ余裕のある戦いぶりだった。

 おそらく、ボス以外はごく低レベル。

 イルガゲートのレベルを尋ねるとジョシュアよりも更に低い一桁に顎を外しかける。

 よく魔獣の討伐に行こうとか思ったな。

 というかこれ、魔士やら騎士団やらのレベルも怪しいと思わなくてはいけなくなってきたのではないか?

 冷や汗を隠し、全力護衛に回ろうと胸に留めておきながら手をあげる。


「俺も行くんで心配ご無用で。祭り会場の近くに不定期にありえん迫力で噴き出す間欠泉ってのもあって、まあまあ見ものだ」


 また見るとなると時期は叶わないだろうが、話のネタにはなる。

 まあ、実際近づいたら危ないのだし、視察目的にも打ってつけだろう。


「ふむ、聞いたことのないものだな。安全面で万が一もある。危険がないか確認せねばならんな。来月のスケジュールを見直しておこう」

「学園の許可とか……」

「いや待て先に急ぎの書類を……」


 イルガゲートがつるっとこぼした言葉は流石に早すぎるのではないかと思った瞬間、殿下の後ろで兄貴とロシュメルが同時に顔を押さえたり頭を抱えた。

 言いたいことは分かるが、カルドのように噴き出さないでいる。

 今日はまったく治んねえなこの人。


「久々に討伐に向かうのも悪くない。ジミトリアス、今度は俺が前へ出る。止めてくれるなよ?」


 活き活きと上機嫌に振り返るイルガゲートと、正反対に青い顔のジミトリアス、同じく綺麗に真っ青顔のロシュメル。

 先の話と思えば分からなくもない。

 むしろルガートもそう話を進めていたつもりだったので、殿下も案外猪突猛進なキライがあるのかと遠い目をする。


「殿下……調整する身にもなってください……」

「文句ならお前の弟に言うことだ」

「ルガートーーーー」

「ごめん」


 一言で終わらせたルガートだが、それで仕方がないなと溜め息をつきつつ許す兄。

 容易いぞ兄。

 調整に関しては気長にしていいのではと思ったが、ジミトリアスに絶対来月だと断言されてしまう。

 有言実行、というより王族の言葉は絶対的な?


「……殿下、振った手前アレなんですが、もう少しゆとりを持っては?」

「魔力枯渇だぞ?」

「……」


 早く試したいだけなのかとやや胡乱な目になる自覚はあった。


「身を守る術を増やす機会は自ら動かねば捕らえられん。王族とて側近がいるから安全というものでもない。現状はままならんことの方が多いということだ」

「……逼迫しすぎでは?」


 それだけ暗殺される機会が多いと暗に言ってんの?

 安眠どうのはそれも関係している?

 ルガートも頭を抱え、サワヌァ村で守りの加護に似た紋章がないか今度訪ねに行こうと公爵にも先に断りを入れておいた。


「なに、俺は幸いにも周りに恵まれている。悲観はせん。お祖父様も、今の内情を見たらさぞお嘆きになったろう」

「…………。ガレゾフィート様、……先代国王は、」

「私が生まれる前の話だ」


 動乱の時代を生きた英雄の一人は、既に消えていた。

 やや呆然となっていたルガートを見て、ブルースター公爵はすぐに膝を叩き、注意を向けさせる。


「ルガート、サワヌァ村に来る時は、絶対に土産を持って来なさい」


 動揺を見抜かれていた。

 焦る胸中を隠し、ルガートはほぼ反射で頷き意識を切り替え公爵に目配せまた頷いた。


「分かりました。素材はどうします? 外殻丸ごとでいいですか?」

「いや、部位などの厳選もしたいから、とりあえず見本に一体分を寄越しなさい。それからフレインのことで話がある。明日、こちらに来るように」

「承知しました」


 時間差で出て行く殿下達全員を見送り終わるとしばし空を眺めた。

 随分と赤い夕焼け空をメイド長のミヌスがやんわり声をかけに来るまでぼんやり眺め、少し重い肩をほぐし、別邸へと戻った。

 疲れただろう今も興奮気味に話していたメイド達を労い、明日は何か美味しい菓子でも買ってこようと約束する。

 それから、ジョシュアとノースタックス伯爵にお詫びと軽い諸事情を連ねた手紙を送っておく。


 手紙が届いたノースタックス伯爵家は一時阿鼻叫喚となり、崖上の宿を急ピッチで模様替えに忙しくさせているとは露知らず、つるっと顔を出したルガートはジョシュアに首を絞められるのだった。

先日も書いた通り、明日から更新が難しくなります。

ここまでお読みいただき、日々感謝とお礼を申し上げます!

いつの間にかブクマ件数や評価も増えてて驚き震えつつビビってますが、のんびりお待ちいただけたら幸いです。


次話は父ちゃん酒乱の回です。

多分ご想像通りの閣下がいらっしゃると思いますはい。

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