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93.ロブスター祭り

 新たな階層主を秒殺で仕留めてしまったルガート。

 全長四メートルとそこそこ大きな魔物なのだが、リヴァイアサンの全容を見たあとではどうしても迫力に欠けていた。

 そしてせっかくのデビュー戦を台無しにさせた感はある。

 魔物に同情しても仕方ないのだが、もう少し戦った方がよかったか。

 甲殻類特有の香りと、真っ黒な巨体は綺麗な赤へと様変わり、ついでにドロップアイテムを手にしながら振り返る。


「リビィ、会話はテレパシーのようにできないか?」

『念話? できるけど、それだと契約者としか話せなくなるよ?」

「それでいい。ギルドや各所方面から実験動物扱いされる可能性もあり得るから、安全策だ」


 外で大っぴらに話していたら大注目だろう。


『なるほど、人間は見境がないね。ところでこれ、ワタシも食べていいかい?」

「食うのかよ。デカくならないならいいぞ」

『♪♪♪』


 ジョシュアの腕に絡みついたまま小躍りの状態に笑い、ひとまずドアの向こうで戦々兢々しているだろう拠点組を安心させる為、顔を見せた。


「ぼっちゃま!!! ルガート様!!!」

「ご無事で!! よく!! ご無事で!!!」


 泣いていた。

 まあ、あんなの見せられたらそりゃあ泣く。

 腰を抜かしていたようで、涙や鼻水を綺麗にさせてからボス部屋へと手招き、安全になったと伝えてもリヴァイアサンを見たあとだからか、恐々と中へ入ってきた二人は、中央で蒸し焼きにされてしまったロブスターに目を点にさせていた。


「入った時に見たのはあっという間に別の窖に消えてな。階層主は奥にいた。腹減ってないか? 多分特大に美味いと思うぞ」


 後輩さんがパァン! と自身の頬をはたき、また再度目の前の光景に呆けている。

 先輩さんも瞠目から目元を擦り、各々の反応に沈黙する。


「……俺、夢でも見たのか?」

「夢なら夢でいい気もしてきた」


 まあそこにいるのだが。

 ジョシュアもフォローしようとしてくれているので、そちらは任せたほうがいいかと拠点からロープを取りに向かうルガート。

 浮かせて運ばないとあの階段はキツいだろう。


「二人共、心配かけたな。あの巨大な魔物は滅多にお目にかかれない精霊様と思ってくれ。階層主がこっちで拍子抜けしたか?」

「いえとんでもございません! ジョシュア様がご無事でしたなら、些細なことです」

「人魚に化かされたと思っておきます」


 化かしたリビィに気づいた後輩が早速突っ込みを入れていたが、ジョシュアは笑顔で懐かれたと無理がありそうな誤魔化で乗り切ろうとしていた。


「おーい、これ、上の人らにも持っていかないか?」

「ルガート様はなぜああなのですかぼっちゃま」

「仕方ない、ルガートだから」


 洞窟の出入り口の岩へ向かうと無事に開いていたのは助かった。

 リビィが言うには階層主を倒したら罠は勝手に開く仕組みらしい。

 拠点組の人らは上の集落の者達に手伝ってもらう形でロブスターを振る舞いに往復をお願いした。

 ルガート達、探索組は主にジョシュアのレベル上げと階層マップをコンプリートさせる為、細かい探索をしてからまたロブスター戦を繰り返した。

 蒸し焼き丸焼きで絶命するグランドクロウ。

 秒殺の戦闘にリビィは目を細めて遠くを眺める。


『階層主に任命させた手前、言うのは憚れるが……グランドクロウが可哀想に思えてきた』


 魔物として召喚したはずなのに、今現在、量を得ねばと格好の餌食扱い。

 今の戦闘で最後にするかと、ルガートは嬉々としてロープで結びにかかっている。


「リビィ、多分間違っていないぞ」

「こんなもんでいいか」


 拠点組が楽に運べるよう括りつけたグランドクロウを、いつもの風魔法で浮かせたルガートに目を光らせたリビィ。


『なんと、人間はアレだが、随分と繊細に魔法を扱うのだね』

「ルガートの得意とするひとつだな」


 目的は本来の用途から大きく外れていなくもないが。


『ジョシュ、君の友は不可思議で変人だね』

「ううん……否定できない……」


 魔法に関してはジョシュアから見ても変人の域だろうとは伺えていたが、第三者から言われる状況に苦笑が漏れた。


「だが、それが彼の魅力のひとつでもある」

『……。ふふ。ワタシは素敵な契約者を得たようだね』

「君も、契約を抜きにして自慢の友でありたいよ」

『……。それは、素敵だね』

「はは」


 器用に体の輪郭を這って頭の上に来たリビィは、そのまままた腕の方へと行き交い体をなじませているように見える。

 しかし、そんな二人の会話は第三者からは届いていない。

 もちろんルガートもその一人で。

 今の今まで作業の合間に聞いてはいたが、ジョシュアが不自然に間を開けて話しているだけにしか聞こえていない。

 拠点組がいなくてよかった。


「ジョシュア、会話するなら声に出さないようにしとかないと、独り言がヤバいぞ」

「ああ、そう見えるなら気をつけなければな。今日はもう上に戻るか?」


 にかっと常にない笑顔のルガートは、早くもこの魔物の食事に思いを馳せていた。

 階層主の空間も広さがあるだけで、特に不可思議な箇所も見当たらない。

 目新しい場所は探索し尽くし、このダンジョンのマッピングもほぼ終了と見ていいだろう。


「もちろん。ロブスター祭りだ。刺身と天ぷらと鍋に蒸し焼き……腹減ってきた。早く戻るぞ」

『こやつ、ワタシが死んだら喰うつもりだった勢いが否めないが』

『否定できない』


 懸崖の階段を登る最中、それらしい声が届いていたが、上に戻るとロブスター乱獲に造られたばかりの小さな村は湧きに湧いていた。

 最初の蒸し焼きの匂いに負けたのか、サワヌァ村のようなドン引きしている人は見かけず、皆一様に食欲を抑えきれない顔でルガート達の到着を待ちかねていたようだ。

 最後の一匹は魔法無しで戦い、ジョシュアが綺麗に仕留めたグランドクロウは生身だった。

 色の違う魔物を見て目の色を変えた者に、ルガートも笑う。

 海産物を知っている者ならば、当然。


「これ刺身で頼んでいいか?」

「任せろ!! 何人前だこりゃうっひょーーーー!」


 いや、俺もうっひょー! とは思ってたけど。

 人の感想を目の当たりにすると羞恥が湧くな。

 言わなくてよかった、気をつけよ。

 拠点組のどちらかがノースタックス伯爵家へ先駆の報告に行ってくれたのか、馬に乗って現れたカザとビフェルも到着していた。

 気が気じゃなかったようで、強張っていたその顔は二人を見とめて安堵に染まっていた。


「ジョシュア! 無事でよかった!!」


 ルガートのレベルに問題はないと言っても、まだ子供。

 心配もかけた家族の様子にジョシュアはくすぐったそうに笑っている。


「ただいま帰りました。あとで報告したいことが山ほどあるのですが、ルガートが待てないようなので」


 分かってるな。

 刺身は鮮度が命だ、早く食いたい。

 待ちきれずにいる素振りを見抜かれ、賑わいの中心に行ってこいとジョシュアから背を押され、軽く駆けながらお礼を残した。

馬から降りたカザとビフェルも苦笑しながらルガートを見送る。


「気にするな。ダンジョンを初開拓した祭りに相応しい賑わいだ。楽しみなさい」

「はい」

「なあ誰か天ぷら作ってくれねえかー? 温そばにしてくれるとなおいいんだが!」

「ジョシュア、彼いつもああなのかい?」

「食に関してはかなり忠実です」

「はははは!!」


 ほとんど青空宴会で夜通し催され、ノースタックス領で発見されたダンジョンの出発としては、幸先のいいスタートを切るのだった。

食べ放題のコスト実質ゼロ。

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