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92.食欲には素直

 すかさずルガートは特盛りバフを二人分施し、ジョシュアを反対側へ突き飛ばす。

 先ほどまでいた地面に軽いクレーターができあがっていた。

 強化魔法を加えた上で迫った爪を辿れたのはワザと手を抜かれているからか、これが通常攻撃ですらないとすれば、弄ばれているに等しい。

 現階層の空間も広いと言っても上部のみで、場所はほとんどリヴァイアサンの巨躯によって狭苦しく動ける範囲も制限されていた。


「デブリスフロウ!」


 土石流の奔流がリヴァイアサンを押し流し、僅かばかりだがルガート達から引き離すことに成功した。

 見縊ってくれているのなら乗っかるまでと強行を試みる。


『小癪な』

「デブリスフロウ!」

『な』

「デブリスフロウ!!」

『バカのひとつ覚えのっ!?』

「デブリスフロウ、ロックウォール」


 下顎から出現した巨大な岩。

 そして上からも。

 まるでこれが目的だと言わんばかりにリヴァイアサンの動きは停止した。

 仰け反らされている状態で岩に挟まれ、巨躯は隙間なく土石流で埋め尽くされ身動きが取れない様子。

 おそらく動向を探るだけだろう、子供騙しに近いこの程度で捕まるレベルの相手ではない。

 レベルは今だけ忘れることにした。

 ジョシュアを連れ立って足下にロックウォールを発動させ、視線を合わせに向かう。


「殺し合わなくてよくなったな。契約するか?」

『これで勝ったつもりかな?』


 口を挟むように魔法を使ったが、どうやら会話には関係なさそうだった。

 やはり余裕が窺えるリヴァイアサンの態度に、手にする剣をしまわないよう警戒した。


「殺さないと契約できないのか?」

『屈服こそ契約の常識なのだけどね』

「意思ある契約も屈服の内だと思うな」

『この人間は……話が通らないね』

「ルガートですから」


 遠い目をしているジョシュアになぜかリヴァイアサンが同情的な視線を向けた。

 失礼だな、お前達。


「ジョシュアの魔力を心地いいと言ってたな? 魔力を吸い取るのか?」

『本当に知らないのだね。取り憑くにしろ契約にしろ、相性というものがあるんだよ』

「親和属性のことか?」

『そっちじゃない。こちらにだって取り憑く相手を選ぶ権利があるということだよ』


 火属性の者に水属性の召喚獣を当てがったら威力半減なんて感覚と考えればいいか。

 それか、何かしらの波長のようなもの。


『相性は一番分かりやすく手っ取り早い判断だ。まあでも取り憑く側の最低条件のひとつだね』

「へー……。取り憑いたあとは? 生命力を搾り取るのか?」

『それは取り憑いた場合だね。まあ死なない程度に搾るけど。相性が良ければ良いだけそんな面倒をしなくても供給しあえる』

「ふーん?」


 供給しあうというなら、契約者側にも何かしらのメリットがあるのか。

 多くは語らない霊獣は半眼になってこちらを見下ろす。


『何だろうね、この話しても響かないやり取りは』

「糠に釘という奴だな。で? 契約しないか?」


 岩に挟まれても器用に嘆息するリヴァイアサンは相変わらずきょろりと動く目だけでこちらを見下ろし、再度念を押してくる。


『あくまでも契約に拘るのだね?』

「もちろん。ジョシュアが良ければだが」

「今更放り投げないでくれないか。俺はもう少し怒っていいかと思うが?」

「生命力搾り取られないなら契約しとけ。面白いから」

「まったく! 君は! ことがことだぞ!?」


 ジョシュアの魔力の相性云々や、諸々尋ねたいことがたくさんできた。

 初めて聞く言葉もあったし、勉強になりそうだ。

 憤慨してても本気で怒っていないジョシュアも人がいいと言える。


「霊獣の話も聞きたいしな」

『かえって彼でないだけマシと思った方が心情は楽かもしれんね。人間の卵、手を触れなさい』

「……。これで死んだらアンデッドで化けるぞ」

「きちんと浄化してやるよ」


 締まらないやり取りをしながら少し及び腰のジョシュアがリヴァイアサンに触れると、全身から漏れる青白い発光と共にその声が響く。


『契約者名を示せ』

「ジョシュア・ノースタックス」

『霊獣の名はリヴァイアサン。契約者ジョシュアを依代に、ここに契りを交わす。契約の義を以って、ここに対等を交わそう』


 青白い光が目の眩む勢いで一瞬強く辺りを覆うが、やがて収束した。

 驚くことに、目の前にいたあれだけの巨躯が居なくなっていた。


「消えた!?」

『ここぞ』

「うお」

「はあ!?」


 ルガート達のいるロックウォールの足下から響いた声に見ると、ちょんと可愛らしい、長さ四〇センチほどの大きさになった細い蛇が見上げていた。


『あの姿は不便極まりないからね。これなら可愛らしかろ?』

「ジョシュア、蛇は平気か?」

「まあ日常的に見ているから……」


 手を伸ばすジョシュアの腕に絡みつき、目横の青いラインと美しい白い肢体の蛇が首を上げてまるで踏ん反り返っている状態に見えて笑えた。


『この姿の時はぜひリビィと呼ぶがいいよ! ワタシも契約主をジョシュと呼ぶよ!』

「……なかなか、一気に可愛らしくなったな」

『もっと褒めていいよ!』


 絡みついた状態で上機嫌に体を揺らすリヴァイアサン、いやリビィ。

 一応は、契約が成功したとみていいのだろうか。

 ロックウォールを解いて地面に降り立ち、ジョシュアは腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。

 腕を上げ、視線を合わせると先ほどまでの脅威はどこへやら。


「はは。リビィ、今日からよろしく」

『うむ! しかしこのダンジョンが空になるのは惜しい。代わりの魔物を当てがっておこうか』


 霊獣ってのは何でもありなんだな。

 それだけ力ある相手だったのだと背中がひやりとしたが、言わないでおく。

 お互いの利害が一致していなければ、きっと一瞬のうちに死んでいた。


「……できるのか?」

『ワタシほどの霊獣であれば行使できる権限の一つだね。まあボスとダンジョンのレベルは落ちるけど、ワタシはもう戻る気ないし』

「サラッと今とんでもないことを言ったぞ!?」

「まあ支障がなければいいんでないか?」


 と言っても、少し判断を早まっただろうか?

 ものすごい顔で凝視してきたジョシュアから視線を逸らす。


『階層主は何にしようか……』


 ふと、悪癖が顔を覗かせた。

 静かに挙手をするルガート。


「……提案していいか?」

『君の提案は面倒そうだが参考に聞いてみようか』

「イカが食いてぇ」


 何度目か、ここ一番の沈黙が降りる。

 しかしルガートは躊躇わず、徐々に体をジョシュアに寄せるリビィは胡乱な目で見上げた。

 目で何かを訴えられていなくもないが、あえてスルーしておく。


『……』

「……」

「……」

『……君、魔物は食べる派の人間かい?』


 絞り出したリビィはついに体をすべてジョシュアの腕に巻きつけていた。

 ルガートも座り込み、力強く頷く。


「食えそうな個体は見つけたら一通り手をつけてある」


 いつでも出していいぞ、と手のひらを握って開いてと繰り返す。

 こちらの準備は万全だ。

 まずは蒸し焼きがいいか。

 ハッと気付いたリビィは急いで巻きついていた体を素早く離し、ドン引きの目で契約主のジョシュアを見上げる。


『ジョシュ? 君も食べるのかい?』

「今のところは手をつけてない。全ての人間が食べる訳じゃないよ」


 苦笑するジョシュアの言葉に落ち着いたらしい。

 ほーーーーっと息をついた蛇の喜怒哀楽は変わらず健在らしく、表情がなくともその動きが大変分かりやすい感情表現だった。


「イカがダメならカニとかエビでもいいぞ? 特大にでっかいの頼む」

『ヨダレ! 目が怖い!! ジョシュ!? この人間は君のなんなんだい!?』

「友達だ。なので、慣れてくれ」

『契約早まったかなー?!』


 そして階層主はルガートの強い希望によって特大にでっかいロブスターに決定した。

 もちろん魔物の種族がそう見えるだけで、名前もロブスターではなく、無駄にカッコいいグランドクロウと呼ぶ。

 リビィがせっかく出現させたにも拘らず、ものの三〇秒で蒸し焼きにされてしまい、階層の空間内は大変香ばしく食欲をそそる美味しい匂いが立ち込めていた。

丸ごとの海産物はテンション上がる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 乙女ゲームの設定やリヴァイアサン・ダンジョンの前までは良かった。 ここにきていきなりRPG感が強くなり、凄く違和感ありまくりです。 レベルとスキルはあっていいですが、乙女ゲームの設定無しで改…
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