89.特技
また探索する日が延びてしまい、ルガートは一時実家に帰ることとなった。
話を聞いた親父は爆笑した上、面白いからなんて理由でラインハルトに手紙を出すと言い出したが、暴挙に等しいので何とか止めておいた。
「坊っちゃん、その違和感というのは具体的にどのような感覚でしたか?」
「ん? んー。……本当にただの直感だから言葉にするのは難しい」
「ふふ、でしょうな。特技の発現です。おめでとうございます」
「お?」
「は?」
親父と目を点にさせて他人のステータスを読み取れる元英雄を見つめる。
ガレッソは穏やかに笑っていた。
その男の言葉を噛み砕き、ルガートは無言ながら思わず立ち上がる。
スキル?
「野性の勘、初期に拘らず既にレベルは高いですね。流石は坊っちゃんです」
「それがあるから助かった?」
「おそらくは」
椅子に座り直し、ルガートは喉を鳴らすように笑った。
「……勘に頼りきりは良くないな。ここぞという時にしか信じないようにする」
「それも経験を積めば済む話です。英断でしたな」
「ルガート、ポーションの材料なら家にある分を丸ごと持って行きなさい」
「いや、あっちで用意してもらうから大丈夫だ。お袋が怒んだろ」
「しかしなあ」
「それより親父、海やその周辺に現れる魔物の情報教えてくれ。そっちのが有益だ」
「ううむ、ガレッソ、お前も教えてやってくれ」
「かしこまりました、旦那様」
緊急の勉強会が開かれ、それに加えてガレッソから光魔法の習得法もスパルタでしごかれた。
ダンジョンに向けて態勢を整える必要があるとノースタックス伯爵からひと月待ってくれとのお達しで、魔法の習得期間と思えば有難い申し出だった。
ルガートは約束のひと月後に再びベルマを訪れると、なぜか町の人らの視線の様子が妙だった。
(……嫌疑や嘲笑とも違うな、……何だ?)
答えを出せずに町中を通り過ぎ、ノースタックス伯爵家へと到達すると、にこやかな笑顔のジョシュアに出迎えられる。
「ジョシュア、町の人の様子が少し変だったぞ? 何かあったのか?」
「ふふ、君のその鈍感さはたまに同情したくなる」
「喧嘩売ってっか?」
以降、笑うだけで一向に答えてくれないジョシュアに嘆息し諦めて肩を竦める。
荷物は既にすべて間欠泉の元へ運んでいるから万全だろうとカザに見送られた二人は早速馬を走らせた。
ウィンディアの調子もいい為、体に負担もない。
このままダンジョンへ直接向かっても余裕があるが、どうも周囲の人の様子が気がかりだった。
「ジョシュア、町の様子が変に浮き足立ってたんだぞ? 何かあったんだろ?」
「ふ、くっ……。まだ気付かないか?」
「俺個人が何かした覚えはねぇぞ」
「ぶふっ! 面白いからこのまま黙っていてもいいか?」
「実害ないのか?」
「一切ないよ。何で害のあることばかりだと思うかな、君は」
「……見当つかんから聞いてるんだろ」
「やれやれ。そういうところは可愛いな、君」
ちょうど見えてきたその建物を見上げ、待った日数でこれかと唖然と眺める。
間欠泉の方も見事な牧畜や人除けの柵が出来上がり、まあそちらはいいのだ、問題は建物だ。
「軽く村になってないか?」
「遠いからな! あれこれ意見を出し合ったらこうなった」
そう、一軒だけではなかった。
宿屋に始まり武器や防具、道具屋がまとめて入っており、魚屋がメインの食材屋があって目を点にさせたルガート。
まさかの牛やヤギの姿にここでも牧畜やんのかよとツッコミを入れたくなった。
「動物にあの間欠泉の音はストレスになるんじゃねえのか?」
「慣れたら大丈夫さ」
「軽ーい」
宿屋は馬も預けれるほど大きく、またじわじわツッコミに腹の底がむず痒くなるが、出迎えた店主が奥へ消えると、伴って現れたその人の後ろに控えた。
「ルガート君! どうだい!?」
「立派な複合施設にしましたね」
「だろう! 一軒一軒建てるのでは時間もないし効率が悪すぎたからな、まとめてみた。必要なものは前回、君の揃えたものを真似てこちらで取り揃えた。既に洞窟前へと運んでいる! リストはこれだ。何か不備があれば申してくれ!」
い、至れり尽くせりー。
呆気に取られながらもリストを確認し、特に目立った不足もないので頷いて懐にしまう。
「問題ない。同行する拠点組のメンバーももう下にいますか?」
「ああ。駄々をこねていたがな」
「そりゃいきなりダンジョンかもしれないところに篭れと言われりゃゴネりもしますよ」
苦笑して崖下へと向かった。
「ビフェルさん。前に話した通り、閉じ込められた場合は遅くても十日で戻らなければギルドに要請をお願いします」
「分かった。ジョシュアも十分に気をつけて」
「はい。行って参ります」
「君達も無理はしないように。この中では彼が一番の熟練者だ、指示に従いなさい」
「「はっ」」
「何が起こるか分からないから、ビフェルさんは階段の方まで戻ってください」
「分かった。武運を祈る!」
足早にその場を離れて行ったビフェルを見送り、前回足を止めた場所まで来る。
「う?」
「な、何だ、この風」
やはり前回と同様、嫌な風が背中を押すように吹き荒んできた。
警戒を十二分に引き上げて指を上げた瞬間、全員に結界にマジックシールドと耐水魔法を施す。
「溺れるか?」
「なくはない。そうなったら荷物は二の次でいいから自分の身を最優先で頼む」
「「は、はい」」
拠点組の顔色の悪さに“竜の籠”で火竜と出くわしたギルドメンバー達の顔がよぎる。
「戦う構えだけはしててくれ。最悪、走る準備だけで構わない」
「ルガート」
「ん?」
「彼らも強い。あまり過保護は止めてくれ」
「よし、分かった。じゃあ俺の声を聞き漏らさないでくれ」
「はい」
「いや指示くれるの助かるー」
洞窟に足を踏み入れようとした一行を襲った地鳴り。
やはり罠かと剣を構え、即座にライトで辺りを照らす。
今しがた足を踏み入れた洞窟の内部は変わらない。
ルガート達の背後、地鳴りの原因となった岩を見上げ、顔の中心に皺を寄せた。
「どういう原理だ?」
「内部で何かしらのアクションを起こさないと開かないだろうな。ちょっと破壊する気でいくから離れていてくれ」
三人を移動させて全力の魔法を放ってみたが、予想通りに傷一つついていない岩にまた鼻白むほど皺が寄る。
あまりにも綺麗なものだから少し悔しくなった。
……いやかなり悔しいな。
「無理そうだな。アクションとは?」
ジョシュアの声に頭を切り替え、岩から離れた。
「単純に最深部まで行ってボスがいたら倒す、この岩を開けるスイッチ的なのを見つける、階層制覇、考えつくものはすべてやった方がいいな」
「なるほど、なおさらユースポットの発見が最優先になるな」
「そうなる。まずは安全確保だからサクッと行くぞ」
「了解だ」
荷物を持って進むには明るさが心許ない。
ランタンの用意はあると言われたが、できれば手を塞がないようにしたいし、可能な限り広範囲の明るさを保ちたい。
一度足を止め、考え込んでしまったルガートを見つめる三人は顔を見合わせていた。
「よし」
手を伸ばし、魔力を練り上げる。
『光明範囲固定、常時点灯、第三者による複製不可、使用後霧散開放。ダンジョン使用者の希望時出現、都度設定変更可能』
途端、先を見通せるほどの明るさに言葉を失う三人。
しかし洞窟内だけあって、明暗がくっきり分かれすぎてかえって危ない気がした。
「少し明るすぎるか」
『先行広範囲点灯、常時点灯、第三者による複製不可、使用後霧散開放。ダンジョン使用者の希望時出現、都度設定変更可能』
今度は明るさに煩わしさが無くなった。
一定間隔で明るさを確保できたので満足したルガートに拍手を送る拠点組。
歩くたびに明るさも移動してくれるとか何コレと呟いた拠点組の言葉を聞き流しながらジョシュアも苦笑した。
(相変わらずの腕前だ。まさかフラッシュをこんな風に使うなんて思いもよらなかった)
まず、明かりは勝手に移動しない。
その先入観を見事にぶち壊したルガートの魔法。
これは魔法と呼べるのかと笑いたくなるが、彼のオリジナル技に説明を求めても分からないのだろう。
たまに危険を察知してジョシュア達の足を止めているが、変わらず進むルガートが何かをしている気がするのに掴めなかった。
発現条件は様々。
メヌエスの場合、幼少期に道具屋の使い走りをしていたらいつの間にか発現していました。




