78.縁起物が
「とにかく、貴族を狙い、経過成長する呪術を施されたこのアイテムは年数をかければかけるだけ威力が増してくる代物」
一部の物に関しては物持ちのいい貴族のサガが仇となってるのか。
宝石自体は本物なので、見分ける者がいなければ呪いの効果が上がる一方。
想像以上に大変な代物だった。
「死にはしないのか?」
「……物によると思うけど、これは周囲に被害を与えるのよ。少しずつ誤認から威力が増していき、所持者に災いは降りかからないようになっているわね」
『最初は、目に付かないほどの些細なことだそうです』
「……メイドの話にも一致するな。セストラ伯爵領で原因不明の土壌汚染を聞いたか?」
あちらの話にも一致する部分がある。
この呪術のかかったアイテムを持っているかは不明だが、原因が不明なら、無くはない。
メースは目を見開き、ギルド長のリッツァは険しい顔つきに変わってルガートを見つめた。
「セストラ伯爵領!」
「泥ね?」
「ああ。ただの泥ならまだ可愛かったが、毒のようなものを含むらしい」
「人的被害であれば最悪のクラスね」
ハシェットからの話では既に王都の魔士に浄化申請を要請しているらしく、広範囲の浄化をお願いしているのだとか。
領民は知らぬ間に毒に侵され、作物を潰され、風評被害にも遭う。
しかも原因は領主かその近しいものが原因の上、呪いの効果を知らない当人はただただ天災と勘違いを続け、対策は既にいたちごっことなっていよう。
経過年数を経れば経るだけ、強大で凶悪な呪いとなるとも知らずに。
「いい案はないかしら? ギルドにも応援申請が来ているのだけれど、これは行くだけ無駄よね?」
こんな時に不仲を見せつけられても。
「まあ原因を取り除いてないんだからな。次は泥より酷いのが来るかもな」
「例えば?」
「泥とくれば次は疫病だろ」
「ひえー」
メースの顔色がすぐさま変わり、その色はかなり青かった。
セストラ伯爵領の貴族を絞り込まなければ話にもならない。
「原因はこのクラバットピンだけとは限らない。他のアクセサリーにだって言えるからそこから叩くしかないだろう」
「素直に見せてくれるかしら」
「まず無理だろうな」
特徴だけは伝え、何とかいい案がないかと頭を捻る。
呪いを簡単に見つけるなんて聞いたことも、見たこともない。
映画などでは突き止めるのも苦労した描写も多かったのだから、このアイテムの製作者は貴族に少なからず怨みでもあるくらいしか情報はなかった。
「いっそ、ここ十年単位で集めたアクセサリーにも呪いの手が及んでいるから浄化させてくれと言ったらどうだ?」
「実例もないと屋敷にすら上がれないのではないかしらそれ」
懐にしまったクラバットピンを取り出し、口端を上げながら見せつけるように振る。
「なきゃ作りゃいい」
「あら悪い顔」
別にこの証拠も浄化したあとだからと言えば確認のしようがないんだし、ここで共通点を更に見つけられたら儲けだ。
縁起の良いものはと家族から教えてもらったモチーフは何だったか頭を捻って思い出す。
「トンボ、テントウムシ、鳥、蝶。先にこの四つで対象を絞り込めば、まず不審がられないだろ。あとは止めにこう言えばいい。『いずれかを購入してから不審な出来事が身の回りで起きませんでしたか?』ってな」
「脅し文句には弱いけど、それなら泥の浄化の片手間にできそうかも」
「とりあえずこのアイテムの製作者も見つかってないんだから口止めも徹底させて、騙されたとなれば保身に走る。二重で予防線を張っておけば噂だけは歩くだろ」
お茶を飲んで喉を潤し、あとはことが大きくならないのを祈るばかりだ。
製作者が消えれば、きっとモチーフを変えたり別の手段に変更してしまう。
それは避けなければ。
「鑑定料はいくらだ?」
「思わぬ情報提供も貰ったし、今回はサービスでいいわ」
「次はもう情報提供しないぞ?」
「あら、貴方はうっかり口を滑らしそうだから、これからも期待してるわ」
藪蛇だった。
頭を掻きながら立ち上がり、用事も済んだのであとは帰るかとギルドの受付に再度騒がせたお詫びをしてからギルド本部を出ようとした。
フードを被り直すのも忘れない。
「よお旦那。見てくれは立派な冒険者だな」
「何か久々な気がするな」
肩に肘を置いてきたのはベリンジャーだった。
ここ数日の濃さに錯覚している。
「三日と経ってねえよ。どこか行くのか?」
「家帰る。ついでだ、うまい酒やるから、経過報告聞かせてくれ」
「やっほい、儲け」
ついでに護衛もしてくれたら嬉しい限りだ。
それは口に出さないで連れ立って歩き出すベリンジャーはフードを目深かに被るルガートに怪訝な目を向ける。
「何だ、何かあったのか?」
「少し念の為にな」
「ふーん?」
追求しない男に感謝しつつ、作戦は順調に進んだと弾む声に口元で笑む。
既に時刻は夕方前に差し掛かっていて、道なりに進む周囲からいい匂いが漂っていた。
「あとは大元を潰すのみだ」
「丸投げして悪いな」
「いいやあ? 良い思いもしたからまったく悪いとは思わねえわ」
デレッと鼻の下が垂れる男の様子に、鼻の下が伸びるという言葉は比喩じゃなかったんだなと冷めた視線を投げた。
まあ、提案したのはこちらなんだし、今更、羨ましいとも思わない。
……いや、少しは、……いやちょっと……いやいや。
「親分は何か言ってたか?」
「解決するまでは素知らぬフリをしてろってよ。だから細かいとこまでは教えらんねぇな」
「構わない。元よりそのつもりだったしな」
躍起になって両手に剣を構えるブルースター公爵の高笑いが見えなくもない。
あの人ならやりかねないが、実働部隊はおそらく別だろう。
流石に全面的に動くとは思えない。
「できたお子様だよまったく」
「ことが終わったらまた村へ戻るか?」
「そうだな。もっかい肉も食いてぇし、場所もそこそこ快適だったから噂を広めるにはうってつけだ」
「……肉の備蓄はまだ少ないのが心許ないな」
「あ、そういう? んー、じゃあ“竜の籠”の帰りの保養地ってテイで広めとくか」
これから村が大わらわになるのに、受け入れ態勢が整うのは厳しいのではないか。
それなりに忙しくなるのであれば、ザバルト領でゆっくりするのを勧めたい。
“竜の籠”はこの先、冒険者にとっていいレベル上げの土地になるだろうから。
「別に今すぐでなくてもいいんだがな。これから慌ただしくなるし、もう少し落ち着いてからにした方がいい。まず金銭感覚が狂うだろうしな」
「ええ、そこまで見越す?」
「行くなら王都の施設とか、獣除けとか、参考になりそうなの何か教えてやってくれ」
「オッケーオッケー。そういうことなら親分に交渉してみるわ。まあ、あっちが舵取りしそうだから問題なさそうだけどな」
「それもそうだな」
自身の領地なのだ、こちらが口出しする言われもないだろう。
「じゃ、良さそうな人選を派遣できるよう準備してくれると助かる。これから伸びる土地は何かと入り用だからな」
一応、あっちにもギルドの支部があるのだが、喧嘩にならないのか心配したが問題ないらしい。
この辺はアバウトなのだろう。
「傭兵を募集するなら俺が立候補したいとこだな。美味い飯にあやかれる」
「……仕事はしろよ?」
「A級舐めんなっての」
口端だけ上げて笑い合いながらあっという間に家へと到着した。
正面玄関からは向かわず、従業員通用口側の門を潜る前に、ぴたりと足を止めた。
「周囲に怪しい奴はいないか?」
「……大丈夫だな」
「なあ、王都内で探知魔法や探査魔法はどの程度使っていいんだ?」
「止めとけ。冒険者登録もしてないなら不用意に使うと宮廷魔道士に目ぇつけられるぞ」
「そこまでか」
常に見張られているのかと驚きながらも納得する。
宮廷魔道士が着任してからは、王都で魔法に関する事件は聞いたことがないとジミトリアスからも聞いていた。
生活魔法やコフトで扱った魔法に関しては問題無いらしいが、下手に多用し過ぎればすぐに王城の衛兵に取り囲まれること請け合い。
そうなる前に、申請しなければならないという。
既に結構使っているが、身の安全の為だがこの先使うのは王都を出てからが一番だろうと頷くだけにした。
使用人の通用口の前で待ってもらい、料理長から酒を見繕ってまた外へ向かう。
一等の笑顔を讃えて去っていくベリンジャーを呆れながら見送るとルガートは静かに剣を抜き、ドアの影にいる気配に切っ先を向けた。
驚いたのは一瞬。
まさかの子供で、瞠目しながら寸前で剣を止めた。
貴族で一般的に流行ってる縁起物。
庶民では四葉のクローバー、カエル、弓と矢、太陽です。




