表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/261

74.放蕩者

最後辺りでメイド長視点、次回にも続きます。

 朝からそこそこに忙しく準備を整えていたルガート。

 丁寧に包まれた織物を持って階下へ向かう階段に差しかかる頃、玄関のノッカーの音と共にメイド長が素早くドアへと向かう姿を眺めながら一階へと到着した。

 時間にしてまだ早朝、執事長に時間を尋ねるとまだ七時前だった。

 そんな朝からの訪問客、まして、正面玄関からの者など更に限られる。

 開かれたドアの先、御者がよく着ている服装の人影を見るなり目玉が飛び出るほどには驚いた。


「先駆けの訪問、ご容赦願いたい。子息はご在宅か?」

「はい。どちら……」


 尋ねると色々まずい。


「ミヌス! 俺の客だ。応接室に案内するから、すぐに軽食と一等いいお茶を頼む」

「かしこまりました、坊っちゃま」


 年の功ゆえの空気察知能力が今はありがたかった。

 一番御者に近い格好をしているのに、尊大な態度のその人に頭を下げて応接室へと案内。

 その後ろには以前見た顔の側近、確かロシュメルと兄貴が言っていた。

 側近も部屋の中へと入り、まだ口を開かないでもらいたいと口元に指先を当ててすぐに運ばれてきた軽食とお茶をもらい、部屋には近づかないよう言付け下がらせる。

 遮音性が効くかまだ確かめていなかったが、室内に結界を張って第一声。


「おいこら何単身赴いてんだ!!」

「不敬だぞ!」

「ロシュメル、これに関しては気にしていない。むしろ私からそう頼んだ」

「殿下自ら!? ……失礼した」


 落差激しい側近のテンションの様子にドン引きしながら、まさかまた倒れる一歩手前かとじっと見つめる。

 顔色は悪いが前ほどではないものの、倒れすぎてこの顔色がデフォルトなのかと少し同情してしまう。


「な、何だ」

「……いえ。さて殿下、なぜ突撃訪問したんだ? こちらから伺うって手紙送ったろ」

「愚妹が何やら動きが激しくてな。少々悩んだがこちらから赴いた方が心証も楽かと判断した」

「お心遣い多大に感謝いたしております。ほんと、ありがとうございます」


 ブルリと震えた体を無視してテーブルに付く勢いのまま頭を下げて感謝した。

 動きが激しいとは何のことか分からないルガートはとにかく遭遇する機会を回避できて安堵ばかり。

 王太子殿下自らが赴く珍事の理由に納得して、イルガゲートは依頼の成果を尋ねた。


「先触れで記した通り、いいものが手に入ったからまず見てくれ」


 食事やお茶を別の場所へ移し、テーブルに織物を乗せて開けてもらうようお願いする。

 丁寧な包装を解き、くるりと広げられた織物に二人の目が軽く見開かれた。


「なんと見事な」

「これは、民芸品のように見えますが」

「ブルースター公爵領の村で手ずから作られている逸品だ。繊維の間にホットストーンの粒子を練り込んであるから、おそらく効能は同じだと思う。効果が今ひとつなら別のを作る予定だから、試してみてほしい」

「ここまで見事なものとは」

「この織物を見つけたのはほとんど偶然だ。やり方は任せるが、体の下に敷く方が効果が高いと思う」

「ご苦労だった。これと同額で買い取ろう」


 両方とも満足のいく品だったので元通りに織物を包み直し、テーブルの脇に寄せておく。

 まだ話も終わらないし、見える場所に置いている方が忘れないだろう。


「残念、粒子タイプは今回初めて施したから効果があるか経過報告も聞かなきゃいけないもんでな。いわば試作品。つまりタダ」

「しかしそれでは……何かあるな?」

「流石殿下、鼻がいい。金の代わりにこれを見てくれ」


 懐から取り出した分厚い書状を勿体つけるようにテーブルに置いた。

 ロシュメルがイルガゲートの側を少し離れる様子に内心感謝しつつ舌を巻く。

 こういうのは、言われる前に動くやつで自身もいつかは誰かの為にこうならねばならないのだろうかとほのかに思う。

 面倒事は年上の者達に丸投げし、子供の立場にあぐらをかいているにすぎない。

 見習うべき者達が多いのは、有難いことではあるが。

 ぼんやりしていたルガートの様子を気にせず手紙を読み終えたイルガゲートは顔を覆い隠し、深すぎる溜め息を吐き出した。


「また、とんでもないものを……」

「ちなみに俺は関与していませんので」

「ここに名前が入っているが?」

「殿下、俺は泳がせておいた方がいいと思うぞ?」

「……。ふっ、口の減らない子供だ。ロシュメル、すぐに王城へ戻る。仔細は戻り次第話す」


 書状を返却されて燃やしておけと言われ、結界内に閉じ込め炎を点し、すぐに灰となった書状に思い切りがよすぎだと呆れられた。

 燃やせと言われたら燃やすだろ。


「私はここへは来なかった。いいな?」

「じゃ、サンドイッチ持ってかね?」

「お前が食べなさい。まったく、早く学園を卒業しろ」

「無茶言いおる」


 まだ入学すらしていないというのに。


「それの経過報告は兄貴にでも手紙渡しておいてくれ。送る手紙も普通の紙で頼む。仰々しいと各所方面で面倒だからな」

「ではその時は封蝋もお前の家のものを使わせてもらうが、話を通しておいてくれ」

「了解。あと……」

「?」

「……不本意ながら、写本、ありがとうございました」

「くっ。素直なお前は気味が悪いな」


 玄関へと到着し、横付けされた馬車のドアを開いて待つ騎士の人は、見慣れない男だった。

 クリスじゃないんだな。


「ではな」

「おう」


 短いやり取りですぐに馬車へ乗り込むロシュメルと騎士。

 は? と目を見開き御者席へ乗り込んだ殿下の姿に頭を抱えた。


「結界だけでも」

「いらん。気付かれるだろうが」

「この放蕩者……」


 ニヤリと笑うイルガゲートは得意げになっているが、これは馬車内の側近達も気が気でないと思う。

 走り出した馬車を見送り、朝から疲れたルガートは残された食事とお茶を談話室へと運んでのんびり腹を満たすのだった。

 メイド長がお代わりのお茶の用意をしながら、お疲れ様でございますと労ってくれる。


「それからコフト宝石店よりお手紙が届いております」

「早すぎるだろ」

「すぐに返信をと引き留めたようです」

「今あるか?」

「お食事が終わってからですよ」

「はい」


 年上には敵わないので素直に頷くのだった。

 三人分の軽食を食べ切り、お茶をゆっくり飲んで腹を休めてようやく手紙を持ってきてくれたミヌスにお礼を言い、中を改める。

 本題まで三割感謝の言葉に苦笑しながらようやく本題を読み進めると、魔力操作の方は順調のようだ。

 魔力浸透補助を守り石に施したが、どうやら威力が目覚しいらしく、日々うなぎ上りの魔力酔いと戦っているという。

 笑いながら二枚目の手紙にはいつまで続くか不明な魔力酔いが落ち着いてきたら魔力枯渇を試すらしく、その後は目的である守り石の作成に取り掛かると綴られていた。

 早すぎでは?

 心配になるがコフトも父と同じかそれより年上だ、下手は打たないと思うが、念の為に気を付けるよう細心の注意をお願いしてもらうよう返信せねばなるまい。

 王都を出る前にまた一度顔を見せた方がよさそうだ。

 ギルドへ清書した地図も持っていかなければならないし、今日は別邸に缶詰だとミヌスに用意をお願いしていた手頃な紙をテーブルに広げた。


「ルガート様、エトラン公爵令息からお手紙が届いております」

「何でここにいるって分かったんだ、あいつ」

「夜会などでお話になられたのでは?」

「そんな気もしなくもない。ギルドとコフト宝石店の方にも手紙を頼めるか?」

「かしこまりました」


 手紙を受け取り、今日はよくよく筆まめな日だと手が疲れてきていた。

 手紙を改めると午後にお邪魔していいかの問い合わせに首を傾げる。


「ハシェットがお邪魔したいそうだ。お茶の用意とか大丈夫か?」

「万全でございます」

「使いには何度も走り出させて悪いと言っておいてくれ。後で美味いもの出してくれるか?」

「お伝えしておきます」



 すぐに返信の手紙を書き出して封蝋を押し、にこりと微笑むメイド長のミヌスは走らされている風駆(かざか)けの喜びそうなケーキがいいかと計三通の手紙を受け取り、従業員通用口へと向かう。

 ここ王都では口が硬いことで定評のある風駆けと個人契約している者が多い。

 有能な者であればお小遣い稼ぎとする傍ら貴族からの信用を得て情報屋として迎え入れられる者もいる。

 ボスティス家が贔屓している風駆けは、口は硬いがどこか軽薄な印象の少年だった。


「先にエトラン公爵令息へ。それからコフト宝石店へ頼みましたよ。ギルドは最後で構いません。帰ってきたら甘い焼き菓子と追加金、どちらがよろしいですか?」

「焼き菓子食べたい。日持ちするものがいいな」

「ではバゲッドも付けておきましょうか」

「やほー、さすがー!」

「頼みましたよ」

「任せて、いってきまーす」

登校前の突撃訪問。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ