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73.ほぼ傍観者

「ルガート様、いい加減に諦めてくださりませんこと!」

「却下!」

「それから、幻惑魔法について詳しくお聞かせくださいな!」

「なおさら却下! 令嬢が闇魔法覚えてたら心証悪いぞ!」

「まあ偏見! 闇属性も立派な魔法です! 要は扱い方の問題でしょう!?」

「言ってることは間違ってないがお前がそこまで覚える必要ないだろ!」


 村から離れた時とは真逆の帰り道。

 ほとんど村についている状態のやり取りだったが、賑やかなルガート達の声を聞きつけ、ブルースター公爵が間に入ってくるまで押し問答が続いていた。

 頭にチョップを入れられそうになって躱したルガートに避けるな! と青筋を立てて無茶を言う公爵。

 フレインはメイドの手により早々に離される。

 噂話とかけ離れている公爵の様子に、ナジェは何も見ていないと片手で顔を覆い隠す。


「ルガートが初めて子供に見えた」

「そうですね」

「可愛いものだな。あれでまだ十一歳か」


 ナジェの最後の言葉は、目の前の光景よりも二人に驚愕を与えた。

 ザバルト領の宿より年若いとは分かっていたが、まさかの年齢に一瞬呼吸が止まる。


「「十一歳!?」」

「貴族や平民で魔力がある者であれば、学園へは一二歳で入学する。来年と言っていたからそうだろう」

「ありえねーありえねー。マジで?」

「……」


 そんな三人の会話も届かず、もはや殴りに来ている公爵の拳を逃れるルガートの姿を見ながら、ぽかんと現状を把握するまで呆然とする二人。

 ちなみにフレインが止めに入るまで攻防は続いていた。




「規格外すぎねえ?」

「よく言われる」

「慣れてんなよ」

「特に何が変わる訳でもないだろ?」


 その夜、宿の食堂でテーブルを囲むルガート達に加え、公爵と彼が連れてきた護衛、そして村長と工房へ来ていた男らが顔を合わせていた。

 ちなみにフレインは公爵の命により、一足早くカルドの指揮の元、部下達に任せカトーラへ強制帰宅させられた。

 最後まで闇魔法について聞きたがる粘り強さを見せたが、メイドに馬車の中へと押し込まれ、名残惜しいと馬車の小窓も開けて次に会う時はぜひ闇魔法を見せてくれと無理やり約束を取りつけ、見送った。

 宿に集まった男達のみの緊急集会。

 話が話なので女性は退出してもらい、密集度の多さに話の内容も彼女らが不快に思うだろうという配慮から。

 さて、どこから手をつけたものか。

 ブルースター公爵の声を皮切りに、この先の方針を固めるつもりだ。


「金はおそらく娼館に置いているだろう。隠れ蓑に選ぶには打ってつけだ」

「散財されてないでしょうか?」

「娼館ごと“買って”いるなら管理は容易かろう。問題はどこまで手を伸ばしているかだな」


 ナジェが軽く手を挙げて難しい表情になる。


「下手をすると王都の騎士団も利用しているかも知れません」

「ああ、ルブレの娼館はこっちでも有名だ」


 ベリンジャーは数回利用したと漏らす。

 値も高い、しかし上玉揃い。

 行く価値はあるものの、彼らの基準では相当値が張るのだと伺えた。

 そんな冒険者側も頻度こそ多くはないものの、懇意にしている者も少なからずいる。

 では騎士団はどうか。

 カルドを見ると給金に関してはやんわり伏せ、行けなくはないとだけ。

 しかし利用する者は確実にいると断言した。

 口の軽い者を手籠にして王城の情報も筒抜け?

 怖いな。

 ルブレを加えたそいつらは、どこを目指しているのだろう。


「先に殿下に話を通せば難しくないか?」

「なぜ殿下を出す」

「個人的な依頼を受けて近く王都に戻る予定なんで、聞いてきましょうか?」


 依頼内容は黙秘しますと言っても、村の出入り口前にある岩を見れば、まあ分かるだろう。

 あれは隠せない。

 嫌でも察する。

 無言ながらカルドは微振動で耐えていた。


「……そういえばマクベスがそんなことをぼやいていたな」

「書状に認めておけば説明いらずで助かります」

「ふむ。第一王子派に与する側としては殿下のお噂をひとつ担ぎ上げて余所を牽制には打ってつけか」


 いきなり王族のお身内事情打っ込むの止めろおっさん。

 だが派閥争いならばこちらと考えておなければ。


「俺、無関与を装っていいですか? 一応親父は中立扱いなんで」

「分かっておる。ギルドのA級冒険者らにも巻き込ませてもらうぞ。報奨金は別途支払おう。これは直接の依頼となるが異論はあるか?」


 むしろ公爵に意を唱える度胸があるのなら、それは威勢がいいではなくただの無謀。

 全員が口の端を引きつらせながら承りますと返事を返す声に覇気はなかった。

 これでルガートは織物に加工を施すのを徹夜でしなければならなくなり、ブルースター公爵達は話をギリギリまで煮詰めて作戦を書状にまとめていた。

 分厚い書状はルガートに託され、面倒事はすべて大人達に丸投げした反動か、イルガゲート殿下との謁見では絶対他の者に情報を漏らすなと、公爵からくどくど口を酸っぱくしつこく再三言われてサワヌァ村を出立。

 トーラス達も一緒なのは当然で、またモール領の乗合馬車を利用する為だ。


「なあルガート、お前、本当なんなの?」

「何が?」

「そろそろ本気でお前の年齢詐称疑惑を疑ってきた」

「残念、来年一二歳だ」


 乗合馬車の速度に合わせ、王都へは一日かけて到着。

 門の前で馬車を降り、パーティーと街の中を歩きながら今後について話し合うが、あまりに大っぴらに話すことができない内容ばかりで頭を掻いた。


「ギルド長へ報告は早くて明後日以降だ。悪いな」

「いえ、地図の完成、楽しみにしてます」

「我々の仕事は直接依頼がなければ遠出は控えておく。だがこちらも生活がある。一週間ほどの期間で十分か?」

「むしろ気長か」


 今回、イルガゲートからの依頼が最優先であった為、彼らに生活があっても待たせなければならない。

 もし最速で殿下にコンタクトが取れない場合、彼らの生活面の補填はギルド長に交渉してみよう。

 そして地図も清書しなければ。

 何気にやることが山積みな気がしなくもない。

 報告と地図の件は後日ギルドに向かう旨を改めて伝えてもらうよう託し、A級冒険者達と別れる。

 道なりの家々が城側に近づくにつれて立派な造りになっていく。

 貴族通りと揶揄していたベリンジャーの言葉にルガートは沈黙だけ返すと、怒っていないと言っても面白いほどご機嫌取りをされた。


 別邸の門を潜り領地の屋敷に比べるとうんと小さな厩舎に馬を預け、荷物は丁寧に持ち込んでドアを開けようと手を伸ばすと、先にドアが開かれる。

 暖かく出迎えてくれた執事長に殿下へ面会予定を伺う手紙をすぐに送り、眼帯も失くしたと新しいものを手配してもらう。

 包帯で現れたルガートに動転していたメイド達を落ち着かせるのに時間がかった光景に、やや先の未来を見た気がする。

 これが年端もいかない令嬢達なら卒倒案件か。

 肩を落とし、学園へはやはり眼帯で入学の線が濃厚となった瞬間だった。


「服とかあるか?」

「奥様のご指示でまた数着お店から届いたものがございます。明日はそちらをご試着されてはいかがでしょうか」

「助かる。明日、朝一から地図を清書し直したいから適した紙を用意してほしい。それからあとでコフト宝石店の主人に無理はしていないか手紙書くから、明日いつでもいいから送ってくれ」

「かしこまりました」


 こんなところか、そこそこに疲れが滲む体で風呂へ向かい、この日はすぐに就寝した。

厩番→料理長→メイド(複数名)→執事長のリレーで伝わりました。

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