70.合間の作業
翌朝。
既に活動する生活音がほのかに響く村の入り口前、主張激しく置かれた岩。
ベリンジャー達が戻ってこなければ問題は進まないし何も解決もしていないが、今日中には何かしらの情報が出るものの、ルガートは別件の目的である岩盤浴シーツの作製しておかなければいけない。
昨日と同じ服装、そして一応は帯剣もして地べたに腰を下ろす。
加工後に見失わないようボロ布も貰ったし、準備は万端と手を構えた。
「ルガート様、それはどうするんですか?」
背後にやってきたのはこちらも軽装のトーラスだった。
まだ眠そうだが足取りはしっかりしている。
「これを加工しておくんだ」
「岩をですか?」
「ああ。親父の領では温泉が盛んでな。ホットストーンって石を医療向けに導入した。この溶岩石を加工したのがそれになる。温泉に入れない人に治療の一環、もちろんただ体が冷えてるからとかでも使用すれば体内から温められる。時間がある時、一度来てみろ。特別料金で安くしとくぜ?」
その際にはぜひ温泉の魅力を冒険者にも広めてもらいたい。
まずは空洞がないか確かめる為、風魔法で真っ二つに分けた片側を浮かして観音開きに動かすと中はそこそこの密度に頷いた。
二人分の加工も申し分ない量かとこのまま続行。
「これを、加工……。見ててもいいでしょうか」
「暇だぞ?」
「いえ、絶対そうはならないと思います」
第三者の声と土を踏む音に振り返ると、朝も早いのにきっちり昨日と違う服に着替えたフレインも現れる。
いつもよりのんびり歩くこちらの様子はまだ眠そうだ。
「わたくしも相席よろしいでしょうか」
「おう、おはよさん」
「おはようございます、ルガート様、トーラス様」
まだ寝ている時間だろうに、眠い目を頑張って開いて側に来たフレインに苦笑した。
「お、おはようございます! 私などに敬称は不要です! どうぞ呼び捨てでお願いいたします!」
バッと立ち上がり勢いつけて頭を下げるトーラスにフレインもゆるく頷く。
ルガートを挟む形で隣に腰を下ろす動作に勘付き慌てて待てと止めたが一足遅かった。
てらいもなく地べたに座る公爵令嬢。
メイドに見られたら袋叩きに遭いそうだ。
「ドレス汚れるぞ」
「気にしませんわ。わたくしも見学してもよろしいでしょうか?」
「よろしいよ。好きにしな」
「はい」
座ってしまってはもう聞かないだろう。
せっかく作った長椅子を持ってくると提案してもお気になさらずと微笑まれる。
諦めて目の前の岩に集中しようと手を伸ばした。
「しばらく集中したいから話しかけないでくれ」
「はい」
「かしこまりました」
立ち上がり、真っ二つにした片側から作業を始める。
色の濃い部分を目安に外側の余分な岩を風魔法で荒く削っていき、二人に飛ばないよう結界も張っておく。
削った先から玉ねぎのスライスよろしく厚さ五ミリ程度の半月状に切り分け、もう片割れも同じように加工していった。
織物の見事さから簡素なシーツ二枚を合わせて練り込むよりも、織物をメインに見せたい気持ちが膨らんだ為、ここから先の作業は今の問題が解決するまで保留にしたい。
一番端の岩だけ取り、ちょうど抱き枕に近い形の岩を結界の中に包んで持ち上げながら倒れないよう手で固定する。
ミキサーの要領で結界内に風を発生させ、竜巻状に岩を削っていくと、見る間に細かく砕かれていく様子に合わせて風も同じように鋭く細くなるようにさせた。
結界も縦長だったものを徐々に収まる形へと変えていき、だいぶ細かなパウダーとまで言えなくもない粉を見つめ、しばし考える。
下手に触って傷付くのは避けたいが、これから更に細かさを求めるとなるとどうしたものか。
「ん」
石臼があったな。
どれだけのものになるかは試してみないと不明だが、やってみる価値に両手を上下にかざす。
結界内で細かくなった岩の残骸を風で挟み、双方逆向きに回る風を発生させる。
石臼のすり合わせ部分にはより細かく削る為に模様のようなものがあった気がするが、魔法で再現するには手間がかかりすぎると力任せのすり潰し。
先ほどよりも細かくなった気がしなくもない。
「……こんなもんか?」
かなり同じ作業を繰り返したのち、上部を取り去った結界の中にあるパウダー状の元岩をひとつまみ指で擦り合わせ、引っかかりなどがないか目を閉じて確かめる。
手のひら全体にも擦り合わせたが、傷の心配もなく固形から粒状にしたにしては成功した方だと再び結界に閉じ込めた。
仕上がりは両手で収まりきらない山盛りの量だが、当初の姿より随分と小さくなった。
明らかに暇を持て余したから来たと言わんばかりの三人衆を見つけ、ボール状に結界を張り直し、彼らにそれを投げ付けると打てば響く悲鳴。
前からやってみたいと思っていた結界の耐久性を試すいい機会だ。
「いきなり何だ!?」
「耐久テスト」
「俺のか!?」
「その手に持ってる奴だよ。しばらく遊んでてくれ。斬るなよ? 投げても蹴ってもいいから、壊れないか確かめてくれると助かる」
「球蹴りか。よし、あっちの広い敷地でやるか」
窓ガラスなど割れたら大目玉だと慌てて広場周辺の家に結界を施し、ルガートは肩を伸ばす。
子供達にも有志を募っているのか、大きな声がここまで届いた。
どうやら感覚的に魔力量は心配いるか? と言えるほどに残っていた。
「お疲れ様です」
「ちょっとこの先は問題解決してからにする」
「大変貴重な時間をありがとうございます」
「わたくしも、とても勉強になりましたわ」
「? そうか」
大仰に頷く二人は真面目な顔で首を傾げ、さてこれからどうしようかとタイミングよく腹の虫が鳴いた。
「飯にするか」
「ルガート様、ではわたくしは村長様のお宅へ戻りますわね」
「ああ。寝直してもいいし、ゆっくりしてろ。カルドの部下達が戻ってきたら呼ぶ」
「お願いいたしますわ。それでは失礼いたします」
優雅に去っていく後ろ姿を見送り、欠伸をひとつ。
「トーラスも飯まだか?」
「はい。すっかり忘れてました。時間的にアストラ達はもう済ませているかと」
「じゃ食堂で食うか」
また鳴り響く空腹の音に宿の主人に朝食二人分をお願いして食堂に顔を出すと、のんびり外の様子を眺めるナジェを発見。
「食事か?」
「ああ。ここいいか?」
「構わないぞ」
トーラスと並んで座り、すぐに運ばれてきたのは山盛りのパン。
多すぎだろ。
「試作で作ってみたんです。公爵令嬢様のお付きのメイドさんから教えてもらいました」
「ナジェも食わねえ?」
「いや、先ほどたらふく頂いた」
どうやら全員が洗礼を受けていたらしく、笑って手を伸ばす。
柔らかい食感と甘味の残る食パンだった。
しかし一人一斤丸ごとは流石にキツいものがある。
パン切り包丁が無かったので魔法で切り分け、トーラスも見様見真似でパンを切っていた。
「お待たせしました」
朝食セットが届いてルガートは早速レタスを大量に摘むと、フォークで器用に卵料理とカリカリのベーコンをレタスの上に乗せ醤油で味付け。
更にもう一度レタスを同量も溢れないよう多めに乗せて残ったパンで挟めば、予想通りの素朴な美味さに唸る。
少し考えたトーラスもルガートの真似をして食べ始め、苦笑していたナジェには口先だけで謝った。
反省はしない。
これが美味しいのだ。
マヨネーズもいいけど、厚手のベーコンの塩気があるからこれで十分美味い。
今は冒険者のナジェから見ると目を疑う光景だろう、呆れた表情に意外と平らげるかもと水を飲み干したルガートも笑った。
「よくよく貴族らしくない」
「今更ー」
「ふふ」
勢いのまま半分以上食べ終えてからキラッキラの目と興奮しきりの笑顔をルガートに向ける。
トーラスもよくよく感情表現が豊かな人だ。
「ルガート様、この方法、流行らせましょう! ものすごく美味しいですよ!」
「貴族受けはしないからな。とりあえずギルド辺りで流行らせてみろよ」
「はい!」
満面の笑みで美味しそうに食べ進めるトーラスは大変お気に召したようで、スープを飲み干して大満足の腹をさする。
軽くブランチの時間帯になっているが、ベリンジャー辺りはそろそろ到着してもおかしくない頃だな、と席を立って工房か村長を探しに行くかと席を立つ。
「さて、ナジェとトーラスはあの三人に村の警護を頼んできてほしい。そのあとにでも工房へ来てくれ」
「分かりました」
「承知した」
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