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07.

「……ここに行く」


 瞼を下ろし静かに本を閉じ、ブルースター公爵に感謝を捧げたくなった。

 この人のマニアで俺の目的も次の過程に進める。


「早いですわ」

「おそらく当たりだからな。十分な量もありそうだ。お嬢さん、名前を教えてくれ」

「あ、失礼いたしました! わたくしはザバルト伯爵家の長女、ルイリアと申します!」

「わたくしも失礼いたしましたぁ。 わたくしはモール伯爵家が長女、ティリスフィリスと申します」

「俺も正式に名乗っていなかったな。ボスティス侯爵家の次男、ルガートと申します。よろしければザバルト伯爵に御目通り願いたいのですが」

「構いません。父はお酒を嗜みませんから、食事を楽しんでいると思います」

「ブルースター公爵令嬢、今日はここに連れてきてくれたこと、深く感謝いたします」

「ふふ。普段の口調でよろしいですわ」

「ありがとな」

「構いませんわ。わたくしの領地ではお役に立てなかったのは残念でなりませんけど」

「まだホットストーンの効能の話も終わってないが?」

「そうでしたわね。是非お聞かせくださいませ!」


 賑やかに再び会場に戻る四人が部屋を後にし、書斎の奥、いくつかの本棚でドアから見えない場所。

 徐々に葉巻きの香りが漂い始める。


「マクベス、お前の息子なんなの?」

「我が家の七不思議のひとつだ」

「息子が怪談話に組み込まれるってどうなんだ、人脈作る前に侍らせるってなかなか将来が楽しみだな」

「いや待て、あれは研究優先だろどう見ても、何で目の前の子に目もくれずに書物一直線なんだルガート!」

「親父、帰るのもう少し待っててくれ。酒飲みすぎるなよ」

「……」

「……」

「お前の息子なんなの」

「息子は息子だ」


 ザバルト伯爵の前に四人で突撃し、柔和な人柄の伯爵と話して火山岩の採取と細かな利益勘定などは後日の流れとなった。

 そこは父に丸投げした方がいいか。

 伯爵から岩の特徴などを細かく尋ね、山頂付近は今でも小規模の火山噴火を繰り返していると聞いて、何やらアンテナが働いた。


「お父様、わたくしもルガート様のお手伝いがしたく存じます」

「却下だ」

「ルガート様、わたくしお父様にお話してますの」

「何言ってるんだ? 防御魔法レベルを一〇以上にしてからにしてくれ」


 戻ってきた公爵とも話したかったが、フレイン嬢が譲らず先ほどからこの押し問答。

 話を聞きけば足手まといだなので、一人がいい。


「閣下、魔物の生態本、大変役に立たせていただきました。一部ですが勝手に読了してしまい、お詫びと感謝を申し上げます」

「気にするな、趣味で手掛けたひとつだ。ついでだから牙や爪などお土産に持ってきなさい」

「丸ごとでなくてよろしいですか?」

「何それはしゃぐ」

「かしこまりました」

「お父様! わたくしの話も聞いてくださいまし!」


 遠巻きに見つめる者、冷め冷めと見つめる者達はそれでも足を動かさず、ルガートを注視する。

 ここでは大きな収穫をした後だったのと、リラックスせず警戒していたルガートも、今だけ口元を緩める。

 穴が開くほど見つめてくるフレイン嬢に怪訝に肩を竦めた。


「何だ?」

「ルガート様、防御魔法レベルが一〇という事は、耐性魔法を扱えるということですわよね!? まさか、なぜそんなレベルの魔法を!?」

「昔から魔法は得意だっただけだ。というか周りの視線うるさいんだが」

「今更気付かれても遅いのでどうぞお気になさらず。わたくし、制御は不得手でして、いつも最大限の魔法しか出せないのですが、何か制御に特殊な工程でもされておりますの?」

「いや制御は制御だろう。コツも普通は使うたびに覚えていくはずだ。……確か」


 話している途中でよくよく兄から規格外だの違うからなと言われていたことを思い出す。

 まさか、遠征した魔士達もこの制御が上手くいっていないから練度にばらつきがあるのか?


「ブルースター公爵令嬢」

「ルガート様……わたくしも名前で構いませんわ。毎回その呼ばれ方では疲れますでしょう」

「気にしないが。まあ短くなるならありがたい」


 視界に入った給仕を呼び、グラスの用意をお願いしたフレインはまたこちらへ勇む勢いで扇子を傾ける。


「ちなみにルガート様の防御魔法レベルはおいくつですの?」

「言ったら引くぞ?」

「おそらく杞憂に終わりますわ」

「二四だ。……だから引くっつったろ」

「ルガート様、わたくしと同い年ですわよね?」

「ああ」

「何か、修行法が必要なのでしょうか」

「お勧めしない。それよりグラスが来たぞ」

「あら、ありがとう」


 ご丁寧に中身も入れてきてくれたらしい。

 ワインのようで、口に含むと馴染み深い土の香りが強く鼻についた。


「? うちの領地のワインか?」

「よくお分かりになりましたわね。普段からワインを嗜まれてますの?」

「いや、土の臭いで何となく。初めて飲む」


 一口あおるとまるで瑞々しい口当たりに一瞬ワインとは別の飲み物と錯覚する。

 例えるなら、ウ◯ルチ。

 いや絶対違うとかぶりを振ってまたグラスを傾けるものの、やはりどう頑張って振り払っても頭にチラついて離れなかった。


「これアルコール入ってるか?」

「ルガート様、酒豪ですの?」


 遠い目をしながらこちらを見つめてくるフレインに今度は色を確かめるようにグラスを大きく傾ける。

 順番がかなりごちゃ混ぜとなったが気にせず続けると、ジュースとは違う泡立ちや色合いにやはり酒なのかと匂いも確かめる。


「やっぱ酒だな」

「ルガート様、その作法、こちらの給仕に教えても?」

「さ?いや、今のは専門家じゃないから雑だし、真似するのはどうかと思うが」

「正式な作法がございますの?」

「いや、俺も詳しく知ってる訳じゃ」


 俺がしないとダメなのか。

 ボスティス家よりこっちの給仕やいるか分からないがソムリエの方がレベルが高いに決まってるだろうに。

 怖いもの見たさ?

 違うか。

 ケインと同程度の期待の眼差しを向けられ、背中がむず痒くなる。

 応えない訳には……あの目はダメだ。


「まず、工程は四つ。ラベルの確認、色、香りを嗅ぐ、味を見る。ラベルは言わずもがな銘柄の確認な。色は照明の明かりやシーツの白い部分を利用して濃淡や輝きを見る。傾けすぎるとこぼすから気を付けろ。で、香り。これは空気に触れるだけでも十分いい香りがするが、反時計回りで静かに二、三回せばより広がりある味わいを楽しめる」


 フレインの視線を受け、倣うように動く姿を見てグラスを離すと、少々あどけない顔で見上げてくる。


「最後に味。……すぐには飲み込まず、口の中で転がすよう舌を使え」


 一口含んだフレインを見つめ、ルガートもその様子を見ながら口を開く。


「舌に乗せるだけでなく、側面、舌の裏にも行き渡らせて味を楽しんだら飲み込め。最後に鼻でワインの香りを通り抜けさせるのも忘れるな」

「ワインは少し苦手でしたが、これは……」


 ほう、と吐息を吐く様子は子供ながら妖美にも映った。

 染まる頬はこちらを見ているが、どこか遠くも見ているようにも見える。

 側に来た人の気配に視線を向けると、同じようにグラスを持つブルースター公爵の姿。

 その横には親父がいた。


「ルガート、お前はいつの間にワインに堪能になった」

「別に好きでもねえよ?」

「今のはどういう流れなんだ?」

「?」

「自覚なしか。ワインを飲むのにそんな作法があるとは知らなかったな」


 親父も見ていた通りの仕草を取り、口に含んでしばし口の中で遊ばせる姿を見ながら自身もワインを飲み込んだ。

 一番好きなのは日本酒だけど。


「これは、随分と変化が起こるな」

「今のがテイスティング。銘柄を決める前作業です」

「ふむ。また違った豊潤な味わいを楽しめるな。何十年と損をした気分だ。ルガート、だいぶ飲めるようだがいつもこんな飲み方をしているのか?」

「これはワインに関した飲み方だし、子供なんで酒を嗜んだのはこれが初めてですよ、閣下」

「子供がここまで手慣れた手つきをするか?」

「ルガートだからな」

「出たぞ七不思議が」

「?」


 何が七不思議。

 というか、この世界でも七不思議あるの面白いな。

 謎のワイン講座は唐突に終わりを迎え、周りでこちらを伺っていた奴らも噂を信じているばかりにあてのない見様見真似をする姿は少し滑稽に映った。

 本当はグラスで魔力の説明をしようとしたが、話がだいぶ逸れてしまったので流してしまうかと口を噤む。


「本日はありがとうございました、フレイン嬢。進展したらご報告いたします」

「はい、楽しみにしておりますわ。あと、折角ですからやはりザバルト領へご同行を」

「閣下、彼女をしっかり見張っといてください」

「うむ、無駄だと思うが」

「諦めんなよ」


 こうして人脈作りはやや破綻した結果に終わったが、思わぬ大収穫にも恵まれ、更には公爵家と気安い関係を築けたようで心持ち顔見せはまあまあに終わったのではないかと帰りの馬車に乗り込んだ。


「親父」

「何だ?」

「うちの領のワイン、美味いな」

「はは。知っている」


 ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜてきた親父をそのままに、少し晴れやかな気持ちになった。

父親同士は学園の頃からのよしみなので、立場が高かろうが案外普通のおっちゃんです。


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