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69.とどのつまり

「あのー……村長」


 気遣わしげにこちらの様子を伺いながら、出入り口のドアから顔だけ覗かせる村人の一人へ全員の視線が向かう。


「お食事の用意ができたのですが、どうしましょう?」

「フレイン様、ルガート様、小休止してはどうでしょう?」


 カルドのちらりと見た先は村長達で、短時間で随分とぐったりする様子から気を張らせすぎたのは確かだと頷く。

 まあ、息も絶え絶え。


「だな。あ、」


 しかし用意してくれた食事は熊肉を使用していることに気付き、フレインに視線を向ける。

 気付いていない微笑みからどうしたものかと考えていると、カルドの声が再び。


「ご心配なく。手配済みですよ」

「助かる」

「予定の内ですので」


 だよな。

 フレインに手を伸ばせば当然のように乗せて優雅に立ち上がるので、そのままドアへと先導する。


「ルガート様、眼帯はどうされましたの?」

「失くした。王都に戻る時は包帯で何とかして、あっちでまた用意してもらう」

「まあ、ではまた火竜と闘いましたの?」

「ああ。あ、そうだフレイン、製図用に手頃な紙とか持ってないか? 予備切らしたんだ」

「残念ながら、お手紙用の紙しかございませんわ」

「はあ、やっぱ別邸に戻ってからか」


 包帯は無くても布を貰って適当に巻きつけておけば問題ないし、紙に関しては、現状の慌ただしさを前にすると別邸に帰ってから書き上げた方が望ましい。

 残された者達はぽかんと開いた口を戻さず見送り、アストラが一言。


「誰だよ!」

「んぶっ! ん、んんっ。失礼」


 織物の件に関してはまだ伏せておくよう村長に頼み、案内された広場ではほとんど魔獣討伐後の宴会みたいな賑やかさになっていた。

 いや派手。

 またこのどんちゃん騒ぎを見ようとは。


「村長……。村の為に使ってくれ、頼むから……」

「十分に村の為に使っておりますよ、ルガート様」

「はあ……」

「ふふ。初めて参りましたが、楽しい村ですわね」

「フレインはどこで食べるんだ?」

「村長のお宅を間借りさせていただいております。ですが」


 ちらりと宴会場のようになっている方に視線を向け、苦笑する。

 確かに、楽しそうな場所を見てから一人で食事するのは味気ないな。


「こっちでテーブル作るから、料理できたら持ってきてくれ」

「かしこまりました」


 いつものメイドが頭を下げて村長の家に向かい、一応村長に断りを入れて村の入り口に近い木を魔法で伐採。

 適当に切り分けて簡易テーブルが完成。

 組み立てるだけなのですぐに出来上がると、テーブルクロスから持ってきたメイドに噴き出しかける。

 落差よ。


「これでいいか?」

「問題ございません。ではお嬢様、改めて準備いたしますので少々お待ちくださいませ」

「ええ、お願いね」


 椅子は長椅子を二脚用意し、村でも使えるようにしておく。

 とりあえず背もたれもないが椅子を引いてフレインを座らせ、反対側へと座ったルガートに微笑む。


「もしかして、熊肉でしたの?」

「ああ。メイド達に感謝だな」

「本当ですわ。すっかり忘れておりましたもの」


 やはりまだ食べる勇気はないらしい。

 肩を竦めてフレインの前に運ばれてきたのはどうやらハンバーグ。

 とても行儀の良いお皿に収まる料理と景色のミスマッチに再度噴出しかけ俯いて堪え、視線を外しながら“竜の籠”でのことを話し出した。

 これで食事中は話さないフレインも気まずくならないだろう。

 たまに笑うけど口は咀嚼中だった。


「ルガート様、お食事はどうされますか?」

「あとでそっちに行く。気にしないで始めててくれ」

「分かりました。それでは」


 離れる村長が宴会場にいる者達に声をかけると、また賑やかさが増した。

 ギルド組の熊肉大絶賛の声に笑いながら、遠慮がちな声が側から。


「あの、ルガート様、わたくしは構いませんわ」

「俺が構う。終わったらあっち行くぞ。ちゃんとゆっくり食え」

「……はい」


 しっかり食べ終えたフレインもお腹を休ませ、また手を出して示す様子に苦笑してその手を取り、騒ぎの中心へと向かう。

 複数では納めきれない視線を受け、ほとんど地べたに近い椅子に座らせてから飯の確保に向かう。

 ソワソワと落ち着かない様子でいる者達や遠慮がちに食べ始めた奴らを他所に、今回も熊鍋にしたらしい料理に笑みを深め、特盛りとご飯も持ってフレインの隣に腰を下ろした。


「なに静かにしてんだ、普通にしてろ」

「いやルガート様、無理があるかと」

「皆様、どうかわたくしはお気になさらないでくださいませ。せっかくのお食事ですから」


 貴族の令嬢がいるだけで遠慮しているのだろうか、ナジェはともかく、村人の方もどこか強張った笑顔だった。


「アストラ、サイネル、バマー。ちょっと」

「えええ」

「嫌な予感しかねえよ」

「俺ら打ち首?」

「何でだよ。水玉飛ばすぞ」


 側に来た三人衆は地べたに座るが気にせず尋ねる。


「“竜の籠”の話してやれよ。今なら脚色アリでも許す」

「このクソガキ俺らに何したと思う!?」

「ボスの詳細聞かなかったのは俺らだけどな!?」

「作戦聞いたら突っ込めって言われたから行ったんだよ!!」

「そしたらバカデケェ魔物いてな!?」

「……!」


 勢いに圧されたフレインは放置し、ルガートはやっぱあとで殴ると心に決めつつ熊鍋を咀嚼した。

 三人衆は存外話し上手で、あっという間にさっきの空気は霧散する。

 上品に笑い聞き入るフレインも肩の力が抜けてる様を隣に、しみじみ米が美味いと目を閉じていた。

 後ろで爆笑している声は無視しておこう。

 村人達も三人衆の話に笑いが広がり、良い村だと改めて見つめた。


「ルガート様ったら、サラマンダーもお食べになりましたの?」

「おお。さっぱりとした口当たりに身が引き締まってて唐揚げにしたら美味そうだな、あれ」

「ああ!!」

「今言う!?」

「食いたくなったろー!」

「ふふっ」


 最後の一口に残した熊肉にふと思い、フレインに視線を向ける。

 ほんの僅かに、欲求が沸いた。


「ほれ」

「……?」

「口開けろ」

「ルガート様、えっ、あの……」

「ほら早く。汁が溢れる」

「あの、あのっ、……あ」


 小さく開いた口の中に熊肉を放り込み、噛まずに口の中に肉を留めて見上げてくるが、残りは噛んで飲むだけだろと笑う。

 真っ赤な顔で混乱しているのか、観念したらしい口元が動くと、途端に顔色が変わった。

 目を見開き、咀嚼したままルガートを見上げてくる瞳は嫌悪しておらず、手はルガートの捲った袖を握り締める。


「美味いだろ?」


 首肯だけでリアクションを取る様子はよほど驚いたのだろう、何度も何度も頷いて見せる。

 口端についていた汁を拭ってひとしきり笑って器に残る汁を飲み干すと、ルガートを凝視する三人衆は顎を外しかねないほど口を開いていた。


「何だ?」

「俺も彼女ほしー」

「嫁ほしー」

「泣きたくなるー」

「怖」


 後ろを見るとメイドから謎のグッドサインを示され、カルドは地面に伏した状態で声もなく震えていた。

 怖。


「フレイン、約束な、先延ばしだ。ここらはまだ動物が少ししか戻ってない」

「そうなのですか……。日々邁進しておりますが、なかなか日の目を見ませんわね」

「まあ身の安全も考えれば、大人しくしろと言いたいがな」

「そっくりそのままお返しいたしますわ」

「聞けない話ー」

「もう」


 お酒もないのに楽しい宴会も宴もたけなわ。

 フレインのベッドの所在にどこで寝るのかと村長に聞くと、村長宅まるっと明け渡しているらしい。


「すまん。事前に相談しておくべきだった」

「いえいえ。私は娘の家に厄介になりますからお気になさらず」

「すまん」

「いえいえ」


 この村長寛大すぎでは?

 フレインも二、三泊するのか不安になるが、おそらく明日帰るだろう。

 ルガートも自身が泊まる宿に戻り、ドアを開けるなり風呂上がりの彼らが途端に詰め寄ってきた。


「ルガートあの可愛い子とどんな関係なんだよ」

「まあ友人?」


 婚約者とは伏せておくべきか。

 まだちゃんと正式に顔合わせした訳ではないし。


「あのやり取りでか!」

「流石に不敬では……」

「公爵閣下に知られたら大目玉だぞ」

「あのおっさんがそこまで気にするとも思えんがな」


 流石に両手に剣を持ってこられたら話し合いは必要かも知れないが。

 目をひん剥きそうなナジェに肩を掴まれ、顔が不敬! と言いたそうだ。


「おっ!? ルガート、公爵に向かってそれはいかん!!」

「いやもう割と何度となく言ってるが」

「……は?」

「自惚れでなければ気に入られてるよ、今はな」


 風呂行ってくると剣を置いて部屋を出たルガートを見送り、五人はまた頭を突き合わせた。

 今度こそヤバいのでは、と五人の心情など露知らず、呑気に行水した風呂上がりに念の為と村長のお宅へ訪問。


「カルド」

「風邪を召されますよ、色男様」

「からかうなっつの。やっとお前の顔まともに見た気がするぞ」

「アレは笑うしかないでしょうに。いかがしました?」


 鋭くなった目に笑いながら、違うと手をあげる。

 瞬間的に発動した結界を村長宅すべてに覆い、休憩してろ、と手を振って宿へ戻っていった。


「アレで無自覚なのだから凄いわぁ……」


 高度な結界に口元を引きつらせながらカルドは部下に休憩を通達する。

 目の前で起こった魔法に彼らも魔獣討伐でのルガートの実力は見ていたので素直に従うと、カルドも苦笑して欠伸を堪えるのだった。

口に物を入れたまま話さないのは、ルガートもフレインも共通してました。

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