67.再びサワヌァ村
再開!よろしくお願いいたします。
「ルガート様!」
「先日はどうも。すぐに顔を見せずにすみませんでした」
ブルースター公爵領の南端、北西に構える鉱山地帯と違い、ここは自然豊かな森に囲まれたサワヌァ村。
前回は魔獣騒動に加え、宴会の最中に起こした魔力枯渇により碌な挨拶もできずに去ってしまったので頭を下げて謝るルガートに、大慌てで顔を上げてくださいとほとんど怒鳴ってる村長に笑う。
「公爵様より事情は聞き及んでおります。気になさらないでください!」
形式的な挨拶も雑に済ませ、頷いてウィンディアからロープを外して岩を下ろしながら周囲を見回すが、村に宿はなかったはず。
ここまで連れてきてなんだが、無ければ野宿でも構わないかと村の奥に見慣れない建物も視界に入れつつ村長に尋ねた。
「ここって宿あったか? 少しやりたいことがあってな。二、三日泊めてほしいんだが」
「なんと! では熊肉を用意しませんと!」
「いや、それは村の為に使ってくれ」
氷室もあるから量は確保しているだろうが、観光名品にさせるならルガートが食べる訳にはいかない。
だが、満面の笑みで肩を叩いてきた村長は遠巻きに見ていた青年に伝え、肉の用意に向かわせた。
「今日使わずしていつ使うんですか! 宿でしたらご安心ください。最近完成したばかりですので、ゆっくり休めますよ」
「おお、助かる。よかったな、宿あるってよ」
振り返ると魔法で補助していたが疲労困憊で地面と仲良くしているA級ランクの冒険者ら面々。
剣士らはついでに木陰で空の胃をひっくり返していた。
「おめええ……無かったら、野宿、させる気、だったなああ」
バレていた。
素知らぬ振りをして休憩する彼らを放置し、村長と氷室へ向かい、中を確かめさせてもらうと経過観察はだいぶ快適良好。
気温も安定しているし、夏になって氷が生成できているか見たいが、この様子なら年一の観察でいいかもしれないな。
そのまま伝えると今度は村長から深々と頭を下げられる。
「ところで、彼らはお仲間ですか?」
「んー……。そういうのではない。王都でギルドに登録してる冒険者だが、悪い奴らじゃないから、ここでの対応に関しては村長に任す。俺は部外者だしな」
「そんなことを仰らないでください。本当に、感謝してもし切れません」
「それはいいっての」
途中まで二人で戻ると宿と彼らに飲み物の手配をするからと離れた村長を見送り、ようやく立てるくらいには回復したパーティーに声をかける。
「宿で飲み物用意してくれるってよ。持ってこさせようか?」
「どっか行くのか?」
「森の中を見てくる。生態系が戻ってるか見に行くだけだから、休んでていいぞ」
全員から断りをもらい、トーラスはジェスチャーだけでなんとか返事を返して笑いながら口笛を吹いてウィンディアを呼び寄せた。
のんびりウィンディアに歩かせると、まだ小動物ながら順調に動物も戻りつつある森に安堵する。
討伐した場所へと到着し、血の臭いもすっかり名残を消し去ったそこは、やはり心地の良い場所だった。
そこだけ円形になって木々がない。
ポッカリ開いた空と、鳥の声ばかり。
「魔獣化と何か関係があるのか」
空ばかりで何も分からないまま、行きも帰りも魔物の姿を見ることなく村へと引き返した。
「すまん村長、ここの郵便事情ってどうなってる? 公爵家に手紙を出したいんだが」
「週に一度来てくれる行商人へお任せしていますが、ちょうど二日前に……」
「いや構わない。俺の馬に任せる」
「お前の馬はどんだけ有能なの?」
復活したベリンジャーから突っ込まれたが肩を竦めるだけに留めて手紙を落とさないよう手綱の上に括り付ける。
荷物に入れたら分からないだろうからとやってみたが、風に飛ばされなければいいが。
「ウィンディア、公爵家は覚えているな? 帰りはゆっくりでいいから頼んだ」
軽く嘶き、颯爽と駆けて行った馬を見送ると、ようやく全員が立ち上がっていた。
宿に足を向けて全員が声を上げる。
二段式のベッドが対で四つもあり、寝部屋はそこの一ヶ所のみ。
他に食堂、そして風呂場とかなりこぢんまりな設計の宿だった。
ベッドの様子を見る限り、ユースホテル式と呼べばいいか。
「いいところだな」
「申し訳ございませんルガート様。村の予算的にも、これしか選択肢がなかったもので」
「なに謝ってるんだ、気にしないでいい。今日は冒険者として扱ってくれ」
「しかしぃ」
なぜそんなに泣きそうになってるんだろうか。
笑いながら背中を叩き、強めに叩いたから前につんのめって悲鳴が上がった。
「このタイプは冒険者には情報交換にも打ってつけだろ。予算とか言うんじゃない。いいものを建てたんだから胸張ってろ」
「……は、はい!」
「女性も泊まる時もあるから、ベッドにはカーテンも引けばいいと思うぞ」
「すぐに手配します!」
今日の宿泊者はルガート達のみなので、下を中心に使わせてもらう。
二段式のベッドは少人数から大人数まで程よい距離感を保たせてくれる室内に足を運ぶ。
ルガートは奥へと向かい、窓を中央に右側のベッドに荷物を下ろした。
装備を全て外せば、開放感から軽く伸びをする。
「ルガート様、公爵領の土地の者に、あの、勝手に内装など注文してよかったんですか?」
やや顔色が戻ったトーラスが恐る恐る尋ねてくるが、あの公爵がそこまで煩いとも思えない。
泊まる側の意見として留めてくれそうなものだが。
「もう手紙も送ってるからな。気にしてないと思うが、何か言われたら俺のせいにしておけばいい」
「お前のお気楽さ怖いよ」
「ブルースター公爵と面識があっても油断しない方がいい。あの方はかなり気難しいと噂で聞いている」
「へえ?」
面白いことを聞いた。
不審な笑いを見せながら上着も雑にベッドに放り、身軽になっていくルガートは気にせず部屋をあとにした。
残った冒険者達はぶるりと体を震わせ、顔色を変えて肩を寄せ合った。
「あいつ、マジで考えてないのか?」
「そうは思えませんが」
「な、じゃあいつがヤバくなった時、うちに引き入れようぜ!」
「……アストラ」
「おっ、いい考え!」
「俺も賛成ー」
「……まあ、気にはかけておきましょう」
「そうだな」
「俺面倒事はごめんだぞー?」
とか言いつつも一番気にかけていたベリンジャーに苦笑するだけに留めておく年長二人だった。
宿の主人となった男に村の入り口に置いている岩を加工していると告げ、剣だけを帯剣してルガートは白シャツに黒パンツという身軽すぎる軽装でのんびり歩く。
「あ! 兄ちゃん!」
「うお」
腰に強めのタックルをされたが難なく踏み止まり、首だけ巡らせれば見た顔がにっかーっと笑って見上げて腰にしがみついていた。
宴会で、一番最初に熊鍋を食べてくれた子供にルガートもニッと口端を上げる。
「よう坊主、家のお手伝いはいいのか?」
「今日は村で兄ちゃんのかんげーかいするって言ってたから終わり!」
「おお……悪いな、なんか」
「兄ちゃんぶっ倒れて死んだかと思ってた」
「勝手に殺すなよ」
離れる様子はなく子供を腰に巻きつけながらそのまま入り口へ到着し、早速加工と上げた手を止める。
用意し忘れたそれを思い出し、しまったと頭を叩いてまだしがみつく子供を見下ろす。
目を輝かせて大きな岩に登りたそうにしている様子はやんちゃさが窺えた。
笑いながら頭を撫でるとようやく目が合い、不思議そうに見つめてくる。
「なあ、ここ、真新しいシーツとかあるか?」
「シーツ?」
「ああ。使ってない、布。できれば新品がいいんだが」
「ございますよ」
優しげな声からの返答は村の人だろう、女性が近付いてくるなり子供の耳を引っ張った。
この子の母親か。
気にするなと止めてやれば岩の方へ向かい岩の周りをぐるぐる回り始める。
加工しなければ何の変哲もないただの岩に対するテンションではなくないか?
「先日はありがとうございました。村長から不便のないよう言われて来たのですが、シーツは何に使われますか?」
「この岩を加工したいんだが、そのシーツに埋めるように使いたいんだ。真新しいのを二枚一組を二つ。できれば厚手のものが欲しい」
「では、見た方が早いと思いますので、ついてきてください」
飛び乗るように子供が背中にジャンプしてきて、そのままおぶって呆れ顔の女性と歩き出した。




