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66.お疲れ様でした

「と言っても今のレベルに差し障りがないなら早くやってもいいとは思うぞ、魔力枯渇」


 帰り道の最中でふと言い直すルガートにナジェが難色を示した。


「しかし危険を伴うのだろう」

「それは極少数の考えなしがやった結果だ。魔力操作と魔力量は必ずしも比例していないと思う」

「お前さっきと言ってること違うぞ!」


 ここぞとばかりにアストラが突っ込む。

 続くヤジの方向性は変わらないが、まるっと無視して今までの彼の行動を振り返る。


「よく考えてみろ。トーラスの魔力操作はかなり細やかで一人一人に適切なものばかりだった。操作自体はかなり熟練者なんだ。A級ならレベルも高い。魔力量もありそうだし、機会を見てやればいいんだよ」

「すぐに扱える訳ではないんですか?」

「文献見てない?」

「はい」


 なぜ見ていないのかと笑ったが、字が読めないと言われて微妙に返答に困った。

 文献も見ずに全属性を扱える天才肌にかえってルガートが驚く。

 四、五年前に発行されたという文献の話に、ナジェも知らなかったのか、驚いていた。


「俺もうっかりサワヌァ村で魔力枯渇を起こしてな。記憶にないが三日三晩苦しんだと聞いてる」

「そ、そんな酷いものなんですか」

「魔力量が高い反動だ。トーラスは体も出来上がってるし、話を聞けば半日から一日で済む」

「何で三日三晩」

「話聞いてたか? 魔力量が高すぎてそうなったんだよ。足止めされる時間も考えれば、一日ベッドと寄り添う羽目になるからな」

「向かう先にもよるが、依頼を受けてからでは遅いか」

「だな」


 トーラスも真面目に思案しているようで、今度こそ下山に意識を向ける。

 火竜に気にする静かな三人衆も注意深く空を警戒してくれているから、前方だけに意識を向けた。

 “竜の籠”を抜けると、皆一様にリラックスした様子に笑う。

 空も暗いし野宿するか? と提案したがもうここまで来たら宿で寝たいと満場一致で町に向けて出発し、ルガートも見送りだけはしようと町に足を向けた。

 宿へ到着する頃にはすっかり夜の景色に、周囲はもうフラッシュでもやや見通し難い。


「ここまでは乗合馬車できたのか?」

「ああ。帰りもそうする予定だ。お前は?」

「ザバルト伯爵家に馬を預けてる。伯爵に捕まる前にサワヌァ村へ向かう」

「お前、このまま泊まってけ」

「ん?」

「そうだぞ、子供は寝なきゃダメだろ」

「あ?」

「の前に酒だ酒!」

「おい、ちょっと」


 危うく宿に入りかけて慌てて岩を置く。

 そんなルガートの制止も聞かずに肩に腕を回して連れて行こうとする三人衆をなおも止めながらも、なぜかルガートも彼らに加わり一泊分の宿代が払われた。

 離す気がなくそのままテーブルに連行されると酒だ飯だとオーダーしていく三人衆。

 荷物を部屋に置いてきたトーラス達ものんびり加わり、目の前に出されたのは俺が知る限りではキツめの酒。

 ほう?


「ま、お前もまだまだ子供だからな?」

「依頼が終わった一杯はうめぇんだぞ?」

「酒の味くらいは覚えた方がいいだろ!」


 ニヤニヤと笑う三人衆の挑発に、ルガートの応戦して凶悪なまでにやりと笑い、グラスを手に取った。


「吠えてろ、雑魚が」


 ツマミの枝豆をちまちま口の中に頬張り、さっきの挑発は何だったのかと遠い目をしながら何杯目かの酒に口をつける。


「ルガート様、酒も強いですねー」

「トーラスも案外強いな」

「これカクテルですからー」

「女子か」


 グラスを両手にふわふわゆるく笑う酔い方もどことなく女子っぽい。


「まさかの酒豪」

「そういう二人も見た目変わってねえけど」

「俺とナジェ、滅多な酒じゃ酔わねえの。北の酒でいきなり酔うけど」

「俺はアウロ国の酒が酔いやすいな」

「へー」


 なぜか居酒屋にいる雰囲気で飲みながら足りなくなったツマミを追加注文。

 ルガートの周りで出来上がっている三人衆は早々に潰れ、机に突っ伏していたり椅子から倒れて床で寝ている姿は視界から外しておいた。


「なあルガート、明日いつ出発?」

「ひと寝したらすぐにでも」

「ルガート様ー」

「ん?」

「私、今回は、臨時で付いてきたので、正式に聞いてるんですー」

「何が?」


 真っ赤な顔でホワホワした話し方になっているトーラスがにっこりと微笑む。


「誰一人欠くことなく、ギルドへお返しすると聞いておりますー」

「そりゃ“竜の籠”への道案内までの話だろ。そもそも帰り乗合馬車なんだろ?」

「私、もっとルガート様に、お尋ねしたいことがあるんですー。魔力もそうですがー、文献の話だとかー」

「いや、それは……」

「私ではご迷惑でしょうか……」


 えええ……トーラスお前……絡み酒か……。

 視線を向けるとさっと外した二人にイラッとする。

 おい押し付けんなよ。


「ルガート様には恩義も感じてー」

「いやいや」

「私の話はつまらないですかー」

「勘弁しろ……」


 三人衆とトーラスを引きずって宿泊部屋へと向かい、苦笑する二人は申し訳程度に謝るが、テイのいい人心御供にされたルガートは堪ったまったものではないとひと睨みしながらベリンジャーにトーラスを預ける。

 飲みかけの一杯を飲み切ると潰れたのでよかったものの、絡み酒の対処などこれっきりにしてほしい。


「明日は使い物になんねえな」

「はは。いつものことさ」

「んじゃ、ルガート、明日も引き続きよろしくな」


 いや待て。

 離れようとした足を止めて振り返ると不敵に笑う二人の姿。

 頭を押さえて手を上げたルガートはその言葉の意味を忘れていた。


「おい、まさかサワヌァ村について来んのか? 別件って言ったろ。そっちはギルドへの報告もあんだろ」

「トーラスが聞いたのなら間違いないからな」

「俺達を誰一人欠くことなくお送りしてくれんだろう? お前本当、なんなの?」

「めんどくせぇ……」


 壁に肘をついて項垂れるルガートにケラケラ笑うだけのベリンジャーは、肩を叩いて見下ろしてくる。

 その顔はもうからかうだけのものなので手を跳ね除けて乗合馬車の時間を尋ねた。


「八時頃だ。ゆっくり休めよ、お貴族様」

「ったく……余計なこと言うもんじゃねえな」


 手を振って自分の割り当てられた部屋へと向かう。

 まあ隣なのだが。

 二人も笑って見送ると、反対側の隣室へ足を向けるのだった。


「吐く」

「気持ち悪ぃ」

「頭いたい」

「すみません、ルガート様」


 この落差よ。

 絡み酒の割りにはすっきりした顔と表情から見るに、記憶はあるらしい。

 土下座に近い姿勢で謝るトーラスはいつもこんな調子らしい。

 酒癖は悪いけど強いな。

 ルガートは彼らより先に起きてザバルト伯爵に事情を説明し、ウィンディアに乗って馬車の後ろについている。

 先日宿に宿泊したと伝えるととても残念そうな顔をされたが、今回ばかりは不可抗力だと説明して乗合馬車に合わせてのんびり動き出した。

 岩は浮いてるが、もう誰のツッコミも来なかった。


「今度から酒は程々にしとけ」

「はい」


 繰り返すと分かってはいるが、言わずにはおらなかったので仕方がないだろう。

 気にすんなと馬車で休んでおくよう手だけ振っておく。

 乗合馬車なので中継地点となっているモール伯爵領の町で冒険者達は降り、その北西辺りにちょうどサワヌァ村がある。

 といってもサワヌァ村周辺は奥深い森が多くあるので中継地点の町との交流はそれほどないらしい。

 のどかでいいところではある。


「ウィンディア、先に行っててくれ」


 岩を結界風船で囲い込み、またロープで繋いげば不満そうに頭をはまれる。

 そこでもトーラスが目を皿にしていたがもう気にしないと嘶きひとつしたウィンディアを見送り、ルガートは振り返った。


「て訳で、走るぞ」


 冒険者達は地面と仲良くなる格好でサワヌァ村へと到着した。

二日酔いの翌朝に全力疾走は鬼の所業。

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