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63.所謂セーブポイント

「さて三馬鹿よ、俺の言いたいことは分かるな?」

「はい」

「騒がない」

「叫ばない」

「まだ一階層でんな調子なら五階層でへばるからな。一五っつったろ」

「悪い」

「すんません」

「反省します」


 滝行のように脳天のタンコブだけにチョロチョロと水を打たせ、頭を下げている三人は正座をしながら頭を前に突き出している。

 聞こえるように水は細く量は少ないが、地味に嫌な説教に三人はようやく冷静さを取り戻す。

 ナジェは周囲の警戒、トーラスはルガートの怒りを最小限に留めるよう緩衝剤代わり、ベリンジャーは腹を抱えて蹲って爆笑していた。


「さて、今度こそ気を引き締めろ」


 今いる階層の地図を書き終え、次層へ向かっていいとサインを出して改めて三人衆が前へと進む。

 順調に階層を進み階下へ向かう階段に不思議に思う。

 こういうところは人工的な造りでも、魔物しか蔓延っていないダンジョン。

 明かりがいらないここしか知らないルガートは他のダンジョンはどういった場所か考える。

 溶岩の明かりがあまりにも強すぎて松明やフラッシュは不要なのは有り難いが、この場所が特殊なだけだろう。


「ルガート様」

「何だ?」


 真面目に切り替えて階層も進みに進んだ一四層。

 特に問題も異変もなく拍子抜けさえするほどの順調さ。

 そして鈍感なのか、三人衆は強化魔法に気付いておらず、その様子も面白いので黙ったままのルガートは軽く声をかけたトーラスに意識を向けた。


「ここがユースポットです」

「……?」


 特に変哲もない岩壁。

 違いがあるのかと注視した先で見つけたのは、ルガートの身長より少し視線を上げた宙に浮く何か。

 結晶体に見えなくもないし、ただの石ころにも見えるそれ。

 前回もそうだが、探索魔法にも引っかかっていないそれにまったく気がつかなかった。


「この物体はこれまで発見されたどの鉱石とも類似しない物で、ダンジョン内のみでしか確認が取れていません。この下で野営をすれば体力魔力は回復し、ここ周辺だけは魔物もなぜか寄り付きません」

「便利だな」

「はい。調査で採取しようと持ち帰った者もいたらしいんですが、いつの間にか消えているようです」

「ダンジョンのみの鉱物か。下手に動かさない方がいいだろう。よし、ここで休憩だ。範囲はどれくらいだ?」

「成人男性三人分ほどですかね」


 五、六メートルほどか。

 まあまあの広さだと腰を下ろした一行はそこそこに疲労の色が見えていた。

 こういった便利なスポットがあるのならこうした無茶を強行できるが、危うい部分も見え隠れする。

 慣れてしまえば、自ら危険を招くな。


「多用は禁物だな」


 自戒の為に呟いた言葉だったが、トーラスもその危険性は理解しているようで続けて頷いていた。

 しかし、今はあやかる身なのでとりあえず腹ごしらえだと荷物を漁る。

 他の者にまた食事の支度を任せて地図を清書し始めるルガートは、なぜか周囲に寄ってきた人の気配に書こうとしていた手を止める。


「何だ」

「いや、ルガートは随分真面目だなと」

「邪魔するならまた喰らうか?」


 水魔法を出現させたが当てる気はない。

 口元を引きつらせた剣士の三人に気付いて水球を消し、姿勢を正して見上げる。

 今更ながら、失礼だと気付いた。


「俺もすまなかった。ダンジョン前までの態度は反感を買って当然だった。できたら、名前を教えてくれ」

「……アストラだ」

「サイネル」

「バマー」

「ありがとう。邪魔だからあっち行ってろ」

「お前俺らの扱い雑だな!?」


 手で追い払ってナジェとベリンジャーがはいはいはいはいと宥めながら三人衆の首根っこを捕まえて引き離していた。

 一五階層分の地図は手間がかかるが紙の方が早々になくなりかけている事実に残りは王都に帰ってから書くかと清書を諦める。

 代わりに、簡易式の地図に細かに書き始めた。

 何回かちょっかいをかけられた気もするが、集中していたせいであまり聞こえていなかった。

 その度にまたナジェとベリンジャーが止めに来るを繰り返していた。


「ルガート様、お食事どうぞー」

「ありがとう、今終わるから置いといてくれ」

「はいよ。しかしマメだな。ダンジョンの地図はそう細かくなくてもいいんだぞ?」


 結構書いてしまっていたが、嫌な予感にベリンジャーを睨んだ。

 そういうのは早めに教えて欲しかった。


「もしかして入る毎に配置が変わるか?」

「いや、単にロマン。知らない方が燃えるだろ?」


 まったく心配いらない事実に盛大に溜め息を吐き出し、紙も無駄にならずに済んでほとほと安堵した。

 ロマンは自由だ。

 だが安全には替えられない。


「ロマンも大事だが人の命を預かる以上、なおさら雑な仕事はしたくない」

「固いな」


 そうだろうか。

 ……そうかもしれないと返事は返さず腕を組んで思考に沈む。

 もっと頭を柔らかくしていれば、これだけ賑やかしの彼らと打ち解けるのも早かったのかもしれない。

 貴族が疎まれていると最初から分かっていたのだから、もっと他にやりようはあった。

 挑発に乗らないで、自身も短気にならず喧嘩腰にならず、先に彼らの話を聞いていたら。


(今更だ)


 頭を振って思考を飛ばす。

 ベリンジャーの言い分は最もだ。

 だが失敗した過程の後悔をするのは今ではない。


「頑固者とはよく言われる。あと少しだが慣れてくれ」

「真に受けるなよ」


 自身の感情ばかり優先するだけではダメだ。

 人付き合いも楽ではないと痛感した。



 約一時間の休憩を終え、全員はユースポットを離れる前に最後の作戦会議を開いた。

 ルガートもすっかり頭の中を切り替えている。

 全員がいつでも戦闘可能なように武器を構える姿を目の前に、先ほどからずっと言っているのだが、また改めて。


「本っ当にボスの詳細は聞かないんだな?」

「おうよ!」

「ここまでの魔物も余裕だったからな!」

「今日の俺ら、何か絶好調なもんでな!」


 おいまだ気付かないのかよ。何でだよ。

 一度口元を覆い隠して俯くルガートはすぐに平静さを取り戻す。

 噴き出しかけるイルガゲートの気持ちが分からなくもない。

 まさかここでその気持ちを理解するとは。

 今にも走り出しそうな三人を待機させ、その後ろにいるナジェ達の方へ寄る。


「じゃあこっちで作戦会議を開く」

「よろしいのですか?」

「三馬鹿は揉まれりゃいい」

「ふぶー!」


 噴き出すベリンジャーも放置し、ナジェと今回のボス戦はトーラスも加わる戦闘に気持ちを引き締める。

 ベリンジャーもすぐに復活したので脅威を伝えると、三人衆はお気楽に笑顔で最終階層へまだ想いを馳せていた。

 おい大丈夫なのだろうか。


「トーラス、魔力枯渇が起きる前に言え。無理だと判断したらすぐ交代する。ユースポットは無いものと考え、回復の余力も残しておけ」

「分かりました」

「ナジェはとにかく盾頑張れ」

「ふ。承った」

「ベリンジャーも行けそうなら精度を見つつフォローを頼む」

「了解だ」

「ルガート!」

「俺らは!?」

「俺らにも指示くれ!」

「よーし突っ込め」


 雄叫びを上げ階段を駆け下りる三人衆を先頭に、いざ。


「「「ぎゃあああああ!!!?」」」

「あいつらは本当に学習しないな」

「毎度よくやるよ」

「でも実力は確かですし」

「楽しいパーティーだな、ほんと」


 轟々と響く音に半分泣いているらしい絶叫がよく響く。

 呆れているナジェに笑うベリンジャー、フォローしているようだが先ほどの常習とも窺えるやり取りとこの光景を見ると少々その実力を疑いたくなるトーラスの声に、ルガートは苦笑する。

 飽きはしないのは確か。

 一五階層のボスに追いかけられている三人衆、見事な俊足ぶりだ。


「さて、耐性魔法だけは維持するが、ここからは静観させてもらうぞ」

「はい」

途中階層。


「何かいつもより早く動けるな!」

「力もいつも以上に調子いいぞ!」

「あといつもより敵が弱い気がする!」


(ダメだ笑う)

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