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62.地下型ダンジョン

 今にも吹き出しそうな溶岩の熱や臭いで死にそうな声が上がるも、耐性魔法のお陰でそこら辺は何とか凌げている。

 ようは気分で悲鳴が漏れてるだけ。

 人一人分がようやく歩ける細道をルガートが変わらず先頭に、ベリンジャーがすぐ後ろへ来てここは従うのが吉と判断した剣士も続き、トーラスに続きナジェは体格が大きい為、最後尾となって岩肌に張り付きながら足を踏み外さないよう慎重に歩みを進める。

 たまに軽く溶岩が高く弾けているけど問題はない。

 火口ってこういうものだとルガートは特に構えずにいるが、他の者達はその度に足を止めていた。

 そういえば全員“竜の籠”は初めてなのだ。

 ということは、全てが無知?


「あんたら、ダンジョンへは入ったことあるのか?」

「ここで世間話をするか!?」


 ベリンジャーの突っ込みが真後ろから響くけど、ダメな話だったのか。

 別に世間話でもないんだが。


「聞いとかないと対策も変更点が出るから、できれば教えてくれると助かるが」

「仮にもAランク冒険者だぞ?何でランク付けしてると思ってんだ」

「……腕前?」

「それもあるけど、ダンジョンの踏破数や難易度の高い魔物を倒した実績で決まるんだよ。俺らはその稼ぎ頭ってとこだな」


 話は続けるらしいベリンジャー。

 話していいならなぜ驚かれた。


「火竜であんなだったのにか?」

「火竜は別枠だろ。おまけに未踏の地。竜種は他で見ないんだぞ?」

「へー」

「え、何その反応、まさか他の竜種を見たことあるのか?」

「いや、それはないけど」


 ゲームでよく耳にしたワイバーンとかは竜種でないのだろうか。

 そして魔獣とどちらが強いのか考えてしまう。

 防御力は断然火竜が上だろうが、どちらもどっこいどっこいのステータスだと思いながら、空も飛ぶし遠距離攻撃のブレスもある面倒な火竜の方が強いと判断する。

 ダンジョンの入り口付近は少し開けているのでそこで少し休憩。

 皆なかなかに汗をかいている。

 火口に近いのもあるけど、これは脂汗なのか?

 判断に難しかったがあまり気にしない方向で注意事項でも述べておこう。


「ダンジョンは火属性の魔物しかいないし、特に危険な奴はいない。気楽にしてろ」

「階層って何階でしょ……」

「一五だ」

「じゅ」

「一五……!?」

「最高下層!!」


 何でそんな湧き立ってるんだ。

 いつの間にか剣士の人らもテンションが上がって頬を紅潮させて、先ほどまでの死にそうな顔はどこへやら。

 あまりのテンションの振り切り方に一人呆然と眺めていた。

 ルガート自身、ダンジョンの中を確認したのは火山だけなので他が分からない。


「他のダンジョンは階層がないものなのか?」

「未確認のもの以外は大概が一〇層前後が相場です」

「おっさんでも嬉しそうにすんなら相当だな」

「いやこれはお恥ずかしい。……だが、この高揚は冒険者ならではだと思ってる」

「いいよ普通に喜べって」

「割と舞い上がってるさ」

「あ、そ」


 ひとしきり喜びを噛み締めさせた方がいい。

 一五階もあるのだから、途中で不興を買うよりは安いものだろう。

 火竜も火口付近にいるだけで、ここらには寄り付かないから今の内に装備も改める。

 一応、全員の心意気は問題なさそうだ。

 意気消沈していた三人衆も子供のように見違えるほど生き生きと様変わりしているし、これなら中の探索も庇わずにいられるかもと切り出した。


「一層はレッドスライム、レッドウルフなど低級の魔物から始まる」


 ピタリと声が止み、男達からの視線を受け止める。


「一五層にはボスがいる。どんな魔物か聞くか?」

「では……」

「いや待てトーラス! 言わないでくれ!!」

「俺達が悪かった!!」

「あんたを舐めてた! この通りだ!」


 いきなり姿勢よく頭を下げた九〇度に驚き、目を見開くルガートは三つのつむじに視線を向ける。


「どういう風の吹き回しだ?」

「あんたの実力を見誤っていた。それは心から謝罪させてくれ。すまなかった」

「ああ。すまなかった。子供だと侮ったこちらの落ち度だ」

「火竜の時は一人で戦わせてすまなかった!」

「別に気にしていない。改めて聞くが、戦えるのか?」


 無理ならこのダンジョン内の入り口付近に置いていくつもりだった。

 守りは心許ないがトーラスに任せるつもりでいたが、男達は頭を上げ、真剣な顔付きでルガートを真っ直ぐ見つめた。


「戦わせてくれ」

「俺も戦いたい」

「ああ。お願いだ、ルガート様」

「……。はあ」


 溜め息に体を硬直させた三人を睨み据え、頭を掻きながら再三言ってる言葉を落とす。


「だから貴族云々は一旦捨ててくれ、まどろっこしい」

「……どっちだそれ!」

「オッケーか? オッケーでいいのか!?」

「ルガート様様々だぜ!!」

「あいつら普段からああなのか?」


 雄叫びを上げ始める前に結界を作って遮音性があるかは不明だが、ここで火竜に見つかるのは避けたいルガートは、疲れた顔で残る三人に視線を向ける。

 何であんなにテンション高いんだ。

 というか、喋り方が一気に幼くなったぞ?


「粋がりたい年頃なんですよ」

「ナジェが一番年上、次トーラス、次点俺、あいつら三人衆は一番年下の今年で一九歳だ」

「顔」

「老け顔は悩みだそうだ」


 ナジェは何となく予想ついていたがその次がトーラスとは驚いた。

 やれやれとまだ騒いでいた三人衆に流石に呆れて声をかける。


「おい三馬鹿、いい加減に静かにしろ。ダンジョンで騒ぐ奴があるか」

「悪ぃ悪ぃ!」

「だが年上にバカとはヒデェな」

「こきおろされたくなかったら精々挽回するんだな。戦えるようなら隊列を変える」

「「「お願いします!」」」


 面倒くさい暑苦しさだ。

 渋い顔で髪を掻き混ぜるルガートは、トーラスの随分とリラックスした笑い声に、普段の調子はこうなのだろうと改めて気付かされる。

 なるほど、賑やかお調子パーティーだったか。


「まずダンジョン内は変わらず耐性魔法が必須。下層に近付くにつれ溶岩もすぐ側を流れるから絶対に戦闘中でも気を抜かないこと。不利だと感じたら声を出すか、こちらの判断でフォローする」


 全員の返事を聞き、トーラスに視線を向ける。


「今回、トーラスは任意での同行だ。光の回復魔法は使えるか?」

「はい。かろうじて」

「不安を残す言葉は止めとけ。じゃあ今回は本当に見学だけにしてくれ。怪我人が出た場合、対処してもらう」

「ユースポットは使用されません?」

「なんだって?」


 聴き慣れない言葉に驚き、話の続きを言う前にトーラスは周囲を確認し始める。

 何を探しているのか分からないルガートも宙空を見回してみるが、目新しいものはなさそうだ。


「ここではちょっとありませんが、便利なエリアとだけお話しします。回復やキャンプができるんですよ」

(セーブポイントみたいなものか)


 てっきりWi-Fiでも繋げられるエリアかと思って焦った。


「それの確認は発見し次第教えてくれ。俺は見ていないから見落としのある道もあるのかも知れん。……じゃあ、その地点を有効活用したなら、トーラスも魔士として本領発揮できるな?」

「はい、なんとか」

「やるんだよ。じゃあとりあえずそのユースポットまで降りる。見つからなくても踏破予定で降りるから注意を怠るなよ」


 三人衆からかなり元気な返事をいただき、面倒になって攻撃性の皆無の水魔法で顔面に直撃させた。

 ジョシュアと違った暑苦しさだな。


「雑魚は任す。俺は極力マッピングに時間を割くから、怪我だけは気を付けてくれ」

「「「おう!!!」」」

「……」


 もう返事も返すのも億劫となる。

 にこりと笑みだけ返しこちらの挙動には気付きもせずに勇む三人に強化魔法をフル活用で施し、新しい下書き用の紙と羽ペン、インクを手にするとベリンジャーが側に来た。


「旦那。さっきおかしな事実に気付いたんだが聞いていいか?」

「悪い、それ後ででもいいか?」

「んー……後でもいいな。俺もすまん」

「気にしてない。ついでだ、そのまま背後に注意を払っていてくれ」


 簡易式の地図を歩きながら書き込んでいるルガートは顔を上げずにベリンジャーに後ろを任せる。

 探索魔法を使用中だし不測の事態にはならないが、うっかり転ぶようなら手助けしてもらいたかったので引き止める。

 歩きながらではふにゃふにゃの直線になるものの、自身で分かっている上、あとで清書し直すから問題ない。


「レッドスライム三体!」

「おっさん、ひとまず三人に向かわせてくれ」

「了解」


 走り出そうとしたナジェを引き留め、一応ダンジョンなのだがテンションが振り切っている三人は変わらず雄叫びを上げながら切り込みに向かうものだから、頭を抱えたくなった。


「終わったら拳骨でもしといてくれ」

「……了解」


 登山中と打って変わり過ぎた現状は、よくよく賑やかな道中だった。

根っからの冒険好き。

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