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60.鴨がネギを

 主に威嚇しているのは剣士二人。

 残る剣士と弓士は何だかガヤのようだが、その思考は概ね剣士二人寄り。

 盾士は出過ぎた際にだけ言葉を発し、それ以外は意外と寡黙であってもこちらの挙動には注視している姿勢から、油断はしないと思いたい。

 友好的に接する魔士の魔力も、様子を見る限りその扱う耐性魔法の守りは手固く、今後、彼らだけで訪れても問題ないものと踏む。

 とりあえずイキりとガヤは放置でも話は聞く姿勢なので笑いそうになりながら歩みを進める。


「目的地はほぼ山頂だ。夜までに山頂付近へ向かい、そこで野宿の予定だからしっかりついて来いよ」

「はい」

「チッ。同じ魔士だからって媚びんな、トーラス」

「……ですが、安全を考えて行った方がいいですよ。気配がヒリついてます」

「はっ。……ビビってんのか」

「これだから魔士はよぉ」

「火竜なんて目じゃねぇだろ」


 お気楽四人衆の言葉を聞き流しながら黙々と歩き進め、ルガートは山頂の道のりを細かく確認しながら中腹へ来ると一時休憩を言い渡す。

 ……案外バテている様子はないな。

 体力はあるようなので一〇分くらいの休憩でいいか。

 宿で用意してもらった包みをトーラスと呼ばれていた魔士に渡し、自身も同様に包みを開いて腰を下ろした。

 用意してもらったのは簡単な塩にぎり。

 短時間の休憩ならこれだけでいいだろう。

 ついでに結界を忘れない。


「お隣よろしいですか?」


 三口で無くなりそうな塩にぎりを頬張っていると、全員に渡し終えた魔士が遠慮気味に声をかけてきた。

 窺う様子に肩を竦めながら手を開き、側を示す。


「ああ。耐性魔法、一度解いてもいいぞ」

「……すみません。助かります」

「ダンジョンへ入る前には回復するか?」

「一晩寝れば問題ありません。……お見それしました」

「?」

「私は、Aランクの魔士と言われていますが、技術力が細かいだけで持続性に欠けるのです」


 中腹間近でキツそうにしていたので、ルガートもそうではないかと考えていた。

 もし現メンバーで再度入山するとなると、かなり魔力も消費する。

 途中でぶっ倒れるのが目に見えていたが、彼らの態度を見る限り、果たしてこの魔士を手助けしてくれるのか怪しい。


「技術力が細かいって?」

「全属性を扱えます」

「おーすげー。俺、今光と闇の勉強中なんだ」

「……ふふ。あは。突然、子供らしいのですね、貴方は」

「食っとけ。次からは俺がカバーするから温存を優先しろ」

「……詰めが甘かったです。申し訳ありませんでした」

「その為の“案内”だ。食ったらすぐ出発するぞ」

「はい」


 結界を解く前に魔士へも耐性魔法を施し、ルガートは引き続き山頂を目指す為、先頭を進む。

 体力的には問題なさそうと判断し、このまま山頂へと向かっていった方が体力も回復しやすいかと考え、岩肌がゴツゴツと起伏を見せ始めた山頂手前。

 低く響いたその声を聞く。


「何だ……」

「火竜だ」

「は?」

「人が多いのに、今回は遅かったな」


 多いから様子を窺っていたのかも知れないな。

 手を上げて足を止めたルガートは空を注視し、背後で慌ただしく騒ぎ始めた剣士達の声が少し煩かった。

 火竜の羽音が聞こえねえ。


「な、今、火竜って言ったか?」

「言ったが? あと数秒で目視できる」

「へひ」

「?」


 謎の奇声に振り返った瞬間、ゴウっと風圧で小石を巻き込み土埃が逆巻く。

 結構な近距離の強風により蝶々縛りの眼帯が跳ね飛ばされ、どこかへ行ってしまった。

 振り返った火竜は口のブレスを迸らせ、今にも吐き出しそうな構えで首を伸ばしてこちらを見下ろしている。

 ルガートも、挑発するように口端を上げた。


「よう火トカゲ。悪いがその皮剥がせてもらうぞ」


 お土産だ。

 くるりと首だけ巡らして、ちょうどいいなと剣士達に指示を飛ばす。

 動いてもらわなければこの先のダンジョンも厳しいかもしれない。


「さて、あんたらの実力も見たいから戦え」

「は、はあ!?」

「何だクソガキが! ビビってんのか!?」

「やっぱり貴族は!」

「俺らはAランク冒険者で」

「なら火竜も容易かろう? 早く行けよ」


 殊更嫌味を含めて顎で火竜を指し示す。

 引け腰の様子に溜め息は飲み込んだ。

 まあ、先ほどからの慌て振りを眺めていたら、何となく予想はつく。


「か、火竜……!」

「ブレスが来るぞ!」


 真っ青な顔の弓士が叫び、ルガートも腕を組んではいるが、剣の柄から手は離さずにどう動くかギリギリまで待つ。


「っ、シールド!!」


 躍り出たのは魔士だった。

 炎のブレスを防ぎ切る魔力から、確かに操作も細やかである。

 すかさず前へ出たのが盾士。

 マジックシールドを盾に施されたまま前へとじりじり向かう姿は勇ましい。

 だが防御ばかりでルガートは剣士達に視線を向ける。


「喚くしか脳がないのか?」

「べ、ベリンジャー! 目を潰せ!」

「う、ひっ、あっ!」


 震える手元は炎を避けたが、急ぎすぎたのか、明後日の方向へ飛んでいった矢を見届ける。

 剣は抜いてくれていた三人衆に視線を投げると、肩を震わせてお互いど突き合っている様子に、頭を抱えたくなった。

 あれでは長期戦になるな。


「ベリンジャーって言ったな」


 弓士の男に向かい、やや涙目の男は顔を赤らめながら肩を怒らせこちらを向いた。

 的を外したのが恥ずかしかったのは分かるが、こんな時に揶揄うと思ってんのか。


「無駄打ちしないで狙えればいい。目でなく翼を狙え」

「目、目の方が……」

「的がデカい方が当てやすいだろ。飛びさえしなけりゃ脅威はない。次は当たるから泣くな」

「な、泣く訳ねえだろ!! バカにするな!」

「じゃ、頑張れ」


 こうなれば出るしかない。

 ルガートもスラリと帯剣に触れて剣を引き抜き、綺麗な波紋の光がブレスに反射する。


「ガキが、一度も使ってない剣で勝てると……」


 武器の目利きは良いらしい。


「この剣は、初お披露目だ」

「な」

「盾士、火竜を引きつけろ」

「シールドチャージ!」


 盾で火竜に突っ込み、ぶち当てられた火竜が剣呑な瞳を盾士に向ける。

 鋭利な爪でその盾に引っ掻こうと咆哮をあげた瞬間、後ろからも野太い悲鳴が上がる。


「ベリンジャー! 射て!」


 体勢を低く走り出すルガートの声に、弓を射った鋭い音が先に行くルガートよりも素早く駆け抜ける。

 翼の関節部分に当たるという細かな技術に舌を巻きながら、よろけた火竜の左腹部がガラ空きとなったお陰で、一人で戦っていた時より楽に剣を振るえた。

 翼の根元を叩き切り、そこから見えたそれに幸いと口端を上げる。

 早くに決着がつけられるのは有り難い今回は、左顎の裏にあった逆鱗で手打ちだ。

 軽い音が割れると同時に身を沈めた火竜は完全に動かなくなり、剣を収めたルガートは早速作業を開始しようと太腿に添えているダガーを手にしゃがみ込む。

 側に、恐々と近付いてきたのは魔士のトーラスと弓士のベリンジャーだった。


「あ、あの、ルガート様? 何を……」

「何って、新鮮なうちに素材の確保。手伝ってくれ。俺は皮一通り剥いでおくから、角とか爪とか牙とか頼む。配当はそっちに任せるが、皮の一部と角は貰うぞ」

「え、いや、お貴族さん……」

「いいから手を動かせよ」

「「あ、はい」」


 黙々と素材を選り分け、更に肉と内臓を分けて貴重な素材はまた別に分けてもらう。

 ここでは大人しくなっている剣士三名。

 盾士の人が見ているのでこちらへ来ることはなく、ルガート達で粗方火竜を切り分けたら、火魔法で血と削ぎ残した肉を焼きあげる。

 小ざっぱりした骨が残ると、煤をまだこびりつけているせいか、少し打ち捨てられた化石のようで格好いい。

 残しておくか。


「ベリンジャー、骨は矢じりに使うと効果出そうだからもらっとけば?」

「え? あ、じゃあ、この牙全部もらっていいか?」

「盾士のおっさんも盾の強化に使えるんじゃね?」

「では、必要分を」


 皮は丸ごとでなくてもいいので、ルガートは柔らかい尻尾の付け根部分を貰っていた。


「トーラス、皮の残りで耐火服作れば魔力も節約できるぞ」

「ええと、いただきます」

「残りはそっちで話し合え。今日はここで野営する」

「分かりました。ルガート様はお休みになっていてください。こちらで食事も用意いたします」

「じゃあ頼む」


 もう少し先へと進みたかったが、放心状態の剣士の状態ではやや怪しい雲行きだ。

 本来の目的でもある地図の作成をしておくかと荷を下ろして清書用の紙を広げる。

 少し離れて野営の準備をし始めたトーラス達の声は少ない。

 もちろん結界は忘れず、ルガートは大きく溜め息を吐き出すのだった。

一番体力があるのは弓士。

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