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59.Aランク冒険者

 徹夜で読み耽った翌朝、朝食には流石に出なさい! と再びジミトリアスが部屋へと突撃して来て読書は一時中断。

 一冊だけだがかなり充実した内容に興奮しきり。

 お陰で眠気はまったくやって来ないのでこのまま明日の荷造りを始め、新しい剣も使い心地を確かめなければとまた思考が飛びかける。

 朝食を終えて自室で準備に細々動く様子を、父が最終確認だと現れソファーでのんびり寛いで眺めていた。


「ルガート、今回もザバルト領へ行くのだろう?」

「ああ。帰るのはいつになるか分からない。二週間を目処にしてるけど、もしかしたら伸びるかも」

「怪我や油断をしないように」


 釘を刺されてこちらはしっかり頷いた。

 今回ばかりは条件が違うのだから、細心の注意を払っておこう。


「分かった。土産は何かいるか?」

「土産は気にしないでいい。ギルドと揉め事を起こさず、無事に帰ってきなさい」


 言葉とは合致しないニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべるその表情に、肩だけ竦める。

 確約はできないだろう。

 本部での初対面の対応を見る限り、冒険者の方が貴族に対する当たりは強そうだ。


「まあギルドに関しては煽ってきたなら程々に返り討ちにしてやりなさい。十中八九、因縁をつけてくるだろうからな」

「回避できねえかなそれ……」

「これも経験だろう。揉まれてくるといい」

「はあ」


 行きに比べるとだいぶ荷物が増えた帰りの荷造り。

 ひとまず実家に送れる分はひとまとめにして、親父に預ければ問題ない。

 別邸のメイド長にも約一週間後にまた戻ってから王城へ向かうので、その前準備の手配をお願いする。

 残りは王太子殿下から貰った本をどうするか悩んだ。

 まだ読み直したいが、誰彼に預ける訳にもいかない結果、持ち歩いて行くかと荷物袋の空いているスペースに詰め込む。

 あとは明日使う装備の点検だけとなり、ドアの開く音に振り返るとひょこっと現れたケインがしゃがむルガートの背中に張りついた。


「にいさま、またおでかけ?」

「ああ、悪いな」

「ううん。ぼく、こっちにきてたのしかったよ?」


 帰る日取りは少し多めに伝えて、笑顔全開のケインの頭を撫で回す。


「いい子だなぁ。お土産に火竜の素材で作った兜とか用意するからな」

「わあ! たのしみ! かぶってもいいですか!?」

「ケインのだから好きに使え。飾るだけじゃもったいないからな」


 やったー! と背中ではしゃぐケインに笑い、視線を感じてドアへ振り返るとジミトリアスがにっこにっこの笑顔で見つめていた。

 無言は怖えから止めろ。



 翌日、さっくり家族と分かれてザバルト領へウィンディアを走らせるルガートは馴染みの装備に身を包み、冒険者然とした格好となっていた。

 馴染み深い装備は所々痛んでいる箇所もあるが、まだまだ使えるので補修だけでも意外と保つものだとこれから向かう冒険者の人らの対応を考える。

 先に宿で待っているとギルド長からの伝言に山へ入っていないことを祈り、ウィンディアには頑張って二日で目的地へと到着した。

 ザバルト伯爵にまた馬を預け、今回は滞在できないと分かると途端に渋られてしまうが、予測済みの反応に数少ないレシピを渡すなり馬の調子は万全にさせておきましょう! と入山の許可も貰って満面の笑顔と大手を振って送り出される。

 次からはこの手で行くか。

 町へは徒歩で向かい、聞いていた宿のドアを抜けると一階は居酒屋兼宿の受付。

 昼間でも人がそこそこ多く賑わっていた。


「王都のギルドから来てる冒険者に取り継ぎたい」

「もしかしてルガートさんですか?」

「ああ。いるか?」

「入山できなくてクダ巻いてますよ。あそこ」


 年若い青年が指した先を見ると、テーブルを囲む複数名の人。

 教えられた人数がちょうど揃っているようだ。

 受付の青年にひとつ用事を頼んで礼を残し、そのテーブルへと近付くと、ローブに身を包んだ魔士らしき男がこちらに気付いて顔を向ける。


「初めまして、ルガート・ボスティスだ。王都ギルドのAランク冒険者で違いないか?」

「お前か。ガキの魔士ってのは」

「お貴族様は随分と時間に緩やかだ」


 真っ先に声を上げたのは強面の剣士。

 隣に弓を携え座っている弓士が鼻を鳴らしてルガートを見上げてくる。


「子供相手に粋がるな。彼がいなければ入山の許可すら下りないんだぞ」


 嗜めた男の側には頑丈な盾が添えられているので、彼が盾士とすぐに分かった。


「その子供をお守りしながら行かねぇといけねんだろが」

「ギルド長にも困ったもんだぜ」


 剣士達からは印象最悪なのはよくよく伝わった。

 煽る言葉は無視をし、一人一人の顔を見て各々の装備も確認する。

 ルガートよりも立派な装備はほどよく使い込まれている実力に、これなら問題はないかと頷く。


「メンバーは剣士三名、弓士一名、盾士一名、魔士一名で合ってるな?」

「はい。こちらの準備は整っております」

「じゃ出発。野営の準備もちゃんとしているな?」

「抜かりありません」


 魔士の人が一番まともそうだな。

 この程度の歓迎なら可愛いものだと特に気にせずさくさく向かおう。

 受付から用意してもらった包みを受け取り、荷物袋に引っかけ先に宿を出たルガートを慌てて追いかけてくる足音を後ろに、“竜の籠”へ向かった。


「今回の同行理由を確認したい」


 話しやすそうな魔士の男に焦点を当て、杖を握る手が若干震えていた。


「依頼は“竜の籠”に出現したダンジョンの確認と、同行していただくルガート様には地図作成を最優先にしていただきたいので、我々はその護衛です」

「それから?」

「ダンジョン内は入ってから対策を考えますが、踏破できるようならルガート様は出入り口付近で待機していただければと思います」


 なるほど、そう来るか。


「……こちらは“竜の籠”の地図作成を依頼されていると同時に、貴方らの身の安全の保証も、貴方らのギルド長から仰せつかってる。下手にこちらを遠ざけない方が得策だぞ」

「貴族様はこれだからいけねぇ」


 一番当たりの強い剣士が歯を剥き出しにルガートを睨みつけてきた。

 威嚇のつもりか、剣の柄に手を添える素振りを見せるが反応は示さないでいるルガートに、更に鼻息荒く頭ひとつ分高い位置から見下ろされる。


「こっちはAランク冒険者だぞ?」

「だから何だ。魔士がいなければ“竜の籠”にすら入山できんだろ。こちらの機嫌は無視しても構わないが、自分から不利になる状況は招かないことだ。今引き返してもこちらは一向に構わないが?」

「……テメェ、ガキだからと舐めた態度が許されると思うなよ」

「おい止めろ。山に入る前から問題を起こすな」


 盾士が前へ出て剣士の肩を押さえる。

 盾士らしい無骨な体付きながら隙のない印象を受けた。

 この人も割りと常識人と。

 ストッパー役か、大変だな。


「すみません。聞いていた内容に相違があったようで」

「通達ミスはギルド長に報告するからな。こっちはあんたらのボスに大ボラ吹いてんだ。悪いが、道中は我慢してもらうぞ」


 しばらくの付き合いだ、色々と繕うのが面倒になって地を割ったルガートの言葉に魔士の男が目を見開いた。


「ルガート様は、貴族の方、ですよね?」

「ああ。これより先は堅苦しく話さなくていい。いち冒険者として接してくれ。伝達も遅くなる」

「ですが……あの、可能な限り努力いたします」

「頼む。話を戻すが、全員Aランクで間違いないな?」

「はい。私はその、直接ギルド長からの指示でご一緒しますが、本当によろしいのでしょうか?」


 では正式な依頼内容も聞いてそうだと頷き、依頼の食い違いは剣士の奴らの誰かがしたのだろうかと口元を歪める。

 諍いは避けたいものの、既に挑発に乗ってしまったあとでは友好的な会話は少々厳しいか。

 ほどよい距離感でいようと少し視線の高い魔士の男を見上げた。


「これから向かう前準備でチュートリアルだと思ってくれればいい。入山したら自分優先でいてくれ」

「分かりました。お手前、拝見いたします」

「ふ。堅苦しい」


 くつくつ笑いまだ後ろでぶちぶち言っている剣士の声を聞きながら、二時間ほどで“竜の籠”へと到着する。

 特に何も言わずにあとをついて来る様子ながら、魔士は不可欠と認識はあるらしい。

 さっさと入ってさっさと確認させてさっさと出た方がいいと思いながら、振り返らず魔士以外の全員に耐性魔法をかけて案内を始めた。

 横で魔士が目を見開いていたが、気付いていないルガートは一人説明を始める。


「まだ随分先だが、案内するダンジョンは少々悪路となる。こちらの指示には従ってもらうぞ」

「泥水がつく程度か?」

「ホコリかもな?」

「まだ入ったばかりではしゃぐなよいい大人が。たまに火竜も出るがちゃんと倒せるのか?」

「Aランク様を舐めるなよ」

「クソガキが」


 先が思いやれる。

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