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56.コフト宝石店

 目的地である宝石店はなかなか繁盛しているが、少し賑やかしが多い印象を受けた。

 それを見てフレインも驚き同時に謝罪もされるも、何に対してなのか。


「ここまでと思いませんでした。入荷したと聞いたのもつい先日でしたし、目測を誤りましたわ」

「そんなもんだろ。またにするか?」

「わたくしはまだ王都に滞在しますが、ルガート様は明日辺りからお忙しいでしょう? この程度の人の多さは気にいたしませんわ」


 流石、多少の人混みなど取るに足らなかった。

 混んでいると言っても店内は四、五組ほどの人なのでルガートから見ても大した数に入らない。

 むしろ外にいる人の方が少し多めに感じた。

 こちらは庶民の人垣か、中に入らずにショウウインドウ前にいるだけで、遠回りに歩いてドアに向かえば問題なく入り口に到着する。

 先にフレインに入店を促しルガートも中へと入ると、すかさずこちらへやって来た壮年の男は物腰柔らかにお辞儀をしてきた。


「いらっしゃいませ、ようこそコフト宝石店へお越しくださいました。ブルースター公爵令嬢様、お久し振りでございます」

「ご機嫌ようコフト。こちらはボスティス侯爵家のルガート様と申します。本日はアウロ国から入荷した鉱石があると耳にしましたの。見ても構わなくて?」


 こちらへどうぞと促したコフトに首を振るフレインは、にこりと微笑みルガートを見上げてくる。

 お、今日は分からんな。


「先に店内を見てもいいか? 初めて来たんだ」

「それは失礼をいたしました。ではご案内を」

「いや、静かに見ていたい。構わないか?」

「ご自由にご覧くださいませ。各国から取り寄せた質の高い宝石ばかりです。説明の際には遠慮なくお申し付けくださいませ」

「ありがとう。頼りにしている」


 少しぽかんと見つめた紳士に手近なところから見て回ろうとすぐに視線を外したルガートは気付かず、フレインは静かに笑って手を引かれたままついて行く。

 加工され様々なアクセサリーに変わった宝石や、荒削りなクラスタータイプまである店内を見て回り、やはり自分の目で見ないといけないと改めて唸る。


「フレイン嬢は自分の守り石持ってるか?」

「はい。ですが、どれも効果は今ひとつですわ。こうして王都に来た際は屋敷にお持ちくださるのですが、時折自分の目でも確かめたいので、訪問してますの」

「その方がいい。同じ石でもだいぶ違うのもある。ちょっと目を見せてくれ」

「はい?」


 屈むと見上げたフレインが硬直する。

 やはり白に近い薄い水色に見える瞳は宝石で探すにはやや困難な色合いだ。

 店に置いている宝石の類はどれも色味がはっきりしているものばかりで、フレインの色に近い石に合わせるとどうしても質が欠けているように思えた。

 知る限りの宝石で近いのは、ムーンストーン系だろう。

 柔らかい感じも似ている。


「……ルガート様……。もう、よろしいでしょうか?」

「ん? んん、まだ見つかってない鉱石や宝石もあるだろうし、まだ焦る必要はないだろ」

「そうしますわ」


 もう少し確認したかったが素早く離れたフレインが視線を宝石に移したので諦めるしかない。

 店内を細かく見て回ったので、本来の目的でもあるアウロ国の鉱石が展示されているショーケースの前に向かうと、やはりそこだけ人が多かった。

 順番待ちでもしていようと近場のショーケースでも見るかと首を巡らせた。


「お」

「?」

「フレイン嬢、これがいい」

「指輪ですか?」

「そうじゃなくて、守り石になる宝石だ」

「これは……ムーンストーンでしょうか?」


 あまり無かった宝石でようやく見つけたのは、乳白色にうっすら青い輝きが乗ったもの。

 店員に聞こうと顔を上げた先で、先ほど案内しようとしてくれた紳士が笑みを見せて近付いてきた。


「ご希望の輝きに射止められましたか?」

「この指輪を見せてくれ。拡大鏡はあるか?」

「こちらをどうぞ」


 ショーケースからムーンストーンの指輪を取り出し、拡大鏡で石を明かり越しから覗くと微妙に弾ける光を見つける。

 こうした現象は、石に微かな魔力が宿っている証拠だと聞いていた。


「いい石だ。色も申し分ない」

「ルガート様? それでしたらわたくしが後日買い取りますので……」

「先に指に合わせてみろ」

「ええと」


 珍しく困った笑顔にほらと促し、大きさを予測して上手く嵌まったのは右手の中指だった。

 その間にコフトと指で互いに値段の勘定確認をし合い、お金を手渡す。


「このまま買い取る。ついでに今魔法を使ってもいいか?」

「ぜひ」


 お金を受け取ったコフトのブレのなさに感心しながらフレインの手を掴み、指先に意識を集中させた。

 魔力制御はここのところは順調。

 ならばそちらで手助けし過ぎると伸び悩むかと一度考え直し、ではと改めて宝石に意識を向ける。

 フレインの瞳の色に近い発光と軽やかな音が響き、宝石が淡く輝いたあと、元の優しい色合いに戻った指輪をしばし見つめ、頷く。


「守り石本来の役目を果たせるようにした。壊れ難くもしといたから、多少雑に扱ってもいいぞ」

「せっかく頂いたものをそのようにはいたしません。コフトも、魔法の許可を下していただいて感謝いたしますわ」

「いいえ、こちらとしましても、大変素晴らしいものを拝見させていただきました。まさか守り石を作成する瞬間に立ち会えるとは」


 宝石のようにキラキラとした目を向けられ、様子に気付いた周囲からも熱視線が向けられていた。

 視線より気になる紳士の言葉に怪訝に訊ねる。


「ここではできないのか?」

「お恥ずかしながら、全盛期とは違いまして」

「ルガート様はご存知ないかも知れませんが、コフト宝石店は守り石を扱う唯一のお店ですのよ」

「昔の話でございます。扱えなくはないですが気休め程度の魔力では効果も低く、当代で潰えるでしょう」


 ということはと男に近付き、眉間に皺を寄せてその瞳を見つめる。

 凄んでいるようにしか見えないルガートに慌てたフレインが声をかけていたが、気にせずたじろいでいる瞳を注視した。

 この世界の人達は見事なまでに多彩でカラフルな瞳を持つ者がいても、残念ながら見つかっていない宝石も数多くあり、フレインのように巡り合わせが叶っていない者もいる。

 幸いにも、この人の瞳は鮮やかな青色だった。


「あんたの瞳の色に近い濃いサファイアか類似する宝石はあるか?」

「は、はい! 少々お待ちを!」


 呆けていた紳士は慌てて奥へと消え、しばらくしてから私物なのか丁寧にしまわれていた木箱を大切に持って戻ってくると、その蓋をそっと開く。


「まあ」


 鮮やかで大振りなサファイア。

 大きさは申し分なく、指で輪を作った分ほどの形に質も見事なものだった。


「父が私の為にと送ってくださいました。私はもう」

「拡大鏡」

「あ、はい」


 手袋も借りて手を伸ばし、光に当てながら見た瞬間、暴れ回るような弾ける反射に口端が上がる。


「苛烈だな」

「は?」

「あんたの役に立ちたいと暴れてる。箱にしまって何年だ?」

「……かれこれ、一五年は……」


 その口元が戦慄いていた。

 笑って男の手に宝石を乗せ、青い輝きが店内に発光する。

 こちらは魔力浸透促進をメインに魔力操作補助、加工前なので強化魔法などは止めておいた。


「肌身離さず持ってろ。守り石本来の役割は、あんたが施してやれ」

「……な……なんと……」


 呆然とこちらを見下ろすコフトは開いた口が塞がらない様子に笑う。

 周りの声もなんだか華やいでいたし、よく聞けばコフトに向けたお祝いの言葉が多かった。


「その石はなかなか協力的だと思う。早い段階で、あんたの看板も上がるといいな」

「お、あの……おれ、お礼を……何か、ございませんか」

「あ、じゃあアウロ国からの鉱石見せてくれ」

「なんなりと!! 特別室へご案内しなさい! 可及的速やかに!!」

「こちらへどうぞ!」

「お、おう」

「ふふ」


 勢いに押されて引くルガートの隣りで朗らかに笑うフレインに、頭を掻いて案内人のあとをついて向かった。

 特別室といって単に個室へ案内されるものだとばかり思っていたルガートは、その豪華な内装と手厚いサービスにドン引きしていた。

青み加減からロイヤルブルームーンストーンと迷いましたが、白さをメインにしたかったのでブルームーンストーンにしました。

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