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55.その行動力

 以降の日数もほぼ無理やり夜会に費やされ、夜会の流れにも理解が深まる頃、ギルド本部から最終的な打ち合わせをしたいと手紙が届く。

 ルガートは三日後、王都を離れる。

 その日の夜会で話を聞くなりフレインはギルドへ行きたそうにしていたが、当然の却下と断ると、静かに不満を漏らす星色の瞳に色々と目立ちすぎるだろうと説得し、翌日は何とか一人でギルドを訪ねた。

 夜会ばかりだったが、大人しくしていたお陰で単独行動にお許しが出たのは有り難い。

 受付で出迎えたギルド長に驚き、そのまま三階に連行されてお茶を差し出される。

 やけににこにこしている姿が不審に映るも、前回の威嚇行動を咎める様子もないリッツァは笑みを深めるばかり。

 何か引っかかる笑みだ。

 優雅に足を組み替え、つるりとしそうな唇に映える口紅は、確か前回来た時は引いていなかった気がする。


「今日はお一人なのね?」


 サイドに上げていた髪を後ろに払い、リッツァはまたにこりと微笑む。


「“竜の籠”へ向かうのは俺だけですから。何か不備でも?」

「いいえ、こちらの者が明日、一足先に出立するからその報告ね。一応、ザバルト領の宿で待っていると思うから、合流は宿へ行ってくれると助かるわ」


 言い終わったのか、沈黙。

 にこりと微笑まれるたびに謎の警戒心が顔を覗かせるが、笑むばかりで特に何もアクションを起こされない。

 怪訝に目を眇めたルガートは流石にそれだけではないだろうと念を押す。


「……それだけですか?」

「ええ」

(手紙だけで十分だったんじゃねえの?)


 警戒しすぎの杞憂だったと帰る旨を告げ、じゃあと腰を上げようとしたルガートに改めて厳しい目で待ったをかけたリッツァ。

 無言でソファーへ戻るとその視線は左側へ向けられる。

 ルガートの右目の穴空き眼帯。

 最初は焦点が合いずらくて苦労したが、その頃よりもずっと慣れたので、今は気の配り方も心得たもの。


「ルガート君、その目は見えているの?」

「はい」

「では何より」


 剣を持つ話はせずにいたし、戦いでの足手まといを予想したリッツァの態度は当然か。

 戦闘ではまた勘が鈍るだろう、口だけ大きく出たと思われたのなら冒険者らと合流した際は挽回もしておく必要もあるかと眼帯に触れる。

 道中で魔物に出くわしたら立ち回りを考えよう。


「仕事に支障はありません。必要なら取り外します。傷の大きさから王都のご令嬢達には刺激が強すぎる為の苦肉の策なんで」

「君、本当に十一歳?」

「はい? ええ、まあ」


 両手を頬に当て俯き何やら呟いていたが聞き取れないので沈黙するが、怪訝になるなと言うには挙動不審のギルド長へ突っ込むのもやや躊躇う。

 勢いつけて顔を上げるリッツァは真剣な瞳で見上げ、横に置いていた紙を差し出してきた。

 一番上に大きく登録証と書かれていたそれを更に突き出してくるものだから、一応は手に取った。

 前のめりの体勢でテーブルに両手を置き、反動で半目になりながら体が後ろへ下がる。


「やっぱりギルドで冒険者登録をしていかない? アフタサービスもあるし、登録したらランクはA級間違いなしよ。それに報酬も出せるのよ?」

「先日お断りした通り、数年もろくな仕事もできないんで無意味です。一五になったら今より技量も上がってるだろうから、その際は是非お願いしたいと思いますが」

「一五歳……あと四年……でも、ううん……今より良物件に……?」

「聞いてるか?」


 ぶつぶつとまた自分の世界に旅立ってしまったギルド長に溜め息を吐く。

 ただの勧誘なら帰っても支障ないかとテーブルに登録証を置いてそそくさ部屋をあとにした。

 一応は帰る旨も受付に伝えておくとなぜか苦笑と共に頭を下げられる。

 勧誘は大事だが穴あき期間が長すぎる。

 帰るかとギルドを出ようとした手がドアを開けた体勢で止まった。

 ギルド本部の周りは出店も多く、その広場の中央に涼やかな噴水が設置されいた。

 その縁に腰かける少女が見覚えありすぎて、驚きに動かないルガートと目が合うと笑みをこぼし、濃紺の髪が首を傾げた動作と共に揺れた。


「ルガート様」

「フレイン嬢?」


 手を振る動作は待ち合わせをしていたと言わんばかりに軽やかだ。

 そうではない。

 すぐ側へ寄り、ゆっくり立ち上がるフレインは軽くスカートの後ろをはたく。

 夜会のドレスとは違い、ここら辺へ出かける用なのか、いつもよりすっきりした服装に怪訝に見下ろす。

 そして一人だけなのが異様だ。


「何でここに?」

「お忙しい中、申し訳ありません。ほんの少しでよろしいので、お時間を頂戴してもよろしいか伺いましたの」

「構わないが、メイドとか衛兵は?」

「ルガート様がお見えになりましたので、もう帰ったかと」

「帰った? 危ねえだろ、色々と」


 そんなまさかと周囲を探ると本当にいないようで焦った。

 抑えめではあるが貴族と丸分かりの身形は警戒心が一切なく、無防備もいいとこだ。

 不審な影は幸い見当たらず、息だけ細く吐く。

 危なすぎる。


「なんでここに?」


 さっきの堂々とした様子から一変、下ろす両手を重ね合わせると、子供のように落ち着かない仕草で指を絡め、星色の瞳がそわそわと泳ぎ始める。


「実は……街を散策しようとしたのですが、先日ギルドへ向かう話も聞いておりましたし……」

「ああ、ちょっと話があってな。こっちも歩いて来てたから馬車の迎えはないぞ?」

「ええと、あの……わたくし、少し……はしたないとは思いますが! ご一緒に散策できたらと思いまして!」

「なんだ、いいぞ?」


 随分と言葉を濁したが散歩の一つに至るまでそんなに構えなければいけないのかと笑う。

 しばらく喉で笑っていたルガートに、最終的に両手で顔を覆っていた指の隙間からそっと覗く赤ら顔にまた笑った。


「…………はしたなくはございません?」

「何でだよ。どこか行きたいとこでもあるのか?」


 手を差し出せば躊躇いがちに手を乗せるフレインが頬を緩める。

 身長差があるせいで、腕を掴むより手を乗せている方がフレインの負担も少ない。

 緊張していた様子は既になく、安心したからか、すっかりいつもの笑顔で見上げていた。


「ルガート様はコフト宝石店に行かれまして? 以前お話ししたアウロ国の鉱石が入荷したと父から聞きましたの」


 またとない朗報だった。

 建国祭でティリスフィリスが話し始めた宝石から目星をつけていたルガートは、自国に入荷した際には購入しようと決めていた。

 予想よりも早い入荷に気分も上向く。


「ほんとか? 守り石用にと思って実物見てみたかったんだ」

「ではそこへ参ってもよろしいでしょうか? わたくしも拝見したかったのです」

「いいぞ。道案内頼む」

「お任せくださいまし」


 王都の街は道も広い。

 馬車も余裕で三台は横行出来そうな広さに、道の端でのんびり店を外から冷やかしながら向かう。

 初めて来るからどんなものがあるかも見てみたかったので、かなり楽しめている。

 途中、フレインもゆっくりに変わった歩調に立ち止まってその店へ促して入れば、なかなか可愛らしい内装の店に少しだけ居た堪れなくなるも、まあ女の子だなと付き添った。

 可愛らしい雑貨店はどうやら貴族の令嬢達には受けのいい人気店で、学園に行く時はここの雑貨を揃えるのが楽しみだと弾む声に軽く相槌を打つ。


「女の子ってそういうの好きだよな」

「お気に入りのものは揃えたくなります」

「ピンクとか?」

「わたくしは、こちらの薄い紫色や水色などが好ましいです」


 手に取った長めのレースのリボン刺繍。

 薄い水色は白に近く、だがフレインの瞳の色に一番近かった。

 よく合っているとふと笑い、それを取って店員に手渡しに向かう。


「ルガート様?」

「今からでも十分使えるだろ」


 小さな袋に包まれたそれを手渡し、次行くぞとドアを開けて先を促すよう振り返った。

 外から注がれる太陽の光で染まった頬が、やけに綺麗に見えたのは気のせいじゃないのだろう。

 言うほど日数をかけた付き合いではないけれど、いつも見ていた笑顔は少しだけ、大人びて見えた。

学生向けに文房具から日々の雑貨、アクセサリーを色別に陳列、取り扱っております!

フリルもリボンも貴方のテーマカラーとしてひとつ揃えてはいかがでしょう?

七色の庭へようこそ!


(……目が痛い)

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