51.ギルド本部
基本的に冒険者を恙無く送りたいのであればギルドに登録しておくのが一般的。
噂で耳にしていた程度だが様々なサービスが利用可能となるも、ルガートは気にせず今日まで野良でいた。
ギルドに登録した場合、クエスト斡旋や個人へ直接依頼、ギルドからの申請依頼が主なのだから下手に登録すると自由も制限される。
野良ゆえに奔放すぎる行動、そしてそれは当然ながらギルドの規律から反した行為に気付いていないルガートに、ジミトリアスは肩を震わせてだいぶ失敗している引きつり笑いを堪えていた。
「履修選択に制限がないなら、そのまま冒険者にもなれるか?」
学生のうちにやれることなど限られるが、登録できるならこの辺りの時期に行っておけば以降は長期休みに何かしらできよう。
殊更残念がる父の顔を見て、また賭けでもしていたのは容易に想像できた。
「ほらジミトリアス! 絶対そこに喰いつくに決まってたろう! なぜ今教えた!」
「可愛い弟からの質問をぞんざいに扱えというのですか父上。結論を言えば可能だ。しかし在籍は長期であってもたった一年余りなのだから、学園からの許可とギルドからは仮登録証を作成してもらわなければならん」
「……兄貴、何でそんな詳しいの」
「お前がきっと冒険者一択だろうと調べておいたんだ」
「そうか。手間が省けて助かる。ありがとう」
「ほらなああ? 言ったろう?」
「父上、どうせ全員冒険者に賭けるつもりでしたら無意味でしょうに」
学園からの許可証をギルドへ提出すると学生の身の安全を配慮し、依頼やクエストに制限がかかるのだという。
まあ、学業優先中に死ぬのは流石の学生でもごめんだろう。
扱わせてくれる難易度も中級以下程度のものばかりなので、よほど妙な依頼でない限り死にはしない。
「ダンジョンへの制限もかかるからな」
「むしろダンジョンがあったことに驚いてる」
「うちの領地にもあるよ」
「あんの?!」
「その調子で絶対喰いつくと思ったから、今まで黙ってたんだよ」
ソワッとするルガートに嗜めるように頭を抱えた父マクベス。
現在進行で単身あちこちへ向かうことを考え、そして身体の成長も併せて沈黙を選んで正解だったと溜め息を吐いている。
兄までも苦笑するが、説明してくれるのは正直有り難い。
「ダンジョンは基本的に魔物の生息地とされているから、“竜の籠”もあながち間違いではない」
「へー」
「そういった場所は各地に点在しているが、固定の魔物しかいないのが特徴だ。対して今話すダンジョンはそういった常識が一切通用しない」
「ふーん」
「地下型のダンジョンが主で、階層を進むごとに魔物も強くなる。“竜の籠”のような固定型と違い、あらゆる魔物が組み合わさって強襲してくるところだ」
「……はー」
「ジミトリアス。ルガートの反応を見なさい。興味の欠片もなさそうだぞ」
そうではないのだが。
「もう一回入ってるからな」
「「……」」
「“竜の籠”で多分それっぽいところ見つけたから、確認がてらに入った」
「「……はあ!?」」
父と兄の顔が見事に一致した。
「お、おまお前は!! なんて無茶を!!」
「怪我! 怪我はないのか!? というか聞いていないぞそんな場所は!! いつ入ったのだ!!」
「三回目の頃だったかな? 案外見つかりにくい場所だったから入るのも苦労した」
「それなら入らんでいいだろう!!」
「なぜもっと早く言わない!! “竜の籠”にダンジョンができていたなど初耳だ! いや行く者もいないから知りようもなかったが……そういえばやけに向かう頻度が多いと思ったらそれか! 至急ギルドに報せねば! ルガート!! 一緒に来なさい! まったくこの子は!」
「はーい」
立ち上がって慌しくなる父と兄の様子と正反対のルガートも支度を済ませて、向かったのは王都にあるギルド。
ギルド本部はもちろんながら王都に構えており、国内で支部も建てられているもののその数は少なく、主に公爵領で管理されている。
魔王を頂点に跋扈していた魔物の数もその全盛期に比べると少なくなったというのも理由の一つらしい。
ギルド本部のドアを潜り、先に知らせを送ったのか、受付に問い合わせるとすぐに三階へと通された。
建物内は割りと小綺麗な印象を受けたが全盛期でないからなのか、人が閑散としているのが妙に引っかかった。
「初めましてボスティス侯爵様。私はギルドを取りまとめております、リッツァ・プールと申します」
「初めまして、プール男爵。お噂はかねがね。お会いできて光栄ですよ。こちらは息子のルガート」
「初めまして。ルガートと申します」
ギルド長というとおっさんや筋肉隆々のイメージだったが、目の前に現れたのはおそらく妙齢の女性で、とても冒険者をまとめる人には見えなかった。
黒いロングヘアをサイドに束ねているだけの雑な髪型でもどこか色気がある。
ギルドに似つかわしくない真っ白い皮のボンテージだかミニワンピがなおさら役職に合致しない。
そしてやけに丈が短い。
ぴったりしたその服から主張する胸がかえって窮屈そうだった。
「私のことはさておき、新たなダンジョンを発見したとか」
「ええ。息子が見つけたまではいいが報告には疎かったようで、今日まで放置していたことはお詫び申し上げる」
「地下型ダンジョンは基本、害はありませんのでお気になさらないでくださいませ。ルガート君、と言っていたわね。詳しい場所や特徴を教えてくれるかしら」
ガキに向けるにはやけに色っぽい表情をするなと使い古してる地図を出し、入ってすぐに出されたお茶を少しずらしてテーブルに置く。
「手書きで見づらいのはご容赦ください。これが“竜の籠”の地図で、ダンジョンを見つけたのは——」
「ちょっと待って」
「は?」
瞠目するギルド長が手を挙げ制止をかける。
微かに震える体に怪訝に見つめ、見開く目をそのままルガートに向けた。
「これは、手書き?」
「そうですが」
「少々お待ちを。中座をお許しください。すぐに戻って参りますから」
笑顔は崩さなかったが慌てた様子で部屋をあとにしたリッツァに父と顔を見合わせる。
首を横に振る父にもどうやら思い当たる節はないらしい。
「何だ?」
「さあ。手書きが珍しいのか? どこも変なところは見当たらんが……」
「お待たせいたしました!」
一人増え、いやもう一人いる。
二人を連れて来たギルド長の顔はどこか紅潮していて、父と目を点にさせながら話の続きの前にとテーブルに乗せられた何か。
置かれた瞬間、聞こえたのは金属の擦れる音。
「え?」
「この地図、買い取らせていただけませんか?」
「「は?」」
本題へ入る前に思ってもいない申し出に父と声が被る。
「実は“竜の籠”は地元民でも困難なほどの入山が厳しい場所。そこを! こんな正確な地図も作成した上でダンジョンまで発見されたルガート君、本当に、こちらの地図は“竜の籠”のもので間違いないのですね?」
「はい、証拠を提示するなら、以前ブルースター公爵に火竜の素材を提供していたんで、問い合わせて構いません」
「か……!?」
「火竜を……!」
「倒した!!?」
見事な言葉の繋ぎ合わせにこの人達面白いなと頭を掻く。
地図を提供するとなると清書に時間もかかるが、まだ完成し切れているか怪しい地図を見下ろす。
半端を渡してあとから難癖をつけられたら面倒だろうから、念入りに探査しないといけないな。
「買い取りたいと言われても、まだこれちゃんと仕上がってねえし、個人的にまだ使うんです」
「と言うことはまた“竜の籠”へ向かう予定がある!?」
ぐっと体を前に倒すギルド長。
心なしか、隣の二人も興奮気味に見える。
「ええ、まあ……」
「それならばその日取りいつか教えていただいてもよろしいでしょうか!?」
「いや、早くても再来週の予定…」
「お邪魔でなければギルドの熟練者どもをつけてよろしいですか!?」
圧……! 強い……!!
三人共々身を乗り出しギラギラの目でこちらを見つめていた。
身を引こうとしたルガートだったが、にこにこと貴族然とする表情の父が背を支えて留めさせる。
こういう時でも教育するとか。
苦笑しかけたルガートも一度咳払いをして場を整える。
ギルド側の人達も正気を取り戻し、前のめりから体を起こし上げ、謝りながら居住まいを正した。
「それはギルドからの依頼ととっていいのか?」
「はい。正式に依頼したいのは“竜の籠”での護衛、そしてダンジョンへの案内をお願いしたいです」
どちらのダンジョンも生息地から魔物が離れることはまずないです。




